第69話 コンテスト申し込み②
『竜の巣』の申し込みデスクを離れんとするクルチアたちは、タカラヅカ・アリスに捕捉された。
「ミツキくーん!」
小柄なアリスが人波を懸命にかきわけて、近づいて来た。
「おはようアリスちゃん。 あなたもコンテストに参加するの?」
アリスはクルチアを可愛くジロリと睨み付ける。
「フン、そんなわけないじゃん。 自分の事業所があるのに。 暇つぶしに来ただけ」
アリスはクルチアからそっぽを向き、ミツキの腕を取った。
「ねえミツキくん、どこかのコンテストにエントリーしたりした?」
ミツキが首を横に振ったので、アリスは胸を撫で下ろす。ホッ、良かった。
「どこのコンテストも受けないでね?」
「うん」
ミツキに異存はなかった。
◇
クルチアが性懲りもなくアリスに尋ねる。
「アリスちゃんの事業所はコンテストやらないの?」
アリスは鼻で嗤う。
「フン、やるわけないじゃん。 予選で落ちたザコなんかアタシの事業所に要らない」
コンテスト出場者は公式戦に出場し予選で敗れた者が大部分だ。 歯に衣を着せぬアリスの発言に、周囲が殺気立つ。 しかし声の主が天才少女タカラズカ・アリスだと知り、誰も表立って怒りの声を上げはしない。
けれどクギナはアリスを知らなかった。
「おいイナギリ、この生意気なのは誰なんだ?」
アリスはクギナを キッ と睨み付ける。
「ナマイキ? あんたアタシを知らないの? あたし本戦に出場する人なんだけど?」 天才戦士なんだけど?
「本戦に出場ぅ? 嘘つくなよな!」テメー
放っておくとクギナがアリスに倒されてしまうので、クルチアは急いでアリスをクギナに紹介する。
「嘘じゃないのよ、オウリンさん。 この子はタカラズカ・アリスちゃん。 予選の二次会場で一緒になったの」
クギナはショックを受けた。 マジかよ、この人そんなに強いの? クギナの体を流れるオークの血が目を覚まし、クギナに訴える。 この人に逆らうのはよせ! クギナは血の訴えに従い、アリスから目をそらした。
目をそらしたクギナをアリスは値踏みするように眺めていたが、やがてクルチアに尋ねる。
「アンタの友達?」
「うん、クラスメート。 オウリン・クギナさん」
◇
次にアリスはトオマスに目を向けた。
「そっちの男の人は? あんたの彼氏?」
クルチアの頬が一瞬で真っ赤に染まる。
「え? 違う違う」
両手を顔の前でブンブン振って否定。
「違うの?」ずっとアンタを優しい眼差しで見てるけど?
トオマスが誇らしげに宣言する。
「イナギリさんは僕の敬愛する主君だ」
「え、まさかイイ年して貴族ゴッコ?」
アリスはクルチアたちから後ずさった。 ズサッ。 変な人たちからは距離を取りたい。
クルチアが再び頬を赤らめる。
「いや、ちが... こっ、この人はナイトリングなのっ!」 後ずさらないで。
トオマスがナイトリングだと知り、アリスの目が興味の光を帯びる。
「あんたナイトリングなの?」
◇◆◇
たまたま近くにいた男も、強く興味を引かれた。
(ナイトリングだって!?)
この男、実は『竜の巣』の所長。 トオマスのゼッケン番号を確認するや足早にその場を去り、申し込みデスクを担当する所員のもとへ。 ひそひそ耳打ちしたり、トオマスを指さしたり、提出済みの申込用紙をパラパラめくったりと、不穏なことこの上ない。
しかしクルチアたち5人は誰一人、その不審な動きに気づかなかった。




