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クイックリングちゃんドロップキック!  作者: 好きな言葉はタナボタ
第五章

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第51話 棄権

試合はミツキが勝利した。 加速したミツキが相手選手の顎を掌底(しょうてい)で打ち抜き、いとも簡単に失神させた。


「勝者、1022番!」


審判がミツキの勝利を宣言し、16番試合場に集まったギャラリーは同じ気持ちを共有する。 やっぱり 1022番もクイ混じりだった!


しかし、その後の反応は人それぞれ。


            ◇


とあるハンター事業所関係者は、携帯ホンを懐から取り出し通話を始める。


「『いなぎりハンター事業所』を調べてくれ。 クイ混じりの所属先だ。 そう、クイ混じりが事業所に所属してるんだ。 大至急たのむ。 他の事業所も動くだろうから」


            ◇


とある外国人は動悸を抑えきれない。


(やはり 1022番が、あのカスガノミチ。 しかし残像すら見えぬとは。 これまでのクイ混じりと一線を画す速度。 味方につけるか始末するか... いずれにせよ放置は厳禁)


            ◇


とある魔女は期待感に胸を高鳴らせる。


(いつかは現れると思ってた。 現れるならエクレアだと思ってた。 やはり現れたわね、クイの血を濃く引くクイ混じり。 1022番なら ウフフフフ、アイツを確実に滅ぼしてくれる)


            ◇


そしてシノバズ・ユズキは、大いにショックを受けた。


(俺も加速してたのに...)


ユズキはミツキと自分の加速度と比較しようと、ミツキの試合前から目一杯加速していた。 なのにミツキの姿は試合開始と同時に消え失せた。 7倍の加速度を誇るユズキから見てなお超高速。 どれほどの加速度か見当もつかなかった。


(あいつ、生粋のクイックリングじゃないのか? どうしてあんな奴が?)


再びミツキに向けられたユズキの視界に、見慣れた姿が入り込む。 兄上! ユズキの兄、シノバズ侯爵だ。 侯爵は笑顔でミツキに話しかけている。 勝利を称えている様子。 周囲に国王の姿は見えない。 兄に話しかけるチャンス。 カスガノミチの正体を尋ねよう。


            ◇


ミツキから離れ一人になった侯爵に、ユズキは急ぎ接近する。


「兄上!」


「おお、ユズキ。 久しいな」半月ぶりか。


ユズキが通う王立高校は全寮制だ。


「ご無沙汰しております」


「どうだ、元気にしているか?」


「はい。 兄上もお元気そうで」


社交辞令を終えて、ユズキは本題に入る。


「兄上はカスガノミチと親しい様子。 差し支えなければ彼のことを教えてください。 彼は何者なんです?」


「そうか、お前はカスガノミチ殿のことを知らんのだな。 彼の父は生粋のクイックリングだ」


「するとカスガノミチはクイ混じりではなく純血の...」


「いや、母親が人間だ」


「ならばクイックリング・ハーフ」


「うむ、彼には今大会で優...」


そこで侯爵はハタと思い出した。 自分の弟が今大会で優勝を任されていたことを。


侯爵が中断した単語の下半分を、ユズキは正しく推測した。 ユズキは兄に問い質す。


「まさか兄上が彼を出場させたのですか? 今回は私に優勝が任されたはず」


「もちろんユズキにも期待しているよ。 お前も優勝を目指して頑張ってくれ」


侯爵はユズキの肩をポンと叩き、そそくさとその場を去った。


残されたユズキは苦々しくつぶやく。


「俺にも期待してるだって? 1022番と俺じゃ、どっちが勝つか分かりきってる」 ひどいよ兄上。


やがてユズキは顔を上げ、決然とした足取りで控室へと歩き出した。 荷物をまとめて会場を去る。 大会を棄権する。 それが、ユズキの優勝を蔑ろにした兄に対しユズキに出来る精一杯の抗議だった。

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