第50話 ガントレット
予選会場へやって来たクルチアとミツキ。 32面の試合場が4×8面で横長に配置されている。 1千人を超す参加者が予選を今日この会場で戦い、6回戦を勝ち抜いた16人が明日の本戦に出場する。
『えー、ただ今より第576回ダレノガレ武術大会の予選を開始いたします』
アナウンスが会場に鳴り響いた。
「ちょうど良いタイミングだったわね」
「オレの試合場は?」
クルチアはナップサックからトーナメント表を取り出した。
「えーと、31番の試合場。 あっち」
◇◆◇
31番の試合場に対戦相手サカラガミ選手は現れず、ミツキの予選1回戦は不戦勝。
そして今、16番試合場で2回戦が始まる。
「双方、試合場へ上がって」
審判に促され、ミツキと相手選手は広さ10㎡の試合場に上がった。
相手選手の装備は長剣と盾。 この大会は寸止め制なので、鎧と兜は使用が認められていない。 対するミツキは革製のミトンを着用。 寸止め制の大会だが、無手で戦うことを選んだ。
しかしミツキのバトル・スタイルに対し、相手方のセコンドから物言いがつく。
「おい審判! 素手で戦うなんてアリかよ?」前代未聞だぜ。
この点に関してクルチアは自信たっぷり。
(アリよ。 素手がダメなんて大会規定のどこにも書かれてない)
ところが審判は物言いに反応。 ミツキに確認する。
「君の装備は、そのグローブだけか?」 前代未聞のケースだ。
審判は試合の進行停止を両サイドに言い渡し、運営本部のテントへ駆けて行った。
「何が問題なの?」
ミツキの問いにクルチアは答えられない。
「わかんない」
答えはクルチアの背後の観戦者から来た。
「相手の立場に立ってみな。 この大会は寸止め制。 武器で相手に出血させると反則負けだから、素手の両腕を体の前に構えられちゃあ、腕が邪魔で攻撃できない」
16番試合場には、ミツキをクイ混じりと見て取った出場選手・セコンド・目利きの観客が詰めかけている。 予選1~4回戦は観客が少ないので、観客もフィールドに立ち入れる。 間近で試合を観戦できる。
◇
16番試合場のギャラリーの中に、シノバズ・ユズキの姿もある。
「正体不明のクイ混じり。 どれほどだヤツの速さは」
クイ混じり同士での対決では、加速の上限が最重要事項だ。
「もし俺より速ければ...」
ユズキは与えられた優勝の役割を果たせず、シノバズの家名は地に堕ちる。
◇
審判が駆け戻って来た。
試合場へ上がった審判は、息せき切ってギャラリーを含むその場の面々に説明を始める。
「ハァハァ お待たせしました。 ええとですね、素手の場合は籠手を付けて戦ってもらうことになりました。 素手の場合、寸止めは有効と見なしません。 代わりに、殴って怪我をさせてもOKです。 籠手は武器じゃないので」
この大会、ミツキは相手を殴るなどして気絶させ勝利するわけだ。
クルチアは小さく挙手。
「あのっ、籠手を持ってないんですけど」
審判は頷く。
「ええ」わかってます。「今大会に限り、籠手はこちらで用意します」
◇
大会役員が籠手を持ってやって来た。 SSSサイズのその籠手は、なんとミスリル製。 鋼鉄製だと強力な攻撃によって切り裂かれるからだ。 戦闘貴金属ミスリルなら、そんじょそこらの攻撃では切り裂かれない。
銀色に輝く美しい小手をミツキの両手に装着させながら、クルチアは羨望を禁じえない。
「よかったわねえミツキ、こんなに美しくて硬い武具を装備できて」
ミスリルには女性を惑わす魅力があるとされる。 クルチアは女の子だし金属製の武具が好きだから、ミスリル製の籠手に注ぐ視線は生半可ではない。 く~っ、私もミスリル装備したい!
セコンド娘の苛烈な視線に不安をそそられた審判は、クルチアに念を押す。
「言うまでもないけど、その籠手は大会のあいだ貸すだけだからね?」 持って帰っちゃダメだよ。
「わかってます」 この籠手は私には小さ過ぎます。
答えながらもクルチアは、ミツキの前腕と手を覆う美しい籠手から目を離せずにいた。




