第53話 天才美少女戦士タカラズカ・アリス
「勝者、1022番!」
審判から勝ち名乗りを受けるミツキを眺めながら、21番試合場の傍らで何やら話し合う一団がいる。
「つまり、我々の試合の勝敗に 1022番との交渉権を賭けるのだな?」
有力なハンター事業所の代表たちだ。 ミツキに関してとある協定を結ぼうとしている。
「良いアイデアだと思いませんかな? なにしろクイ混じりのハンター。 どの事業所も喉から手が出るほど欲しい。 だがオークション方式では契約金は天井知らず。 途方もない金額になってしまう」
有力事業所の面々はミツキが所属する事業所を調査済み。 『いなぎりハンター事業所』が実績ゼロのペーパー事業所だと知っている。 だからミツキが喜んで引き抜きに応じると信じて疑わない。
「たしかに契約金で無益に競り合うのは抑えられるが...」
「どうしました? 自信がありませんか?」
「いや、そうではない。 1つ疑問があってな。 我々が互いに戦う前に、本戦で 1022番に当たったらどうするんだ?」
有力事業所から出場する選手は、予選ではミツキと対戦しない。 互いに対戦することもない。 入賞候補の実力者同士が潰し合わないよう異なるブロックに配置されるからだ。 いっぽう本戦の対戦カードは、現時点では未定。 予選の終了後に決定される。
「それは運が悪かったと諦めるしかありませんな」
こうして有力事業所の面々は合意した。 最後まで勝ち残った事業所がミツキを引き抜く権利を獲得する。 敗北した事業所は、大会から1ヶ月のあいだ契約に関してミツキとクルチアに接触することを控える。
◇
21番試合場の周辺には資金力に乏しい弱小事業所の者も居合わせ、彼らは大手が紳士協定を結ぶのを諦めの表情で眺めていた。 大手と中小の間には絶望的な資金力の差がある。 だが、中には諦めない者もいる。
(1022番は誰にも渡さない!)
黒髪を金髪に染めたこの美少女の名はタカラズカ・アリス(16才)。 これまで複数の大会で入賞や優勝を繰り返し天才少女戦士の名をほしいままにする人物であり、少数精鋭を旨としたい新進気鋭の事業所の所長にして唯一の所員でもある。
(あたしを零細と見下し協定からハブいたヤツらを後悔させてやる)
大手事業所は紳士協定に縛られ大会終了後まで 1022番にアプローチできない。 アリスはそれを逆手に取ることにした。
◇◆◇◆◇
5回戦から会場が室内競技場に変わるのに伴い、4回戦と5回戦の間には30分の休憩が挟まれる。 その休憩時間を利用して、アリスは大急ぎで町の文房具屋へ向かった。 ミツキの獲得に必要となる筆記用具を買いに行った。 もちろん彼女は4回戦を難なく勝ち抜いている。
◇
アリスが文房具屋でボールペンを選んでいた頃、大手事業所はミツキのもとへ代表者を寄越していた。
「初めましてカスガノミチさん。 わたくしハンター事業所『バスターズ』の副所長ゴシャデン・ユタカと申します」
代表者はスーツ姿の紳士。 かつては自身もハンターだったに違いない、大柄で実に厳つい男性だ。
紳士は大きな手でミツキに名刺を渡し、それをミツキはクルチアに手渡す。
ミツキからクルチアへと素通りした名刺を無表情に眺めながら、ユタカは言葉を続ける。
「われわれ大手事業所は、大会終了後にカスガノミチさんに巨額のオファーをする用意があります。 つきましては―」
◇
大手事業所が9桁の金額をオファーするので、弱小事業所に声を掛けられても無視して欲しい。 それがユタカの要請だった。
「すると、大手事業所がミツキを私の事業所から引き抜くと?」
ユタカはクルチアに向き直った。
「イナギリ・クルチアさんとお見受けします。 無論あなたにも、それなりの移籍金をお支払いする用意があります」
(移籍金? 私がミツキを売り渡すってこと?)
「僭越ながらイナギリさんの事業所について調べさせて頂きました。 あなたは未だ女子高生で、失礼ながら、事業所も営業の実体が見られない。 あなたの事業所に在籍していてはカスガノミチさんは、宝の持ち腐れと言うほかありません」
そうしてユタカは大手事業所の偉大さを語り始めた。 勇猛果敢な多数のエリート所員が在籍し、全国各地に支所があり、取引先は官公庁や貴族...
ユタカが語るほどに、ミツキの表情が暗くなる。 多数の見知らぬ人たち ―それも恐らくは大柄な男ども― の中に放り込まれるのも、不案内な場所に派遣されて迷子になるのも、官公庁や貴族と接して気疲れするのも、ミツキの望むところではない。
◇
ユタカはミツキが示した内向的な拒絶の徴候に最後まで気付かず、ミツキに丁寧にお辞儀をして去って行った。
ユタカが去った後、クルチアは一応ミツキに尋ねようとした。
「ミツキ、あんたさえ良ければ―」
が、ミツキが激しい拒否反応を示す。
「あいつらにオレを売んの?」
ミツキの声がヒビ割れていたので、クルチアは急いでミツキの頭を撫でた。
「バカね、そんな訳ないじゃない」 ナデナデ




