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小さな男の子が年上の幼なじみ(♀)に面倒を見てもらう話  作者: 好きな言葉はタナボタ
第九章
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第107話 アパートを借りよう

クシナダさんは時給400モンヌを了承。 パパとママの反対を押し切ってゲータレード市立高校を退学し、スーツケース1つを引っ提げて、コンデコマ市にあるアリスの事業所へやって来た。


クシナダさんが ピンポン と呼び鈴を鳴らすと、アリスが玄関のドアを開いた。 ガチャリ


「いらっしゃい。 ホントに来たのね」 まさか時給400モンヌで働くヒトがいるとは。


ま、上がってよ。 アリスに促され、クシナダさんは宅内に足を踏み入れた。 おじゃまします。


           ◇❖◇


居間で向かい合って座るクシナダさんとアリス。 そこにミツキが緑茶の入った湯呑を2つ持ってきた。 アチチ。 手で湯呑を持っている。 この事業所に、お盆のごときお上品な代物は無い。


「粗茶ですが」


言い慣れぬセリフと共にミツキがテーブルの上に湯呑を置くと、クシナダさんはミツキに微笑みかける。


「ありがとう、ミツキちゃん」


アリスが口を開く。


「ええと、クシナダさんだっけ? ホントに時給400モンヌでいいの?」


クシナダさんは決意の表情で頷く。


「はい、覚悟してます」


「月給8万モンヌとかになっちゃうけど?」 本当にいいの?


念を押す程度の親切心は持ち合わせている。


「大丈夫です」


クシナダさんの声が少し震えた。 月8万モンヌで暮らせるのかな?


「そっかー。 じゃあ明日からヨロシク。 あと住むとこなんだけどさ、この家に3人は狭いから、悪いけど、どっかにアパートでも借りてくれる?」


「はい」


          ◇❖◇❖◇


クシナダさんは、重たいスーツケースをゴロゴロと引っ張りアリスの家を出た。 向かう先は不動産屋だ。


「ふぅ」


不安は少なくない。 退学までして、早まったかと思わないでもない。 でも今日からミツキちゃんとずっと一緒にいられるのだ。


クシナダさんは隣を歩くミツキの愛らしい姿に目を向ける。 ミツキはクシナダさんの不安そうな様子に気づき、暇つぶしを兼ねて一緒に不動産屋を探すと申し出ていた。


「どこにあるんだろうね、不動産屋さん」


不動産屋の場所はミツキも知らない。 ゆえに、"案内" ではなく "一緒に探す" だ。


           ◇❖◇


商店街に入って間もなく、不動産屋は見つかった。 しかしホッとしたのも束の間、クシナダさんは恐ろしい現実を突きつけられる。


「こちらのお家賃が月11万。 こちらが10万、こっちが9万モンヌです」


不動産屋は物件が記載されるファイルを開き、あちこち指さした。


自分の月給を上回る高額の家賃にクシナダさんは青ざめ唇を震わせていたが、やっとのことで()細い声を絞り出す。


「もう少し安い物件は―」


不動産屋はクシナダさんに皆まで言わせず、ファイルのページをめくる。


「でしたら、こちらはいかがでしょう? これが7万で、これが6万」


クシナダさんは膝の上で両手を握りしめ、目眩(めまい)がしそうな絶望感に捉われる。


(お家賃って、こんなに高いものなの?)


アパートも経営する父を持つクシナダさんだが、家賃相場には無知だった。


            ◇


月給8万モンヌの人が家賃に6万を使うと生活できない。


クシナダさんは恥をしのんで、不動産屋に尋ねる。


「あの、もう少しだけ安い物件はないでしょうか?」


不動産屋は盛大に不満を吐き出す。


「あぁ? これより安い物件? まいったなぁー」


「すみません」


思わず謝ったクシナダさんを気にも留めず、不動産屋は乱暴な手付きでファイルをペラペラめくる。


「ふぅ~。 安い物件、安い物件と」


          ◇❖◇❖◇


「お邪魔しました」


クシナダさんはお辞儀をして不動産屋を出た。 けっきょく条件に合うアパートは見つからなかった。


ふぅ。 溜息をつき、クシナダさんは重たいスーツケースを引いて午後の商店街を歩き出した。 ゴロゴロ。 行く(あて)は無い。 今晩眠る場所は決まってないし、アリスの事業所に戻っても仕方ない。 ゲータレード市の実家も、家出同然に出てきたから戻れない。


「ヤな感じだったね、さっきの不動産屋」


ミツキの感想にクシナダさんは賛同しない。


「仕方ないわ。 借りないのに時間を取らせちゃったから...」


ミツキが心配そうに尋ねる。


「これからどうするの? アリスの家に戻る? 頼めば、きっと泊めてくれるよ?」


クシナダさんは力なく首を振る。 今晩だけの問題ではない。 住む場所の問題なのだ。


「ミツキちゃんは、どうすればいいと思う?」


ミツキに意見を求める。 それは万策が尽き果てた者の行動。 戦闘以外じゃ決して頼りにならないミツキに頼るとは、そういうことだ。 クシナダさんもミツキから有益な意見を聞けると思っていない。 "ミツキちゃんは、どうすればいいと思う?" は "もう私どうしようもない。 お手上げなの" の婉曲表現である。


ミツキはクシナダさんの声に滲む絶望を感知した。


「心配しなくていいよ」


ミツキの喉から出たとは思えない、優しく落ち着いた声。 ミツキは明らかに庇護が必要と認めた者には親切で、そういうとき彼の肚は座る。 落ち着いた声が出る。


「ありがとうミツキちゃん」


クシナダさんは元気のない手でミツキの頭を撫でる。 ナデナデ。 私を慰めてくれるのね。


クシナダさんは勘違いしている。 ミツキの言葉は単なる気休めではない。


「オレがアパートを借りる」


クシナダさんはミツキの言葉の意味がよくわからない。


「ミツキちゃんが?」 借りてどうするの?


「そこにクシナダさんと住む」


ええっ! 私がミツキちゃんとっ! 溢れ出そうな叫び声を、クシナダさんは両手を口に当てて封じ込む。 涙が目に(にじ)む。 感激の涙だ。 家賃の問題が解消して、ミツキちゃんと一緒に暮らせるなんて。 無謀に思えたコンデコマ市への移住。 だがクシナダさんの情熱は、ミツキの手により報われることになった。


          ◇❖◇❖◇


信じられない展開にクシナダさんは夢見心地。 そんな彼女の手を引き、ミツキは再び先ほどの不動産屋へ。


チリリン。 入り口のドアに取り付けられたベルが鳴り、不動産屋が貧乏客の再訪に気付いた。


「...いらっしゃい」 またコイツらか。 カネ無しが不動産屋に来んじゃねえよ。


不動産屋に嫌な目で見られ、クシナダさんはミツキの小さな背中の後ろで縮こまる。


ミツキはクシナダさんを(かば)うかのように胸を張り、雄々しく宣言。


「オレが部屋を借りる! 家賃11万モンヌのやつだ!」


            ◇


不動産屋はミツキの言葉を疑った。 無理もない、ミツキは体も心も子供だ。 しかしミツキが社会人の証として財布からキャッシュカードを取り出すと、不動産屋は態度を改めた。


「コホン、失礼しました。 それで... えっと家賃11万モンヌの部屋でしたね」


こうしてミツキはアパートを借りた。


           ◇❖◇


不動産屋を出て、クシナダさんは心配そうにミツキに尋ねる。


「アパートを借りちゃって本当に良かったの?」


「うん」


今のミツキはお金持ちだ。 この10日余りのうちに200万モンヌの大金を稼いでいる。 この期間にハンター事業所『セレスティアル・ドラゴンズ』が稼いだ金額は4千万モンヌ。 そのうち90%が借金返済などの経費に回され、残りをアリスと2等分。 ミツキの取り分だけで200万モンヌである。


クシナダさんは瞳をうるませ、ミツキの両手を自分の両手に包む。


「ありがとうミツキちゃん」


          ◇❖◇❖◇


新居にミツキの寝具を運ぶため、2人はアリスの自宅兼事務所に戻った。


アパートを借りたとミツキに告げられ、アリスはショックを隠しきれない。


「えっ、ミツキくんウチを出てっちゃうの?」


アリスの心に広がる喪失感。 ミツキとの生活を楽しんでいたのだ。 自覚は無かったが。


「ちょっとした経緯があってね」


アリスはミツキの口ぶりに冷淡なものを感じた。


「...経緯って?」 どうしてヨソヨソしいの? 外出中に何があったの?


「アリスはさあ、アパートの家賃がどれぐらいか知ってる?」


「知らないケド?」


アリスは実家を出てすぐ今の自宅兼事務所を借りたので、アパートに住んだことがない。


「お風呂付きだと最低でも6万モンヌもするんだぞ」


こうしてアリスは自分がクシナダさんに酷い仕打ちをしていたと知った。


            ◇


反省したアリスは寝具一式をクシナダさんにプレゼント。 さらに二人分の寝具を新しいアパートに運ぶのを手伝って、罪滅ぼしに励んだ。


         ~~~未完~~~


上記が最終話です。 読者不足のため、この作品は打ち切りになりました。


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