第52話 耳栓
昼休みが終わり、ミツキの予選3回戦。 21番試合場の向こう側に姿を現したのは、人並み外れた巨漢だった。
セコンドを務めるクルチアの顔に緊張が走る。
「気をつけてミツキ、相手はオーガよ」
外見に関してオーガと人間の間に決定的な差異はない。 だがオーガは次の特徴を有する:
1. 異様に大きい。
2. 金髪である。
3. 日焼けすると肌が赤くなる。
4. クイ混じりなど小さな生き物を本能的に憎む。
今回の対戦相手は、4点すべてに合致する。 対戦相手は既にミツキを憎々しげに睨み続けている。 今にも咆哮が飛んできかねない。
「耳栓が必要ね」
クルチアは懐からポケットティッシュを取り出した。
ミツキはクルチアの手がティッシュを千切り、こより状によじるのを眺めていたが、クルチアがそれを口に含もうとするに及びストップをかける。
「待ってクルチア」
クルチアは耳栓を口に放り込もうとする手を止めた。
「どしたの?」
「耳栓はいらない」
今ミツキはクルチアの耳栓が作られる工程を知った。 そういえば、軍務局に襲撃されたとき自分を救った耳栓は濡れていた気がする。 襲撃ではミツキの意識が明瞭になったとき耳栓が既に耳の中に収まっていたから、耳栓が濡れてることに意識は向かなかった。 ましてやクルチアが耳栓を濡らした手段など。
「え、いらないの?」
「濡れてるヤツはちょっと...」勘弁願いたい。
ミツキは言葉を濁した。
クルチアは厳しい表情。
「ダメよ耳栓しなきゃ」
「大丈夫だよ。 試合開始前から加速しておいて、開始と同時に倒すから」
「試合開始の前に咆哮されたらどうするの? この大会にあなたの市民権が懸かってるのよ?」さ、耳の穴をこっちに向けなさい。
イヤだ、濡れてる耳栓はイヤだ。 ミツキの額に汗がにじむ。
「他の耳栓は?」 ちゃんとしたやつ。
「無いわ」
クルチアは無情に突き放し、よじったティッシュを口の中に放り込もうとする。 が、直前で心を変えた。
「なにも私が湿らすことないわね」
さっきとは状況が違う。 クルチアはティッシュをミツキに渡した。 自分で濡らしなさい。
「濡らさなきゃダメ?」
「濡らすことで防音力が跳ね上がるの」
クルチアに促され、ミツキは仕方なく耳栓を口に含んだ。
◇◆◇
「選手両名は試合場へ」
審判に促され、ミツキとオーガは試合場に上がる。 オーガの得物はグレイブ。 長さ2mの棒の先に刃物が取り付けられた武器だ。 対するミツキはミスリル製のガントレットを装備。
審判は試合のルールを改めて両選手に説明したのち、手を振り下ろして試合開始を宣言。
「始めっ!」
始まった次の瞬間に、試合は終わった。 加速したミツキがオーガの逞しい顎の先端を小さな拳で打ち抜き、オーガは脳を激しく揺さぶられて失神。 重い地響きを立ててマットに倒れ込んだ。 ズシーン




