第43話 バリケード②
意気揚々と車外に出たクギナは、バリケードを構成する軍用車の1台の下部に手をかけた。 フンッ! 遠目にもクギナの体に力がこもるのが見て取れる。 軍人たちもクギナを邪魔しない様子。
皆が見守るなか、軍用車の後輪2つが地面から少し浮いた。
「頑張って、オウリンさん!」
ハイペースで積み上がる "貸し" のことはひとまず忘れ、クルチアは車の中から声援を送る。
しかし声援むなしく、後輪は再び地面に接地。 ズシーン。 巨大な軍用車は、さすがにクギナ一人の手に負えなかった。
◇◆◇
すごすごと戻ってきたクギナの労をクルチアはねぎらう。
「ご苦労さま、オウリンさん。 残念だったわね」
クギナは目を合わせず、不機嫌に答える。
「ああ」
◇
クギナの失敗は、クルチアの中に1つのアイデアを生んでいた。
(オウリンさん一人でも車体は持ち上がった。 オウリンさんが皆と力を合わせればきっと...)
クルチアが言う "皆" とは、クルチアやミツキのことではない。 軍の検問チームの面々を指す。
むろんクルチアが普通に頼んでも彼らは応じない。 クルチアと利害が正反対だから。
(でも頼み方を工夫すればきっと...)
クルチアが言う "頼み方を工夫" とは脅迫。 ミツキを用いて兵士を脅迫する。
(私に脅迫なんて出来るかしら?)
クルチアは女子高生、しかも1年生。 だから脅迫の経験はない。 兵士を脅すのも気が進まない。 でも...
(ミツキのためだもの!)
クルチアは決意の眼差しでミツキを車外へと誘う。
「行きましょうミツキ」
ミツキはクルチアの眼差しを少し恐ろしく感じたが、言われるまま後について外に出た。
◇◆◇
車外に出たクルチアはミツキを傍らに立たせて手を握り、検問チームの兵士一同に向かって声を張り上げる。 クルチアは学級委員長だから、多人数に向けて話すのに慣れている。
「ハイ 注目! 今からあなたたちに、バリケードの軍用車を撤去してもらいます!」
兵士たちは目立った反応を見せず、隊長がツカツカとクルチアの前にやって来る。
「勝手な指示を出さないでもらおうか!」
指示を出し慣れる様子のクルチアに、隊長は危機感を抱いた。 うかうかとクルチアの指示に従う兵士がいたら大変である。 隊長としての管理能力を問われ、降格されてしまう。
クルチアは緊張に汗ばむ両手を握りしめ、隊長と隊員の両方に向かって、さらに叫ぶ。
「私の指示に従わないと、ここにいるミツキが、あなたたちに酷いことをします!」
クルチアの脅迫は、あんまり脅迫として認識されなかった。
「なんだ?」「何を言っている?」「ひどいこと??」
◇
いまいちメッセージが伝わらないので、クルチアは具体的な内容に踏み込む。
「バリケードの撤去に協力して頂けないと、ここにいるミツキがあなたたちの目を潰します。 魔法でも治せないぐらい無惨に潰します。 あなたたちは失明します」
クルチアは兵士たちの顔を見回し、自分の言葉の効果を確認する。 気味悪そうにクルチアを窺う者、判断を求めるように隊長に視線を向ける者。 クルチアが脅迫していると伝わりはしたが、差し迫った脅威として受け止められていない。 クルチアの本気度を測りかねている。 ミツキはクルチアの袖を引っ張り、クルチアが顔を向けると首を小さく横に振る。 そんなこと出来ないと訴える。
クルチアに負けじと隊長が兵士に向かって叫ぶ。
「惑わされるな! はったりだ。 カスガノミチは生き物を刺すのが嫌で剣を使えない。 目を潰すなど出来るものか」
「できます! できるわよねミツキ?」
声を張り上げながらクルチアは感じる。 自分の声が空疎に響くのを。 誰よりもクルチアがよく分かっている。 ミツキにグロい真似が出来ないことを。




