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クイックリングちゃんドロップキック!  作者: 好きな言葉はタナボタ
第三章

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第26話 呼ばなくちゃいけないの?

クルチアたちの近くに到着したミツキは、手頃な大岩の陰に身を潜める。 状況の急変に対応できるよう、軽い加速状態を維持したままだ。


加速の程度は2~3倍。 ミツキの目には周囲の動きが普段の1/2~1/3の速度に映る。 したがって出番までの待ち時間も2~3倍に増加。 しかしミツキは辛抱強く待ち続ける。 クルチアが助けを求めて叫ぶのを。


ピンチに陥ったクルチアがミツキの助けを求めない可能性を、不思議と彼は考えなかった。 心のどこかでミツキは確信しているのだ。 自分がクルチアの近くに潜んでいるとクルチアが確信していると。


           ◇◆◇


クルチアたち4人は互いに背中を預け合い、それぞれに武器を振るってラットリングを寄せ付けまいと奮闘する。 だが周囲はラットリングで埋め尽くされ、生き延びる道はどこにも見えない。


がむしゃらに剣を振るいながらタケシマくんが大声でがなり立てる。


「最後にこれだけ言わせてくれ。 みんなゴメンっ。 オレが転んだばっかりに...」


タケシマくんの声に涙と鼻水が入り混じる。 泣いているのだ。


ヤマネくんはタケシマくんの言葉に愕然とした。


(くそっタケシマのヤツ、何を死ぬ気になって... ハッ、いや正しいのはタケシマ。 この数のラットリング相手に生き延びれるはずがない。 オレたちは今日ここで死ぬ...)


トオマスは先程からすでにその認識に達していた。 そのうえでクルチアだけでも救いたいと思案。 だが何も思いつけずにいる。


(もはやこれまで。 だが悪くない。 敬愛する主君と共に死ねるのだから。 せめて最後はイナギリさんをこの胸に抱いて()きたいもの)


しかしイナギリさんは死ぬつもりが皆無。


「諦めないでタケシマくん! 諦めなければ、きっと何とかなる!」


剣を必死で振るうクルチアだが声に余裕がある。 精神的な余裕が。 彼女は奇妙な確信を抱いていた。 自分たちは死なないと。


(きっと大丈夫。 私たちは切り抜けられる。 でも何故?)


確信の理由を探り、クルチアはすぐ答えに辿り着く。


(そう、答えはミツキ。 ミツキがその辺に隠れてる気がしてならないの。 でも、どうして出て来ないの? 呼ばなくちゃいけないの?)


           ◇◆◇


10mと離れぬ草むらの陰で、ミツキはタケシマくんの涙声とクルチアが励ます声を聞いた。 加速中は周囲の音声がゆっくり聞こえるが、数倍の加速なら言葉を理解できる。


(もう完全なピンチだろこれ。 そろそろ助けに行きたい)


(いや、もう少し我慢だ。 ()いては(こと)を仕損じる)


ミツキは小さな手に汗を握る。 一歩タイミングを間違えればクルチアの命が危ういのだ。


(もう助けに入っていいんじゃ? ここまでピンチなら、呼ばれずに登場しても感謝は確実)


(でも、どんな顔をして出ていけば? ぐうぜん通りがかったことにする?)


(くそっ、クルチアがオレを呼べば済む話なのに)


激しく苦悩するミツキを、クルチアの声が救う。


「助けてミツキ!」


          ◇◆◇◆◇


後から後から到来する新手のラットリングの圧力により狭まる包囲網。 高まるラットリング密度。 減少する回避スペース。 攻撃が当たりやすくなったが、こちらの手傷も増える。 ダメだ、もう耐えられない。 そんな絶体絶命の窮地だった。 クルチアがミツキに助けを求めたのは。


助けてミツキ! そう叫んだ次の瞬間、クルチアたち4人に最寄りのラットリング何匹かが一斉にバタリと倒れた。 さらに次の瞬間、その後ろの何匹かがまた一斉にバタリ。 辺りに金木犀(キンモクセイ)の芳香が濃く漂う。


クルチアは何が起こったかを直ちに理解した。


(ミツキ! やっぱり近くにいた!)


残る三人は原因不明の現象に唖然(あぜん)とする。 何が起こってるんだ!? そうするうちにもバタリバタリとラットリングたちは倒れてゆく。 クルチアら4人を中心とする同心円状にバタリの輪が広がってゆく。


クルチアはいち早く行動を起こし、倒れたラットリングの首筋に剣を突き立てる。 何しろラットリングはノックアウトされただけ。 時間が経てば意識を取り戻し、再びクルチアたちに門歯を剥く。 ここまでの戦いの疲労と負傷はあるが、泣き言は言っていられない。 自分たちの命を脅かしたラットリングが今、地面に横たわり無防備に喉をさらしているのだ。 このチャンスを見過ごせない。


残る3人は武器を降ろし、呆然と立ち尽くす。 オレたちは... 助かったのか? 目前の現象は理解不可能。 ただ、助かったらしいことは理解できる。 ラットリングという名の嵐が過ぎ去った後の平穏に3人は呆然と浸っていた。


彼らの平穏をクルチアの声が打ち破る。


「早くトドメを刺して!」


3人が抱く疑問は同じ。 え、まだ死んでないの?


「まだ死んでないの!」


再び促され、ようやく3人はトドメを指し始めた。

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