第44話 バリケード③
隊長は自分がその場の空気を支配したのを悟った。
「さあ、大人しく車に入ってなさい。 お上品な名門校の生徒さんに脅迫など出来るものか」
キリッ。 クルチアの口の中で音が鳴った。 歯を食いしばる音だ。
(引き下がっちゃダメ。 ここで言われるままに車に戻ったら...)
ここで引けば、ミツキが市民権を手に入れるチャンスが潰えてしまう。 今日の襲撃も、ひとつ間違えばミツキは捕まっていた。 この大会で市民権を入手しなければ、次の襲撃できっとミツキは捕まってしまう。
手立てはないが引くわけにはいかない。 固まるクルチアを、隊長は今度は強めに促す。
「さあ早く! 車に戻るんだ」
クルチアは喉から声を絞り出す。
「...戻れないわ」
クルチアは決意を開始した。 一線を越える決意を。
無駄に抵抗するクルチアに、隊長は不快感を示す。
「何だと?」
クルチアは伏し目がちに繰り返す。
「戻れない、って言ったの」
◇
隊長もミツキもクルチアの声音の変化に気付いた。 それまでと違う、どこか暗い声だ。 ミツキは不安を顔に浮かべて、隊長は用心深く、それぞれにクルチアの表情を観察する。
周囲の視線を感じつつ、クルチアは決意を推進する。
(本気じゃないから見透かされる。 本気じゃないから言葉に力が無い。 だったら本当に実行するつもりに... いや、本当に実行する。 あの人たちに恨みは無い。 でもミツキを救うには仕方ない。 ミツキのためなら、私は鬼になる!)
肚が決まり、クルチアの心身に決意と力が満ちる。 本気に裏付けられる気迫で、クルチアは改めて宣言する。
「バリケードは動かしてもらいます。 必要とあらばさっきの脅迫も実行します」
隊長はクルチアに向き直った。 クルチアの本気を感じたのだ。
「...どうやら本気のようだね」
「ええ」
答えながらクルチアは、検問チームの兵士たちから畏敬の視線を感じる。 この場にいる全員が、クルチアの言葉を額面通りに受け取った。 クルチアが半端じゃないと認めた。 この女は脅しを実行する。 目的のためなら、どんな非道いことでもやる。 車外に出て来ていたクギナもクルチアを見る目を変えた。 イナギリのやつ、意外にヤバい女だぜ。
むろんミツキもクルチアの言葉を額面通りに受け取った。 顔を青ざめさせ、クルチアから離れようとしている。 クルチアが強い力で手を握っていなければ車内に逃げ込んでいた。
そんなミツキに隊長は着目する。
「君の本気は認めよう。 しかし、君のクイ混じりに脅迫を実行可能とは思えんな」
ミツキにグロ行為が出来ないのをクルチアは重々承知。 しかし彼女の決意はミツキにも適用される。 クルチアはミツキに覚悟を求める。
「できるわよねミツキ?」
強い調子でイエスの返事を求められ、ミツキは下を向く。
「えー...」
クルチアは握っていたミツキの手を離し、正面に向かせて両肩を強く握る。 ギュッ。 クルチアにしては乱暴な仕草だ。
「やるしかないの。 できるわね?」
「...」
クルチアに肩を揺さぶられながら、ミツキは無言を貫く。 この期に及んで目潰しを嫌がる。 彼の根性なしは筋金入りだった。




