第101話 ブスー
ミツキが手近なラットリングを全部KOしたので、ミツキとアリスは小休止。
アリスはラットリングの逃亡を阻止したミツキの功を称える。
「やるじゃんミツキくん」
「ヘヘ、まーね」
「それはそれとして、やっぱりミツキくんはトドメを刺せないんだね。 コイツもまだ生きてる」
ミツキにKOされ地面に横たわるラットリングの脇腹を、アリスは装甲靴を履いた足で蹴った。
「当たり前だろ。 ぜんぶ生きてるよ」 トドメを刺せないって言っただろ?
「何が "当たり前" よ。 気絶させるだけでイイわけないじゃん」
「そんなこと言われても」 あれ? なんかオレ怒られてる。
ミツキは遅ればせながら風向きの変化に気付いた。 賞賛されていたはずが怒られている。
「じゃあ聞くけど、ミツキくんはヒュドラとかサイクロプスもKOできる?」
「多分できない?」
遭遇したことがないので判断がつかない。
「できないわよ」たぶん。「でも今後アタシたちが相手にするのは、そういう大物。 刃物を使えないミツキくんは、はっきり言って役立たずなの」
「...」
◇
ミツキを沈黙に追い込んでおいて、アリスは提案する。
「せっかくだから」ちょうど良い機会だから。「今ちょっと殺してみよっか」
気絶するラットリングのうちの1匹を殺してみよう。
「えー」
ミツキは嫌そうな顔になった。
「だいじょうぶダイジョブ。 私も一緒にやったげるから」
アリスはミツキの腰から短剣を引き抜き、冷たく縮こまり汗ばむミツキの手に無理やり握らせ、その上から自分の手をかぶせてギュッと握る。
「さあ、一気にブスっと行くよ」
アリスは短剣を握るミツキの手を、無理やり振りかぶらせる。
「やめてくれー」 死ぬー
ミツキは抵抗するが、力でアリスに敵うはずがない。
「だいじょうぶ。 すぐ済むから」
「やめろーやめろー」ウワー
「ハイ、ブスー」
こうしてミツキは初めてモンスターを殺した。