第33話 焦る軍務局
エクレア小国の軍務局はクルチアとシノバズ侯爵の会見を把握しており、日曜日の夕方には対策会議が開かれていた。
「貴族が動いたか」
ここはカスガノミチ捕獲作戦本部。 対策会議のメンバーが深刻な顔を突き合わせている。
「侯爵はカスガノミチに市民権を与えたのでは?」
メンバーの一人が恐る恐るといった様子で、誰もが危惧することを言葉にした。
「その可能性は極めて高い」
そうなれば、この作戦本部も解散だ。 カスガノミチが市民に戻れば、彼は再び法の保護下に置かれる。
「予想できた反応だが...」
「例の道具はまだ完成しないのか?」
「9割がた完成ですが、折り畳み方で難航しています」
「開発して使わずじまい、か」
「そうとも限らん。 明日の朝いちばんで法務局に問い合わせてみよう」
◇◆◇◆◇◆◇
月曜日と火曜日、カスガノミチ捕獲作戦本部は法務局に何度も問い合わせした。 回答はいつも同じ。 カスガノミチ・ミツキに市民権を与えてはいない。
作戦本部に楽観的なムードが漂い始める。 シノバズ侯爵はカスガノミチに市民権を与えなかったのでは? 会見が物別れに終わったのかも。 カスガノミチ本人が会見に顔を出さなかったし。
しかし楽観ムードは一通の封書により霧散する。 封書を受け取ったのはサカラガミ少尉。 火曜日の夜、自宅でくつろぐ少尉のもとへ速達が届いた。 内容物はトーナメント表の訂正。 少尉はダレノガレ武術大会にエントリーしていた。 訂正の箇所は少尉の1回戦の相手。 "タノムラ・レンジ" だったのが "カスガノミチ・ミツキ" に変更されていた。
「カスガノミチ・ミツキ? 妙に耳馴染みがある名だ...」
少し頭を巡らせて少尉は気付いた。
「まさか、あのカスガノミチ・ミツキ!?」
耳馴染みは当然。 少尉はカスガノミチ捕獲チームの一員として、訓練に明け暮れる日々を送っていた。
◇◆◇◆◇
水曜日。 サカラガミ少尉の連絡を受けて、ゲータレード市のカスガノミチ捕獲作戦本部で再び会議が開かれた。
「トーナメント表の "カスガノミチ・ミツキ" は、やはりあのカスガノミチなんだろうな」
「間違いないでしょう。 大会の運営に確認したところ、"カスガノミチ・ミツキ" は住所不明。 とある侯爵の意向によりエントリー締切後に強引にエントリーされたそうです」
「"とある侯爵" はシノバズ侯爵で間違いあるまい。 カスガノミチに優勝させ、その報奨として市民権を与えるんだろう」
「カスガノミチは今週末に市民権を手にするわけだ」
この場の誰一人として、ミツキの優勝を疑っていない。
軍務局長サヌキド伯爵は苦渋の表情。
「すると我々のチャンスは、あと1度。 カスガノミチがダレノガレ市に向かう時だけ...」
伯爵の言葉に一同は暗い顔で頷く。 今しばらく猶予があれば。 さすれば例の道具は100%完成し、万全の態勢で捕獲作戦に望めた。
「地下鉄と自動車どちらにも対応できるようプランを立てておけ。 イナギリ家の娘の監視は続行。 作戦決行は3日後の土曜日だ。 例の道具の完成を急がせろ」
そう言って伯爵は会議を締めくくった。




