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小さな男の子が年上の幼なじみ(♀)に面倒を見てもらう話  作者: 好きな言葉はタナボタ
第二章
15/107

第15話 ミツキ捕獲作戦②

依然として通学中のクルチアとミツキ。


しばらく黙って歩いていたミツキが、おもむろに口を開く。


「オレ、ハンターになろうかな」


クルチアは発言の主旨を確認する。


「事業所に入るってこと?」


「うん。 写真持ち込みの12倍も稼げるから大儲けだ」


昨晩ヤマダくんが提示した金額はミツキに大いに感銘を与えていた。


「たしかに大違いよね」


「だろ?」


「でも無理よ」


「なんで?」


「問題点が3つあるわ」


「どれとどれとどれ?」


「まず、あんたはモンスターにトドメをさせない。 次に、あんたの能力は他人に秘密」


ミツキが口を挟む。


「トドメぐらいさせるさ。 そしたら1人で」


クルチアがミツキの言葉を遮る。


「果たしてそうかしら? 刃物でぶっすり刺すのよ? あんたに出来る?」


「出来るさ」


ミツキの虚勢に取り合わず、クルチアは3つ目の問題点を述べる。


「それに、あんたがハンター活動をできるのは放課後だけでしょう。 放課後だけのハンターを雇う事業所があると思う?」


「...」


完膚なきまでに言い負かされ、ミツキはしょげかえった。 顎が下がり、歩調から躍動感が失われる。


クルチアはミツキの胸中を理解できた。 尽きつつある生活費を何とかしようと彼なりに考えているのだ。 未だ中学生の彼に就職は困難。 生計を立てる手段としてプロ・ハンターに思い至ったのは当然。 でもミツキがプロとして活動できないのは明白で、クルチアはそれを指摘せずにいられなかった。


しょんぼりと隣を歩くミツキを見て、クルチアは哀れを催す。 や~ん可哀想。 保護欲に駆られたクルチアは愛情を込めた言葉でミツキを励ます。


「心配しないでミツキ。 私がなんとかしてあげる」


「なんとかって?」


尋ね返され、クルチアは困った。 愛情はあったが具体案は無い。


「う~ん」そうねえ...「私たちで事業所を作るとか?」


事業所の設立など考えたことも無かったが、クルチアが事業所を設立できない理由は無さそうに思える。 未成年には無理なら、親の名義を借りてもいい。


「オレがハンターになるのと、どう違うの?」


「誰かに雇われるんじゃないから、好きな時間に働けるでしょ?」


「そうか! 放課後だけでも大丈夫だ」


ミツキは元気を取り戻した。


「2人で事業所をするなら、クルチアがトドメを刺せばいいね」


「あんたやっぱりトドメを刺すのが嫌なんでしょう」


ミツキに笑みを投げかけ、クルチアは視線を前方へ戻す。 その視界の端に異彩を放つ人物が映る。 立派な装いとヘアスタイルのゴージャスな女性だ。 傍らに男性を従え、背後には大型の高級車。 朝の通学路にあって目立つことこの上ない。


ミツキも女性に気付いた。


「誰なのかな、あの人。 こっちを見てる」


ミツキの言う通り。 女性は明らかにクルチアたちを見ていた。


           ◇◆◇


2人は歩き続け、ゴージャスな女性との距離が近づく。 女性は依然としてクルチアとミツキを見ているし、見ているのを隠さない。 何か用件がありそう。 声を掛けられるのかな? 掛けられそう。 そう予期しながら女性の前に差し掛かったタイミングで、あんのじょう女性から声が掛かる。


「もし、そこのあなたたち」


クルチアとミツキは立ち止まった。


「はい、なんでしょう?」


「そちらの男の子はカスガノミチ・ミツキさんとお見受けしますが」


ミツキが頷くと、ゴージャスな女性は(うやうや)しく上品な笑顔をミツキに向ける。


「わたくしはクズキリ子爵、クイックリングの血を引く方にお会いできて光栄です。 本日はミツキさんにお伝えしたいことがあり、こうしてお待ちしておりました」


クズキリ子爵の発言にクルチアを色々と驚いた。


(ミツキがクイックリングだと知ってるの!? 貴族がミツキに何の用事?)


子爵はミツキを車内へと誘う。


「ここでは人目がありますから、カスガノミチさん、車の中へどうぞ」


車のドアが開かれた。 車内で誰かがドアを開いたのだ。


「どうぞ中へ」


子爵がミツキを促し、ミツキはクルチアに目を向ける。 クルチアに判断を求めている。


ミツキの視線を受けて、クルチアは考える。 どうしてミツキなの? ミツキの最大の特徴はクイックリング・ハーフであること。 ミツキを巡って何かが進行しているのは明らか。 警戒が必要だ。 子爵が友好的に振る舞うのも擬態かもしれない。 子爵は本当に子爵なのか? 貴族を(かた)っている可能性も? 相手のテリトリーに不用意に入り込まないほうがいい。


「車の中に入らないといけませんか?」


子爵は静かに答える。


「車内が良いと思うの。 カスガノミチさんのプライバシーに関わることだから」


必ずしも車内に入らなくても良いようだ。


しかし子爵の傍らに立つ男性すなわちイマソガレ少将がミツキの肩に腕を回し、車内に連れ込もうとする。


「さあ、中へどうぞ」


一見ただの乱雑な振る舞い。 だが、これこそが今回の作戦の肝だった。 ミツキの肩に置かれた少将の手に指輪。 指輪から生える針に睡眠薬。 量が少ないため持続時間は推定30分と短いが、ミツキの手足を縛り上げ身動きを封じるには十分。 最も重要なこの役目を少将は部下に任せなかった。 彼は誰よりも自分を信頼する。


少将が手を押し付けるミツキの肩に小さな痛みが走り、ミツキは体をビクリとさせる。


「ッ!」


少将はミツキのその様子を意識しつつも気づかぬ風を装い、強引にミツキを車内に押し込む。


「さあ早く!」


子爵は少将の乱暴な態度に顔をしかめ、クルチアを車内に誘う。


「あなたもお乗りになる?」


もちろんクルチアは誘いに応じた。

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