第13話 軍務局
視察を終え王都に戻ったゴザロウは、同期の官僚であるノキノシタ・サブラエに視察中の出来事を伝えた。 茶飲み話として伝えたのだが、サブラエの食い付きは凄かった。
「その話は本当かっ?」
サブラエに両肩を掴まれ荒い鼻息を間近で聞かされながら、ゴザロウはサブラエの反応に納得する。
(そうか、コイツの所属部署は防衛計画部...)
防衛計画部は業務の範囲に戦力の増強を含む。 最強の妖精クイックリングが再び国内に姿を見せたとあれば、放っておく手はない。
「よし、クイックリングにコンタクトを取ろう」
サブラエは即決した。 彼の予想では、ゲータレード市在住のクイックリングはエクレア小国への協力を惜しまない。 根拠は十分。 次の3つだ:
1. クイックリングはエクレア小国の建国時に協力してくれた。 また、王家や大貴族はクイックリングの血を引く。
2. エクレア小国は妖精に好かれやすい気がする。 根拠は妖精騎士団と建国時のクイックリング。
3. 色々な国がある中でエクレア小国に住むぐらいだから、ゲータレード市のクイックリングは我が国を気に入っているんじゃないかな♡
根拠が十分かはさておき、クイックリングに協力を要請してみて損はない。
◇◆◇
こうして、エクレア小国はゲータレード市に住むクイックリングに接触し、協力を仰ぐことになった―
と、ゴザロウは思っていたが、軍務局は会議のすえ異なる計画を採択することになる。
◇
「...このクイックリング、直接的な戦力にするより戦力強化の資源として活用すべきではないか?」
「と申しますと?」
「血肉だ。 クイックリングの血肉を兵士に与えるのだ」
軍務局長サヌキド伯爵の発言に、会議参加者の顔が引きつる。
「いや、しかし...」「我が国にとってクイックリングは神聖な存在」「人の姿をした者を兵士に食べさせよと?」
反対意見の多さに苛立った伯爵は盛大に溜息をつき、不見識な部下たちに説明する。
「ウッフウー、ぐずぐずしていてはタメリク帝国に先を越されるぞ。 かの帝国の魔導騎士がクイ肉により数倍にでも素早くなってみろ。 手が付けられんわ」
タメリク帝国の魔導騎士は魔法使い。 呪文の詠唱を短縮する独特の技術により、魔法を実戦に活用する。 クイックリングの肉で魔導騎士の詠唱がさらに早まれば、タメリク帝国とエクレア小国の戦力差は確定的に広がる。 帝国はエクレア小国に対しこれまで以上に強硬な姿勢で臨むに違いない。
魔導騎士への言及は会議の流れを変えた。
「帝国にクイ肉を渡すわけにはいかない。 これは大前提だ」
「帝国がクイ肉を入手するケースとして考えられるのは―」
「一旦味方についたクイックリングが帝国に寝返らる恐れも」
「味方になったクイックリングが帝国に捕獲され食べられることも」
「つまりクイが野放しでいる限り、帝国に利用される懸念はつきまとう」
「それならいっそ」
伯爵は満足そうに頷く。
「うむ、そういうことだ。 我が国で食べてしまおうではないか」