第41話 押し付けられた約束
勝利を収めたクルチアたちは、装甲バスに戻り旅路を再開。 そのはずだったが無理だった。
まず運転手が、投網に包まれたトオマスや武具を持ち込むのに難色を示した。
「おいおい困るよ。 そんな物を運び込まれちゃあ」
検問が解除されていないのも問題だった。
「検問を強引に突破しろ? バカ言っちゃ困るよ」
おまけに、男性客が2人まだバスに戻っていない。
「バカを言うな。 お客さんを置いて出発しろってのか?」
◇◆◇
クルチアたちは困ってしまった。
「困ったわね。 早く逃げないとオーガが目覚めちゃう」
ミツキは例によってKOしただけ。 兵士はみんな生きている。 今回の相手はモンスターではなく兵士だから、クルチアがトドメを刺すわけにもいかない。
クギナが装甲バスの付近に停められた軍用車を指差す。
「あいつらの車をかっぱらおうぜ」
「かっぱらうって...」盗むってこと?
「検問を突破し、ダレノガレ市の近くで乗り捨てよう」
「それって犯罪じゃないの?」
「ミツキがやったことにすりゃいい」市民権が無いミツキはアウトロー。 怖いもの無しだ。
「そんな」ミツキに罪をなすり付けるなんて。
ミツキは気絶して地面に倒れる手錠係の懐を探っている。 手錠の鍵を探している。 両手首に残る手錠の輪っかを取り外したい。
「他に方法はねえだろ」
「でも誰が運転するの?」
「なんとかなるさ」
◇◆◇
結局、軍用車を奪うことになった。 1台の軍用車を選び、他の車のキーは全て抜き取って回収。 追手を阻止するためだ。 さらに、投網に包まれたトオマスと武具を後部座席に運び込む。
「しばらく我慢してくださいね、先輩」
トオマスを投網から解放する時間が惜しい。
「出発だイナギリ。 早くしろ」
クギナは当然のようにクルチアを運転席に追いやり、自分は後部座席へ。 懐からナイフを取り出しトオマスを包む投網を切り裂き始めた。
「待ってろ、トオマス。 いま私が助けてやる」
◇◆◇
クルチアは見よう見まねでエンジンを始動。 色々なペダルを踏むうちに、軍用車はなんとなく走り出した。 不慣れな手付きでハンドルを掴み、渋滞する道路の脇の荒れ地をノロノロと進む。
「なんとかなりそうね」
クルチアは助手席のミツキに語りかけた。
後部座席からクギナが罵り声が聞こえて来る。
「くそっ、トリモチめ」 刃にひっついて仕方ねえ。
クルチアは運転しながらクギナにアドバイスを送る。
「トリモチを取るには油が良いそうよ」
「油ぁ?」そんなもん持ってねえよ。「ちくしょう、これじゃ大会にも出場できねえ」
トオマスの武具もトオマスも、クギナの武具も投網に包まれている。
「ごめんなさいね、オウリンさん。 トオマス先輩も」
クルチアは後部座席に向かって謝った。 クルチアがトオマスに護衛を頼んだから、彼らは大会に出場できなくなった。
投網の中からトオマスのくぐもった声が聞こえてくる。
「謝罪は不要だ、マイ・レディー。 ミツキくんを守れて良かったよ」
◇
今の会話の何に触発されたのか、突然クギナが言い出す。
「そうだミツキ、約束を忘れんなよ」
「約束って?」
ミツキには覚えがない。
「やっぱり聞こえてなかったか。 まあいい。 オマエと私は約束した。 貸しが10個溜まったら、オマエは私の配下になるんだ」
クルチアは驚かずにいられない。
「ミツキ、あんたそんな約束したの?」
「してない」
「いいや、私は言ったさ。 オマエの手錠を千切る前にな。 オマエが聞いてなかっただけだ」
クルチアは運転しながら異議を唱える。
「それは約束じゃないよね?」
「オマエの解釈はどうでもいい、イナギリ。 私はミツキと話してるんだ」
クルチアは熱心にミツキに説く。
「ミツキ、オウリンさんの言うことを聞く必要ないからね?」耳を貸しちゃダメ。
「なあミツキ、オマエは約束を守る人間だよな? たとえ聞こえてなくても約束は約束。 約束したからこそ、私はオマエの手錠を引き千切った。 それでオマエは助かった。 私が手錠を引き千切ってなけりゃ、今頃オマエは縛り上げられて軍の奴らに持ち帰られてる真っ最中だぞ? ちっとばかり肉を切り取られ味見されてるかもしれねえ」
クギナが描く残酷な "もしも" に、ミツキは顔を歪ませ泣きそうにする。
ミツキの気持ちを敏感に察し、クルチアは鋭く言い放つ。
「ちょっとオウリンさん、言い過ぎよ」
トオマスも投網の中から同意。
「うむ、言い過ぎだクギナ」
トオマスにまで言われたのでクギナは黙り、車内に沈黙が降りた。
◇
しばらくしてミツキがクギナに尋ねる。
「オレは今クギナに幾つ借りがあるの?」
「いくつでも気にすることないのよ? ミツキ」
口を挟むクルチアを、クギナは無視する。
「3つだ」
クルチアは即座に指摘する。
「おかしくないかしら? 手錠を切っただけで、どうして3つなの?」
とうとうクギナの堪忍袋の緒が切れた。
「いい加減にしろイナギリ! さっきから、ちょくちょくちょくちょく口を挟んでくんじゃねえ!」邪魔しやがって。「私はミツキと話してるんだ」
「だって」 あなたが理不尽だから。




