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クイックリングちゃんドロップキック!  作者: 好きな言葉はタナボタ
第五章

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第65話 オーマイ・ピュアハート①

トワコと別れたクルチアとミツキは、ダレノガレ競技場の出口へ向かう。


「トオマス先輩とオウリンさん、どうしてるのかな?」


トリモチの除去に手間取っているのか、それともどこかで試合を観ていたのか?


「さあ」


ミツキはあまり興味がない様子。


トイレが目に留まり、クルチアは尿意を覚えた。


「ちょっとトイレに行ってくるね。 ミツキ、知らない人に声を掛けられても付いていっちゃダメよ?」


そう言い置いて、クルチアはトイレの建物に入って行った。


           ◇◆◇


トイレの建物の脇でクルチアを待つミツキ。 それを見て、オーマイ・ピュアハートは溜飲を下げた。


(ようやく1人になったわね)


オーマイはエクレア小国の東方に位置するタメリク帝国のエージェント。 ミツキの初戦で驚きの速さが確認された後、エクレア国内に帝国が有する拠点から送り込まれた。 任務はもちろん、カスガノミチ・ミツキの引き抜き。 エクレア小国がカスガノミチの市民権を剥奪し捕獲しようとした事件を帝国の諜報部は掴んでいた。 両者の間隙を利用し、クイックリングの血筋を帝国に導入するのだ。


(尾行を始めてから、ず~っと2人は一緒。 どんだけ仲がいいんだか)


オーマイは金髪で美女。 だから本件のエージェントに選ばれた。 カスガノミチも小なりと言えど男性だから美人に弱かろう、頭髪の色がカスガノミチに近いと良いかも。 そんな理由で選ばれた。


(ともかく、あの小娘が出て来る前にカスガノミチを連れ去りましょう)


オーマイは足早にターゲット(ミツキ)に向かって歩き始めた。


           ◇◆◇


ミツキへと歩み寄ったオーマイは、腰をかがめてミツキに挨拶。


「こんばんわ、ミツキくん♡」


子供相手には同じ目の高さで話すと良いと聞いたことがあった。


「誰?」 なんでオレの名前を知ってんの?


「あなたに素敵なお話があるの♡ ここじゃアレだから、ちょっとあっちでお話しましょ?」


そう言ってオーマイはミツキの手を取る。


(や~ん、ネチャネチャ してる。 それにしても小さな手。 力も弱そう。 このまま力ずくで持ち帰れそうだけど...)


さすれば巧言令色の労を省ける。 しかし相手はクイ混じり。 下手に下心を抱くと、次の瞬間には手首とかの関節を()められそう。 オーマイは小さく頭を振り、恐ろしいイメージと怠け心を振り払った。


            ◇


オーマイはミツキの手を引いて、トイレの建物から離れて歩き出す。 ちなみにオーマイが男性なら、こうはいかない。 手を握られた時点でミツキは拒否反応を示す。 タメリク帝国諜報局の人選は正しかった。


いくらか歩いたところでミツキが疑義を呈する。


「どこまで行くの?」


「そうね。 じゃあ、そこのベンチにしましょうか」


もっとトイレから距離を取りたいが、致し方なし。


            ◇


ベンチに座ったオーマイとミツキ。 オーマイはミツキの頭越しに、トイレの建物に鋭い一瞥を送る。 あの娘が出て来る前にカスガノミチと話をつけねば。


「単刀直入に言うわね。 ミツキくん、タメリク帝国はあなたを貴族として迎え入れる用意があります」


「オレがタメリクで暮らすってこと?」


「ええ。 ミツキくんはエクレアの市民権を奪われて、 軍に狙われてるんでしょう? それで家も追い出されて」


「うん...」


可愛いくも寂しげなミツキの横顔に、オーマイの胸は不覚にもトキめいた。 キュン。 あ~ん、愛しい!


オーマイは職務をしばし忘れ、本気でミツキの頭を撫でる。


「辛かったわねえ、ミツキちゃん」ナデナデ「でも、もう大丈夫。 タメリクに来れば安心して暮らせるわ」


「ほんと?」


オーマイはミツキに微笑む。


「ええ、ほんと。 貴族ですもの。 みんながあなたを大事にしてくれる。 立派なお家に住んで、毎日ご馳走を食べられる。 あなたは何もせず、毎日かわいい女の子と遊んでればいいの」ナデナデ「ウフフ 私とも遊んでみる?」


帝国はミツキを始祖とするクイ混じりの血統を国内に定着させたい。


「クルチアも一緒でいい?」


それまでと違ってミツキの口調に力強さがある。 本気で移住を検討し始めた。


オーマイはミツキの心境の変化に気付き、勢い込んで答える。


「さっきの女の子? もちろん構わないわよ」


そのとき、クルチアがミツキを呼ぶ必死な声が聞こえてきた。


「ミツキっ! どこなのっ!」


トイレから出てきたのだ。


「こっち!」


ミツキがクルチアに向かって叫ぶのを、オーマイは手をこまねいて見守るほかない。 もう少しミツキちゃんと2人きりでお話したかったが致し方なし。 少なくとも、あの娘に邪魔されることなくミツキちゃんが移住を前向きに検討するところまで持っていけた。

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