第68話 コンテスト申し込み①
ダレノガレ武術大会の本戦は、月曜日の午後から行われる。 日曜日の丸一日と月曜日の午前は、5つの有力ハンター事業所がコンテスト形式の採用試験を実施する。
というわけで、日曜日の早朝からクルチアら4人はコンテスト会場たる第2屋外競技場に来ていた。 コンテストには予選に使われた32の試合場が利用される。
「たくさん参加するのね」
会場には数百人の参加希望者が集まり、本大会に劣らぬ熱気を放っている。
「有力ハンター事業所に入るには、この手のコンテストで合格するしかないからな」
クギナが意外な博識を示した。
「そうなの?」
「ああ、事業所に行っても試験してくれない。 門前払いさ」
「オウリンさん、試験してもらいに行ったことあるの?」
「うるせえ」
◇◆◇
「武器を貸りれるかしら?」
名門事業所のレベルを体験してみたいが、クルチアは武具を持ってきていない。
「『金の盾』のコンテストならな。 あそこは木刀で試験だ」
「ありがとうオウリンさん。 いつもと違って頼もしいのね」
「ヘッ、いいってことよ」
クギナはクルチアの謝辞が含む皮肉の要素に気づかなかった。 クルチアに皮肉の意図がなかったから。
クギナは折り畳まれたチラシを懐から取り出し、クルチアの手に押し付ける。
「このチラシを見ろよ。 詳しいことが書いてある」
「これ何?」
「コンテストのチラシだ」
◇
クルチアはチラシを読み終えた。 コンテストを開催するのは、次の5つの大手事業所:
1. バスターズ
2. マキハタヤ・マリカの魔法堂
3. 金の盾
4. 天心ハンター事業所
5. 竜の巣
コンテストは3つの部に分かれ、1. と 2. および 3. と 4. は並行してコンテストを開催する。 だから5つ全部には出場できない。 最大で3つだ。
「私は3つに出場する。『バスターズ』と『金の盾』と『竜の巣』だ」
クギナが宣言した。
「トオマス先輩は?」
「クギナと同じく」
クルチアは嬉しく思った。 トオマスもクギナも大会に出場しそびれたが、コンテストに3つも出場するならダレノガレ市まで来たのが無駄足にならない。
◇◆◇◆◇
第2屋外競技場を最初に使用するのは『バスターズ』と『マキハタヤ・マリカの魔法堂』。 2つの事業所は32の試合場を分け合って、コンテストを同時進行。 ゆえに、この2つの事業所の同時受験は難しい。 クギナもトオマスも『魔法堂』より『バスターズ』のコンテストを選んだ。
クルチアたちは『バスターズ』の申込みデスクへと向かう。
「参った!」
『バスターズ』に割り当てられた試合場の1つから降参の声が聞こえてきた。 早々と決着がついたのだ。
「急げ、もうコンテストが始まっちまってる」
クギナが皆を急かした。
『バスターズ』のコンテストでは、先着順にペアを組ませ試合をさせる。 だからコンテストの参加を受け付けつつ試合が進行される。
◇◆◇
『バスターズ』の参加申込みデスクにて、コンテスト参加申込書にクギナは即座に署名し提出。 しかし几帳面なトオマスは、申込書に小さな字で書かれた注意事項にも目を通している。 傍らで他の参加者が続々と申込書を提出する中、1人だけ丁寧に申込書を読んでいる。
クギナはトオマスを急かす。
「何やってんの? 早く署名しちまえよ」
「いや、実務経験が3年以上必要だって」
「バレやしねえよ」
「いや、しかし」
「ダレノガレまで来て何もせず帰るのか?」
「それに、採用を宣言された時点で『バスターズ』との契約が発生だと...」
「契約? 望むところじゃねえか」 入所1年目で年俸800万モンヌらしいぞ?
「いや僕はあくまでも腕試しだから」
「今日勝ち残って、明日の二次選考でバックレちまえ」
こうしてトオマスは申込書にサインした。
◇
戻ってきたトオマスとクギナを、クルチアは笑顔で出迎える。
「ちゃんと申し込めた?」
「ああ。 私たちの試合は2時間後だ」
クギナは右腕にはめた腕章をクルチアに示して見せた。 エントリー番号が書かれた腕章である。
「そんなに待つの?」
「参加者が多いからな」
『バスターズ』のコンテストは大人気。 参加者は約400名だ。
「今のうちに他の2つも申し込んでおこう」
クルチアたちは、『竜の巣』のコンテストの申し込みデスクに向かった。
◇◆◇◆◇
「ここもか」
『竜の巣』も採用通告と同時に契約が発生する仕組みだった。
「1つも2つも同じだろ。 早く署名しちまいな」
クギナに促され、トオマスはエントリー申込書に署名した。
「じゃあ、これ着けといて」
係員がトオマスとクギナに手渡したのはゼッケン。『竜の巣』は腕章ではなくゼッケンだ。
トオマスは早速ゼッケンを着用し、クギナはそれをからかう。
「オマエ、『バスターズ』のコンテストにもそのゼッケンを着けて出んの?」
「ダメか?」
「いや、いいけどよ...」




