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小さな男の子が年上の幼なじみ(♀)に面倒を見てもらう話  作者: 好きな言葉はタナボタ
第三章
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第18話 クシナダさん

捕獲計画に失敗した少将らは、クルチアを車から降ろし去っていった。 クルチアは学生カバンを片手に呆然としていたが、やがてハンカチで目元と頬を(ぬぐ)い登校を再開する。 家に戻ってママに相談しても意味は無いし、誘拐未遂を警察や市役所に訴えても無駄なのは明らか。 普段の生活を続けるしか無い。


(とりあえずミツキは無事に逃げれたし)


その思いがクルチアの心を支えていた。 ミツキが市民権を奪われたのはショックだが、その直後に起こった一層ショッキングな出来事が良い結末を迎えたので、彼女は前向きな気分でいられた。


ミツキが無事に逃げたのは疑いない。 彼は全開で加速した状態で眠りに落ち、睡眠薬の効果時間を僅か数十秒で眠りきったのだ。 そのことを今になってクルチアは理解していた。 睡眠開始から数十秒で目覚めたミツキは少将を転がし、子爵のゴージャスなヘアスタイルから引っこ抜いた(かんざし)を用いて足のロープをほどき、車外に逃げ出した。


(どこに逃げたのかしら。 逃げる前にコッソリ教えてくれれば良かったのに)


           ◇◆◇


さっきの出来事を思い返しながら黙々と歩き、気が付くとゲータレード市立高校の校門の前。 いつもならクルチアはミツキとここで別れる。 ミツキが通うゲータレード市立中学校は高校の真向かいにある。


校門には例によってクシナダさんが待ち構えていて、クルチアに朝の挨拶をする。


「おはよう、イナギリさん。 ずいぶん遅かったのね」


クシナダさんはクルチアのクラスメイト。 ミドルショートの頭髪は栗色。 優しい印象の女の子だ。


「おはようクシナダさん」


クルチアは挨拶を返した。


クシナダさんは学生カバンを両手に持ち、遠慮がちにクルチアに尋ねる。


「ミツキちゃんの姿が見えないようだけど」


クシナダさんは可愛いミツキちゃんが大好き。 毎朝、校門でミツキちゃんとお話するのを楽しみにしている。


「うん、ちょっとね」


「ちょっとって?」 喧嘩でもした?


「え~と、後で話す。 大変なことがあったの」


大変なことってなに? クシナダさんは事情を聞き出したい気持ちを抑え、クルチアと一緒に校門をくぐった。


           ◇◆◇


クシナダさんと一緒に教室に入ると、すぐにヤマダくんが寄ってきた。


「おはようイナギリさん。 昨晩はありがとう」


「おはようヤマダくん。 あれからどうかしら?」


ヤマダくんは笑顔で答える。


「お陰様で壁も直せたよ。 君からミツキくんに伝えてくれるかい? 僕がお礼を言ってたって。 昨晩お礼を言いそびれたからさ」


ミツキの名が出て、クルチアの心に陰が走った。


「うん... 伝えとく」


           ◇◆◇


ヤマダくんとの挨拶が終わるや否や、クシナダさんはクルチアの腕を掴んで教室の隅に引っ張っていった。 クシナダさんは、ときどき強引な一面を覗かせる。


学生カバンを手に持ったまま、2人はヒソヒソと話を始める。


「それで、大変なことって?」


「いま行方不明なの」


「行方不明? いつから?」


クシナダさんは怪訝(けげん)そうに眉をひそめ、次いで心配そうに眉尻を下げた。


クルチアは深刻な表情で応じる。


「今朝の通学中」


クシナダさんは困惑を示す。


「通学中? イナギリさんが一緒だったんじゃ?」


「それがね―」


クルチアは今朝の一件をクシナダさんに語って聞かせた。 ミツキが市民権を奪われたこと、誘拐されそうになったこと、子爵のこと、"少将" と呼ばれる人物のこと。 洗いざらい全て。 クシナダさんはミツキがクイックリング・ハーフだと知る数少ない人物の1人。 だから全てを打ち明けられた。

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