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クイックリングちゃんドロップキック!  作者: 好きな言葉はタナボタ
第五章

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第55話 アプローチ

第1グループの選手8人が試合場へ移動するなか、タカラズカ・アリスは肩まで伸びた金髪をなびかせて、ミツキとクルチアが座るベンチへ向かう。


(神速のクイ混じり。 王侯貴族ばかりで普通なら手が届かないクイ混じり。 高嶺の花のクイ混じり。 あたしの最強事業所に、ぜったい欲しい人材!)


アリスの手には1枚の紙。 試合に出場する合間を縫って作成した手書きの契約書だ。


ミツキが腰掛けるベンチに近づいたアリスは、ひとつ息を吸って声を掛ける。


「ねえ」


アリスの声にクルチアとミツキが顔を上げた。


「あたしのこと知ってる?」


アリスの問いにミツキが答える。


「えっと、選手の人?」


「あたしの名前とかは?」


ミツキは首を横に振った。 知りません。


           ◇◆◇


ミツキとクルチアの隣のベンチに座るのは若い男と若い女性。 予選決勝まで残った選手とセコンドである。


アリスの到来に気付いた女性が、男に不満をぶつける。


「サホウよ、またミツキに近づく者がおるぞ」


女性の頭髪は白銀、肌は白、瞳は青。 全般的に色素が薄い。 彼女は森の妖精ドライアドと人の混血種族シルヴァリンなのだ。 名前は "サクラノヒメ"。 年齢は638才。 足元には水たまり。 彼女は水使いなのだ。


"サホウ" と呼ばれたのは気立てと育ちの良さそうな好青年。 甘いマスク・長身・茶色の髪を特徴とする。 フルネームは "コミカグラ・サホウ"。 年齢は24才。


「大丈夫ですよ。 交渉を予約してあるんですから」


2人が共同で代表を務める『金の盾』は、今もっとも勢いのある事業所。 ミツキの獲得に関する紳士協定に参加している。


「もしも、ということもある。 行かんわけにもいくまい」


サクラノヒメは厳しい顔で立ち上がった。 サクラノヒメは既に何度か、ミツキに近づく弱小事業所を撃退している。


ハイヒールの足音も高くアリスへ歩み寄るサクラノヒメ。 水たまりが、その後を追った。


            ◇


サクラノヒメの背中を見送り、サホウは試合場に目を戻す。 4つの試合場で、予選決勝の第1グループ4組の試合が始まろうとしている。 第1グループでサホウが注目するのは選手番号67番のチトセミドリ・クイノスケと211番のガッディーム・ヘイトワイズ。


クイノスケは名門事業所『バスターズ』のエース・ハンター。 鋭い〈気〉を特徴とする恐るべき剣士だ。 "()()ノスケ" という名だがクイ混じりではない。 彼の両親が、"クイックリングのように素早く強い人に育ちますように" との願いを込めて "クイノスケ" と名付けた。


ガッディームはタメリク帝国の軍人。 尋常ではない〈怒気〉を特徴とし、"憤怒の帝王" の二つ名で呼ばれる。


「どちらの試合も見逃せないぞ。 どっちを観ようか」


1試合は5分ほど。 ちょっと目を離した隙に終わってしまう。 両方を観るのは難しい。


           ◇◆◇


「それでね、あたし事業所をやってるんだけど、ミツキくんに―」


いよいよ勧誘の言葉を口にしかけるアリスに、サクラノヒメはツカツカと歩み寄る。


「そこの娘! ミツキから離れよ」シッシッ


犬のように叱りつけられ、アリスは怒りに顔を歪める。


「は?」 何よ偉そうに!


クルチアは、そっと溜息をついた。 また来たのね、サクラさん。

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