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小さな男の子が年上の幼なじみ(♀)に面倒を見てもらう話  作者: 好きな言葉はタナボタ
第八章
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第104話 スネイクリング③

「じゃあ戦闘開始ね」


言い置いてアリスは、大胆にスネイクリングに突撃する。 ミツキが左の3匹の気を引いてくれると信じて疑わない。


迫りくるアリスにスネイクリング4匹が色めき立つ。 フシューフシュー。 生き餌を好むスネイクリングだから、元気に動くアリスに食欲をそそられた。 ここ数日ラットリングを食べ放題で、決して空腹ではなかったが。


4匹はアリスを獲物と見定め、口からチロチロとヘビ舌を出し入れするペースを早める。 今からアリスが逃げても追いつかれる。 もう選択肢はない。 戦って勝利を収めるしかない。


(よろしくミツキくん!)


            ◇


アリスの期待に応え、ミツキは姿を現した。 左端の3匹のみの視界に入る絶妙な位置だ。 スネイクリングの目に映るミツキは絶好の獲物。 アリスより小さいし防具を身に着けていない。 おまけにこちらの獲物は、あろうことか隙だらけの背中を3匹にさらしているッ!


この上なく魅力的な獲物の出現に、左端3匹はひとたまりもなく狙いをミツキに変更。 巨体を感じさせない滑らかな動きで、我こそ丸呑みにせんと先を争ってミツキに襲いかかる。 しかし、丸呑み寸前にミツキは消え失せ、少し離れた場所に出現。 暢気(のんき)な背中をチラつかせるミツキに、3匹は再び矢も盾もたまらず飛びかかる―


こうしてミツキは囮の役割を完璧に果たした。 "隙だらけの背中" と "暢気な背中" に続き、"鷹揚な背中"、"(すす)けた背中"、"物憂げな横顔"、"寂しがり屋の一面" といったレパートリ―を次々と披露し、3匹をアリスの戦いから完全に引き離した。


           ◇❖◇


ゴロゴロゴロッ。 アリスの体は凄まじい勢いで地面を転がる。 スネイクリングに尻尾で打たれたのだ。 尻尾の根元が当たるのを盾で受けたのでダメージは少ないが、〈気〉で体重を10倍に増幅したアリスを軽々と吹き飛ばすとは、スネイクリングの尻尾の威力おそるべし。


なんとか受け身を取って立ち上がったアリスは、息つく間もなく横っ飛び。 するとアリスが立っていた場所にスネイクリングの毒液が着地し、地面に毒の水たまりを作る。


(やっぱ手斧じゃキツい。 甘かった)


現在アリスは勘と洞察力を総動員中。 全力を出さなきゃ死んでしまう。 いま毒液を回避できたのも、100%直感による。 五感で知覚してから動いては死んでいた。 スネイクリングの毒は神経毒。 微量が皮膚に付着するだけで、横隔膜を動かせなくなり呼吸困難で死んでしまう。


(尻尾をなんとかしないと)


スネイクリングは剣と盾で武装するが、最大の武器は尻尾攻撃。 ボリュームがある付け根の部分は重量感たっぷりで、あらゆる物を吹き飛ばす。 尻尾の先から1/3の辺りは亜音速で飛来し、岩をも砕く。 先端は音速を超え、鋼鉄をも切り裂く。


(接近戦しかない、か)


尻尾のことが無くても、武器が手斧だから接近戦しかない。


(ようし)


アリスは肚を決めた。


            ◇


爬虫類ならではの素早いモーションで ビュー っと吐きかけられた毒液を回避し、アリスはスネイクリング目指してダッシュ。 何の工夫もないその動きをスネイクリングは尻尾攻撃で迎撃。 スイートスポット(一番威力がある部分)がアリスに直撃っ! と思われたが、ダッシュするアリスの体が異常な急停止。 タイミングを外された尻尾は ブォン と凄まじい音を立て、アリスの体の前方を素通りした。 空振りである。 アリスは〈気〉で体重を増やし、通常では考えられない急ブレーキを実現した。


空振り後の無防備なスネイクリングの懐に入り、アリスは密着状態で手斧のラッシュ攻撃。 テオノテオノテオノテオノテオノ... スイングは鋭くコンパクト、戦闘重金属アダマンティウムを素材とする手斧は小ぶりながらヘビー級。 アリスの攻撃はスネイクリングの(つよ)さと(しな)やかさを兼ね備える皮膚を切り裂いていく。


スネイクリングはアリスの攻撃に耐えかね、威嚇音を発しつつ尻尾攻撃のため間合いを取ろうと動く。 フシューフシュー。 だがアリスはそれを敏感に察知。 スネイクリングが退けば押し、体を回せば合わせて回る。 間合いを拒絶し密着して、ひたすら手斧攻撃。


尻尾を封じられたスネイクリングは剣を振るうが、アリスはそれを盾で難なくガード。〈気〉で増強した筋力と体重で、重厚にして頑強なアダマンティウムの防御力で、200kgを超す衝撃をがっちり受け止め揺るがない。


            ◇


執拗に手斧攻撃を続行するアリス。 テオノテオノテオノテオノテオノ... スネイクリングは腹部の肉を無惨にえぐり取られ、とうとう力尽きて地に倒れた。


「フゥ、やっと1匹」


アリスは地面に倒れるスネイクリングの頭のほうに回り込み、手斧攻撃の連続で疲れた右手を振り上げる。 スネイクリングは生命力が高く執念深い。 きっちりトドメを刺しておかねば思わぬ反撃を食らいかねない。


           ◇❖◇


どうにかこうにかスネイクリング4匹を倒したアリスに拍手の雨が降り注ぐ。 パチパチパチ。 拍手をするのは、息を詰めて戦いを見守っていたハンター11人と市職員だ。 いつの間にか、アリスのスネイクリング退治を見物に来ていた。


ハンターたちは口々にアリスの偉業を褒め称える。


「まさか手斧1つで本当にスネイクリングを倒してしまうとは」


「離れ(わざ)のオンパレードだったな」


「うむ、繊細さと強引さが的確に噛み合っていた」


「戦士のお手本だ!」


「いやいや、真似しちゃダメだよ」 死んでしまう。


           ◇❖◇


アリスを囲む人の輪を眺めながら、ミツキはつまらなそうに足元の小石を蹴り飛ばす。


「チェッ、アリスがスネイクリングを倒せたのはオレのおかげなのに」


ミツキが囮となりスネイクリングを1匹ずつ放出したからこそ、アリスは勝てた。 だが、そのことを分かってくれる者はこの場にいない。 恩恵を受けた当人であるアリスもミツキの存在を忘れ、チヤホヤされてご満悦。


「クルチアならオレへの感謝の気持ちを忘れないのに」 忘れてたら思い出させるのに。


ミツキは長らく封印していたクルチアへの思いを解放する。


「クルチア、いま何してんのかな...」

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