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クイックリングちゃんドロップキック!  作者: 好きな言葉はタナボタ
第五章

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第56話 怒気

「始めっ!」


4つの試合場で審判が同時に試合開始を宣言し、一斉に試合が始まった。


サホウが視線を向けたのは、クイノスケが戦う2番試合場。 試合はすぐに決着がついた。 バスタードソードを片手にクイノスケが無造作に間合いを詰め、相手の喉元に剣先をピタリと突きつけた。 クイノスケに主審が勝利を宣言し、試合終了。


決着を見届けたサホウは額に浮かんだ汗に気づき、手の甲で汗を拭う。 ふぅ、これがクイノスケか。 なんという腕前。 今の試合、一見すると相手選手は棒立ちで敗北。 だが実は相手も熟達の戦士で、クイノスケ相手に熾烈な読み合いを展開した。 でもクイノスケの圧倒的な勘と洞察力に歯が立たなかった。


            ◇


次いでサホウは、ガッディームが戦う4番試合場に目を移す。 まだ終わっていてくれるな。 しかし残念。 ガッディームの試合は終了していた。


「やはりガッディームが勝ったか」


見逃しはしたが、何があったか推測可能。 ガッディームが〈怒気〉を放出して相手選手を射すくめ、寸止めで勝利したに違いない。 クイノスケの戦いぶりを堪能しながらも、サホウは4番試合場に(おびただ)しい〈怒気〉を感知していた。


「よほど無秩序に〈怒気〉を撒き散らしたと見える」


4番試合場では相手選手だけでなく審判団や付近の観客までもが、ガッディームと目を合わせるのを恐れ地面に視線を落としていた。


           ◇◆◇


試合が終わったのに、ガッディームは試合場を退出しない。 試合場の外をじっと睨み続ける。


誰を見ている? サホウがガッディームの視線をたどった先に立つのは、亜麻色の頭髪の小柄な人物。


「1022番!?」


ガッディームが睨むのはミツキだった。


「クイ混じりを? なぜ?」


サホウの視線の先で、ミツキはベンチから立ち上がってジャージのポケットに手を突っ込み、険しい表情でガッディームを睨み返している。


サホウは睨み合う2人に興味を引かれずにいられない。


「いったい何があった?」


お答えしよう。 ガッディームが放った〈怒気〉にミツキが反応したのだ。 ミツキとクルチアが座るベンチは4番試合場の隣。 だからガッディームの放出した〈怒気〉をまともに食らった。 ガッディームの〈怒気〉に対しクルチアは視線を下げて恐縮したが、ミツキの反応は正反対。 戦意を刺激され、ガッディームを睨みつけた。 そうしてミツキに睨まれたガッディームがミツキを睨み返し、睨み合いが成立した。


            ◇


睨み合いに伴いガッディームから再び大量の〈怒気〉が噴出。 ミツキとクルチアのベンチに襲いかかる。


「ヒッ」


クルチアが漏らした小さな悲鳴がミツキの怒りに火を注ぎ、彼の小さな頭を沸騰させる。


(あいつ! 今度は明らかにオレに怒りを向けた。 オレと対戦する時は覚悟しろ。 グーで殴ってやる。 ミスリルのゲンコツでな!)


ガッディームを睨み続けるミツキの袖を、サクラノヒメが引っ張る。


「ミツキ、あの気狂いを刺激するな。 他の者に迷惑じゃ」


サクラノヒメはガッディームの〈怒気〉を受けて平然としている。 自分の強さに絶大な自信があるからクルチアのように恐縮しないし、ミツキほどは器が小さくないから撒き散らされた怒りの波動に腹を立てもしない。


アリスもサクラノヒメと同じ。 平然としている。 アリスはガッディームの〈怒気〉を恐れて床を見つめるクルチアの頭頂部を、ちょっぴり冷たい目で見下ろす。


(この程度にビビる人だったんだ。 ミツキくんの事業所の人だから興味あったけど、興味が失せたかな)

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