第64話 トワコの頼み事②
疲労が見え隠れするクルチアに構わず、トワコは話を続ける。
「ウチの滝に来た役人には、我々が開祖の血筋だと納得してもらえた。 しかし彼らは言うのだ。 "それはそれ、これはこれ。 滝を取り戻すには役所にいる上司を納得させる必要がある" とな。 そこで山を降り役所を訪れたが、滝管理局に行くと林野局に行けと言われ、林野局に行くと滝管理局にと言われる。 おまけに何かを尋ねるたびに回答まで1~2週間を待たされる」
トワコは暇を持て余して武術大会にエントリーしたわけだ。
「それでミツキの力を借りたいと?」
「そうだ。 もはや特別なルートで国に働きかけるしかない。 どうだ力を貸してくれるか?」
当初はミツキに向けて話していたトワコだが、ミツキが交渉相手たり得ぬと判明し今ではクルチアと話をしている。 ミツキはクルチアの膝を枕に、満天の星のもと安らかな寝息を立てている。
「う~ん、コトが大きすぎて私の一存では...」
そう言ってクルチアは、膝の上に乗っているミツキの頭の亜麻色の髪をいじる。
「お主のほか誰の意向が問題なのか? ミツキはそなたに全てを委ねる様子。 そなたの一存で決めて良いのだ」
「え~、でもー」 なんだか大変そうだしー。
とりたてて理由もなく逡巡するクルチアを前に、トワコは取り引きを持ちかける。
「わかった、こうしよう」
「どうするんです?」
「察するに、そなたは我流で〈気〉を練習しているだろう?」
忌まわしい言葉 "我流" の登場に、クルチアの心臓は鼓動を1回ミスった。 ドキッ
「あの。 私どこかで〈気〉を漏らしました?」
アリスに我流と指摘され学習方法まで言い当てられた時の恥辱が、まざまざとクルチアの脳裏に蘇る。 抹消したはずの記憶が再生される。
「さきほど、私が着用する籠手を欲しがっただろう?」
クルチアの頬がみるみる真っ赤に染まる。
(じゃあ、あのときトワコさんが私を見たのは... 審判の人たちも... なんてこと。 私ったら、また粗相を。 しかも物欲まる出し。 恥ずかしいっ!)
そして人生に不安を覚える。
(こんな恥ずかしい体になってしまって。 これからの人生どうすればいいの?〈気〉の練習なんかしなきゃよかった...)
その嘆きも〈気〉に乗って放出された。
「嘆くでないクルチア。 ミツキが国に口利きしてくれれば、私が正しい〈気〉を教えてやろう。 さすれば、そなたの悩みも解決される」
「ホントですかっ!」
こうして取り引きは成立した。 眠るミツキの頭越しに。
◇◆◇
善は急げ。 3人はロイヤル控室へ赴いた。 幸いにも未だ在室だった国王はミツキの要請を快諾し、トワコは隠れ滝の管理権を認められることに。 ただし、開祖の子孫である証を滝管理局に提示するのが条件だ。
別れ際にトワコは言った。
「礼を言うぞミツキ、クルチア。 管理権が戻ったら私の滝を訪ねて来るがよい。〈真気〉を手ほどきしてやろう」




