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小さな男の子が年上の幼なじみ(♀)に面倒を見てもらう話  作者: 好きな言葉はタナボタ
第二章
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第17話 ミツキ捕獲作戦④

ロープを持ち出してきた少将の部下が、クルチアをミツキから引き剥がそうとする。


「ほら手をどけて!」


クルチアは必死にミツキの体を抱き締める。


「イヤッ! ミツキ、ミツキっ! 目を覚まして!」


だが2回りも大柄な男の力には敵わない。 男はクルチアの手首をたやすく(ひね)り上げ、クルチアをミツキから引き離した。


クズキリ子爵は少将に猛抗議中。


「私に市民権剥奪を通告させたのはカスガノミチさんを捕獲するためだったのね!」


市民権の剥奪を通告できるのは貴族だけ。 地位を利用されたクズキリ子爵は、悔しさに歯噛みする。


「こんなことに私を利用するなんて! 彼を捕らえてどうしようというの?」


激しい口調で問い(ただ)す子爵に、イマソガレ少将は面倒そうに答える。


「むろん、わが国の戦力強化に役立てますよ」


「戦力強化って、あなたまさか...」クイ混じりの血肉を兵士に与えようというの?


古来より、クイックリングの血肉を口にした者は神速を得ると言われる。 軍務局は兵士に血肉を与え神速の軍団を作ろうとしているのでは?


絶句した子爵に構わず、少将は部下に指示を出す。


「娘を抑えていろ。 私が捕縛する」


少将は座席に置かれるロープを手に取り、眠りこけるミツキの体をロープで縛り始める。


「ミツキ、ミツキっ!」


クルチアは狂ったように泣き叫ぶ。 極度の興奮に紅潮した頬を、われ知らず流れる涙が濡らす。


クズキリ子爵は苛烈に少将を叱責。


「なりませんよ少将! クイックリングの血筋に不埒(ふらち)を働いては!」


いかに苛烈だろうと言葉で少将は止まらない。 子爵の叱責を軽々と背中で受け止め、少将はミツキの両足をギッチリと縛り終えた。 続けて彼はミツキをうつ伏せにし腕を背中に回す。 後ろ手に縛るのだ。


両手と両足を縛られれば、いかにミツキでも逃げられない。 後ろから羽交(はが)い締めにされ身動きかなわぬクルチアは、閉じられゆくミツキの運命を恐怖の表情で見守る。


(ミツキ、ミツキ...)


クルチアの叫び声は止まっていた。 諦念(ていねん)に屈したのだ。 ミツキが完全に眠っているのは明らか。 クルチアがどれだけ呼びかけたところで目覚めはしない。 クルチアの両眼からとめどなく涙が流れ落ちる。 捕獲されたミツキにまた会える日が来るなど考えられない。


(これでお別れなの? こんな、こんな最後だなんて)


涙に濡れる目を見開くクルチア。 ミツキの最後の姿をしっかりと目に焼き付けるのだ。 ミツキ、ミツキ... 涙のせいでミツキの姿がぼやけて見える。 ミツキの姿をしっかりと脳裏に焼き付けたいのに、涙のせいで... 待って、ボヤけてるだけじゃない。 ミツキの姿がブレてる!?


少将が舌打ちする。


「チッ どうなっている」


ミツキの手を縛るのに何やら手こずる様子。


とつぜん少将が背後にすっ転ぶ。


「うおっ!」


同時に、ミツキの体がその場から消え失せ、子爵が悲鳴を上げ、車のドアが唐突に開く。


騒ぎが静まったとき、車内のどこにもミツキの姿はなかった。 座席に残るは、解けたロープと子爵のかんざし。 開け放たれた車のドアから朝の新鮮な空気が流れ込む。 ミツキは逃げおおせたのだ。


起き上がった少将はロープを手にして呆然とつぶやく。


「逃げられた... のか」


これ以上なく順調に進んでいたはずの作戦。 それが土壇場で失敗に終わったと理解するので少将は精一杯だった。

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