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小さな男の子が年上の幼なじみ(♀)に面倒を見てもらう話  作者: 好きな言葉はタナボタ
第一章
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第3話  ダメっ、このままじゃ...

「ミツキは下がってて!」


存在がバレた今、息を潜める必要はない。 クルチアは1つ呼吸して、ラットリング目指し駆け出した。


力強く走りながら、クルチアの体は戦闘モードに移行する。 心臓が鼓動を早め、体内に込み上げるパワーが解放の時を待つ。 クルチアの仕事は、このパワーを効率よく使うこと。 なにしろ相手は3匹。 一息に倒せない以上パワーの全力解放は禁物だ。


(わたし1人で3匹を倒してみせる!)


戦意が最高潮に達したタイミングで戦闘開始。 ラットリングがクルチアの足を狙い噛みつくのを、クルチアは俊敏なステップで回避する。 ヨッ! ホッ! ハッ! いま彼女の動きは日常生活の5割増しで俊敏だ。


ラットリングの巨大な門歯は噛み合わされるたびに恐ろしい音を鳴り響かせる。 ガチン! ガチン! それがクルチアの肝を冷やす。 だが、それに身をすくませるのではハンターは務まらない。 クルチアは回避の合間を縫い、両手でバスタード・ソードを振るう。


(小さく、細かく、速くっ!)


剣を振りながら、クルチアは体育教師の教えを心の中で繰り返す。 体育の授業で習う武術が彼女の戦闘技術の根幹だ。 教師の言葉がクルチアの脳裏に蘇る。 斬れ味の良い刃物は当たればダメージになる。 大振りは必要ない。 複数を相手にする時は特に重要な教えだ。


「頑張れクルチア~!」


熱意に乏しいミツキの応援を背に受けて、クルチアはラットリング3匹との死闘に没頭していった。


           ◇◆◇


数分後、剣を振るうクルチアの腕が重くなり始めた。 鋼鉄の剣で小刻みなストップ&ゴーを繰り返す "小さく細かく速く" は、大振り以上に疲れる。


(フゥフゥ なんか、いつもよりやりにくい)


いつもならラットリングの攻撃を防ぎながら少しは手傷を与えられる。 それによってクルチアは徐々に形勢を逆転してゆく。 でも、この3匹はクルチアが当てたと確信した攻撃をヌルリヌルリと回避する。


気づけばミツキの応援の声も途絶えている。


(いけない。 このままじゃ、また...)


           ◇◆◇


ミツキは早々と応援に飽きていた。 気まぐれで応援してみたけれど本来、彼は応援が好きではない。 応援って何が楽しいの?


応援に飽きたミツキは、偉そうに胸の前で腕を組みクルチアの戦いを見物。 だが、クルチアの動きが鈍くなるにつれ彼の表情は厳しく。 今では眉をひそめて戦いを見守っている。 これ以上クルチアが苦戦するなら彼にも考えがある。


           ◇◆◇


奮闘を続けるクルチア。 だが、バスタードソードを振るう両腕は重くなる一方。


(ハァハァ 腕立て伏せ、増やしたのにっ)


先週から彼女は、それまで50回だった腕立て伏せを70回にまで増やしていた。


(くそっ、なんで今日の奴らはこんなに... このままじゃジリ貧)


目に余るクルチアの窮状を見て、ミツキはカッと目を見開き胸の前で組んでいた腕をほどいた。 我慢の限界に達したのだ。


ミツキは背負っていたナップサックを地面に置き、ファスナーを開く。 ジーッ。 ナップサックの中をゴソゴソと漁り、取り出したのは一組の革手袋。 親指と4本指に分かれる茶色のミトン。 材質は革鎧と同じで、とても丈夫そう。


           ◇◆◇


ファスナーの音はクルチアの耳にも届いていた。 ミツキ参戦の狼煙(のろし)である。


(いけない、もうミツキが。 かくなる上は一匹だけでも!)


クルチアは一匹のラットリングに狙いを定める。 残る2匹は完全に無視。 後先を考えない捨て身の攻撃だ。 "小さく細かく速く" をかなぐり捨て、剣を振りかぶる。


「えいっ!」


体重が十分に乗った流麗な一撃は銀色の軌跡を描き、ラットリングの肩口に叩き込まれる。 回避上手なラットリングも、捨て身ならではの異例のタイミングと渾身の速度で繰り出された攻撃には対応できなかった。


           ◇◆◇


鋼鉄の刃はラットリングの体を袈裟懸けに切り裂いた。 切られたラットリングは切断面から夥しい血液が噴出させて絶命。


(やった! 快心の一撃!)


喜ぶクルチアに、残る2匹の巨大な門歯が左右から迫る。 いずれも狙うはクルチアの白い首筋。 今しがた放った一撃で彼女の体は沈み首の位置が下がっている。 小柄なラットリングが噛みやすい高さだ。 力を放出し終えた直後のクルチアは身動きかなわず、迫る門歯を待つばかり。 捨て身の行動の代価を支払うときが来た。


しかしクルチアは落ち着き払っている。 一切の狼狽を示さず、口元に笑みすら湛えている。 "やった! 快心の一撃" と言わんばかりの笑みである。 こと戦闘に関して、クルチアはミツキを絶対的に信頼している。

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