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クイックリングちゃんドロップキック!  作者: 好きな言葉はタナボタ
第四章

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第45話 バリケード④

ミツキの様子に、隊長は余裕を取り戻す。 兵士たちも緊張を解いた。 クルチアとミツキを(あざけ)る笑い声すら聞こえる。 いかにクルチアの根性が座っていようと、クルチア自身の戦闘力は微々たるもの。 恐れるに足りない。


クルチアはミツキを睨み付けながら、ほとんど絶望していた。


(ミツキ。 あんた、どこまで()()()()()なの? こうなったら...)


気は進まないが仕方ない。 捕獲されれば、どのみちミツキとお別れだ。


「ミツキ、目潰ししないなら、絶交するわよ」


絶交!? 下を向いていたミツキの顔が跳ね上がり、クルチアと目が合う。 とても厳しいクルチアの目。 目をそらしたい。 でも、その前に確認しよう。


「絶交って、ホント?」


クルチアは厳しい目のまま頷く。


「ええ、本当」


クルチアの本気がひしひしとミツキに伝わる。 クルチアに自覚はないが、〈気〉の練習の賜物だ。 先ほどから彼女は "本気" を撒き散らしている。


            ◇


目を潰すかクルチアに絶交されるか。 クルチアが突き付ける選択がミツキを追い詰める。 でも、まだ後退の余地がある。 だからミツキはその余地に後ずさった。


「...わかった。 やるよ」


本当に目潰しするかどうかは置いといて、とりあえずクルチアが望む回答を与えることにした。


「目潰しするのね?」


容赦なく確認を求めるクルチアの目を避けて、ミツキは頷く。


「うん」


必ずしも嘘ではない。 覚悟が定まっていないだけ。 今後の自分の心の動き次第では、目潰しを実行する気持ちになれるかもしれない。 決意を先送りしたわけだ。


ミツキの心の動きをクルチアは見透かしている。


(ミツキったら。 とりあえず返事してお茶を濁すつもりね)


でも、今のところはこれで良し。 目潰しの必要に迫られたときに、今の "うん" を足がかりにミツキに決意を迫ればいい。


            ◇


クルチアは隊長に目を向ける。 今の返事を聞きました? ミツキはやるって言ってますよ? そんなメッセージを伝える目だ。


隊長はクルチアの視線のメッセージを読み取り、降参した。


「参った。 君の勝ちだ」


クルチアは緊張を解く。フウ


「じゃあ、さっそくバリケードを―」


「部下に肉体労働を強いるまでもない。 鍵はある」


「えっ?」


クルチアは呆気に取られた。 すっかり騙されていた。


「バリケードの軍用車の鍵を壊したと言ったのは嘘だ。 鍵はあるんだ」


「どこに?」


目立たない片隅の地面に埋めて、その上に軍用の荷物を置いてある。 しかし隊長は時間稼ぎを試みる。 カスガノミチを大会に遅刻させる望みを捨てていない。


「うむ。 ここから南へ3km進んだ場所に古代のダンジョンがあるのを知っているだろうか。 そのダンジョンの最奥―」


今度の嘘はクルチアに通用しなかった。


「早く鍵を出しなさい。 部下が失明してもいいの? それともあなたが失明する? 両方でも構わないわよ。 ねえミツキ?」


クルチアの "本気" がビンビン伝わり、ミツキは顔面蒼白。 プルプルと首を横に振る。 ビビっているのは傍目にも明白。 しかし脅迫の効果は損なわれない。 クルチアがミツキを完全に支配下に置いているのもまた傍目に明らかだから。 ミツキ本人の意思にかかわらず、ミツキはクルチアの指示を実行するだろう。


「いいなぁ、私もミツキとあんな関係になりたい」


ビビるミツキを見て、クギナは羨望のため息を漏らした。


           ◇◆◇


「私の嘘をあっさり見抜くとは...」 さすが名門校の生徒。


クルチアには敵わない。 そう悟った隊長は素直になり、鍵の真の在り処(ありか)を明かした。 発掘した鍵でバリケードの軍用車を動かし、道路の封鎖は無事に解除。 渋滞の列から歓声が沸き起こる。 軍の所業に他の車も迷惑していた。


しかし時刻はもう8時20分。 あと40分で開会式が始まる。


「急ぎましょう!」


慌ただしく車に戻りかけるクルチアだったが、ふと気づく。 ミツキがいない。


「ミツキ?」


呼び掛けながら辺りを見回すと、いた! 目立たない片隅で膝を抱えて座っている。


もう何やってんの、あの子。 クルチアは乱暴な足取りでミツキの片隅へと歩み寄った。


「早く乗りなさいミツキ。 時間がないんだから」


しかしミツキはクルチアの顔を見ようとせず、(かたく)なにダンゴムシの観察を続ける。


クルチアはすぐにピンと来た。


(もー、また()ねてるのね)


ため息をつきながら、クルチアはミツキの正面に回り込む。


「今度はなんなのミツキ?」


よくぞ尋ねてくれました。 ミツキは重い口を開き始める。


「もういいんだ」オレなんかさあ...


「あ、やっぱり車の中で聞かせてもらうわね」


気が()くクルチアはミツキを抱き上げ、小脇に抱えて車に連れ込んだ。

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