第54話 増えゆく審判
ミツキは順当に5回戦も勝ち抜いた。 そして今、6回戦すなわち予選最後の戦いが始まろうとしていた。
5回戦から、戦いの舞台は室内競技場に移っている。 本戦が行われるのと同じ競技場だ。 競技場の変更に伴い観客はフィールドへの立ち入りを禁止され、もっぱら観客席から観戦する。
1千人を超えた選手も6回戦では32人にまで絞られ、戦いのレベルは本戦と遜色ない。 観客の注目度も、そこまでの予選と段違い。 ハイレベルな戦いを期待する観客で観客席は8割がた埋まっている。
◇
壁に取り付けられた魔導式拡声器から運営委員の声が流れ出す。
「ただ今より6回戦を始めます。 第1グループの選手は試合場へ移動してください」
6回戦は16の試合を4つのグループに分けて、4試合ずつ行う。 ミツキは第4グループだ。
「いよいよね」
クルチアはミツキと共に会場の脇に設けられた選手用のベンチに座り、出番を待っている。
「緊張してるのクルチア?」
たしかにクルチアは緊張していた。 予選も決勝まで来ると、試合場にいるのはセコンドも審判も含めて一流の戦士ばかり。 全国的な知名度を誇る花形ハンターも少なくない。 対してクルチアの武術の根幹は体育の授業。 ハンター活動の経験があるとはいえ、気後れせずにいられない。 しかし、それ以上に―
「気になるコトがあるの」
◇
クルチアはミツキに "気になるコト" を打ち明け始める。
「えっとね、4回戦は審判が2人だったでしょ?」
「うん」
「5回戦の審判の人数を覚えてるかしら?」
「2人?」
クルチアはミツキの間違いを冷然と指摘する。
「違うわミツキ。 4人よ。 試合場に立つ審判2人に加えて、試合場の外をウロウロしてた2人も実は審判だったの」
「へー、そうなんだ」
呑気な反応を示すミツキだったが、クルチアの言わんとするコトに気付き愕然とする。
「え?」ちょっと待って、クルチア。「ということは...」
クルチアは深刻な表情と口調で告げる。
「そう、6回戦は審判が8人かもしれないの」
ミツキはクルチアの懸念を共有する。
「まさか、そんなことが」 回を追うごとに審判数が2倍に増えるなんて。
「でもね、そうおかしなことでもないのよ。 考えてみて。 4回戦、5回戦と試合がハイレベルになって来たでしょ?」
「うん」
「それに伴い選手の動きも機敏かつ複雑になってきた」
「オレほどじゃないけど」
「6回戦はもっと動きが機敏で複雑。 おまけにこの大会は寸止め制。 だから―」
「審判がたくさんいないと正しく判定できない!」
クルチアはミツキの明敏さを微笑みで讃える。
「その通りよ、ミツキ」カンパーイ!
◇
クルチアは表情を改め、真剣な顔つきに。
「でもねミツキ、事態はもっと深刻かも」
「どういうこと?」
「本戦は1試合の審判数が32人かもしれないの」
「なんで?」
「ここまでの増え方から、"審判数=32人÷同時試合数" という関係も見いだせる。 審判数が2人に増えたのは同時試合数が16になる4回戦から。 そして8試合が同時に行われる5回戦では、審判数が4人に増えたわ」
「どっちも掛け算すると32だ!」
「その通りよミツキ。 でね―」
クルチアが途轍もないコトを明かそうとしている。 それを予感してミツキは生唾を飲み込む。
「ゴクリ。 なに?」 いったい何なのさ!
「あなたは知っているかしら? 本戦が1試合ずつ行われるって」
ミツキは凍りついた。
「するとまさか」
「そう、本戦は1試合の審判数が32人かも」
32人の審判の注視の中で試合場に立つ自分を思い浮かべ、ミツキはゲンナリする。
「それはちょっと」 勘弁して欲しい。




