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小さな男の子が年上の幼なじみ(♀)に面倒を見てもらう話  作者: 好きな言葉はタナボタ
第一章
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第10話 目と目で通じ合う

ラットリングを退治するに当たり大切な注意事項がある。 それをクルチアはヤマダくん一家に伝える。


「今から退治に向かいますが、私が退治するあいだ決して家の外に出てはなりません」


ヤマダくん一家は神妙な顔で頷いた。


「もちろんです。 決して外に出ません」 出たくありません。


大切な注意事項は、もう1つある。


「それから、私が戻るまでカーテンを閉め、決して外を覗いてはなりません」


万が一にもミツキが戦うところを見られたくない。 ミツキがクイックリングの血を引くと知れ渡ると、ミツキの身に危険が及びかねない。 クイックリングの血肉を口にすると稲妻のごとき素早さが身に付くと言い伝えられるから。


ヤマダくん一家にとって、2つ目の要請は根拠不明の不思議な要請。 しかし一家は大人しく頷いた。 下手に疑義を差し挟むと、貴重な人材(クルチア)の機嫌を損ねる恐れがある。


           ◇◆◇


「じゃあ行ってきます」


クルチアは玄関へ向かった。


ミツキが後に続こうとし、それをヤマダ母が見(とが)める。


「ミツキちゃんはダメよ。 ここで待ってなさい。 お外は危ないから」


クルチアは振り返った。 えっ?


(藪から棒に何を? ラットリング退治にミツキは不可欠なのに)


そう藪から棒でもない。 予兆はあった。 ヤマダ母は一目でミツキを気に入り、雑談の時しきりにミツキに話しかけていた。 菓子を与えて手懐け、名前を聞き出していた。 ヤマダ母がミツキの安全を気遣うのは予想できた。


そして客観的に見ればヤマダ母の指示は妥当である。 ミツキは女子中学生と比べても小柄な男の子。 外見を基準に判断するなら、ラットリングがうろつく危険な屋外に彼を連れ出す理由は見当たらない。


ミツキに目を向けるとクルチアを見ていた。 目が合うと彼は首を横に振り、それでクルチアはミツキの考えを察した。 彼の目は言っている。 あのオバさんにクルチアから上手いこと事情を説明してよ、と。 オレはそういうの苦手だから、と。


(事情を説明ったってねえ)


ヤマダ母を納得させるにはミツキが戦闘に役立つと伝えるしか無い。 でも、それにはミツキがクイックリングの血を引くと明かさねばならない。 特殊能力でも無い限りミツキが戦闘に役立つなどあり得ないから。


クルチア早々と結論に達する。


(こうなれば、ヤマダくん一家にミツキの秘密を打ち明けるしか...)


クルチアはアイコンタクトでミツキに了承を求める。あんたの秘密を明かしていい?


ミツキはクルチアの目を見て、力強く頷く。 うん、いいよ! そう言っているに違いなかった。 幼馴染みの2人は超絶的なレベルで目と目で通じ合う。 傍から見ると、まるでテレパシー。


           ◇◆◇


ミツキの了承を得て、クルチアはヤマダくん一家に驚愕の事実を打ち明ける。


「絶対に誰にも言わないで欲しいんですけど、実はミツキの父親はクイックリングなんです」


でも親子3人はあまり驚かなかった。


「ほう、あの神速の妖精か」「まあ、ミツキちゃんが?」「伝説の妖精クイックリングが、こんな身近にいたなんて」


いちばん驚いたのはミツキ。 クルチアがいとも簡単に秘密をバラしたことに驚いた。 口をポカンとO字型に開いて驚きを表現したのち、抗議の厳しい視線をクルチアに送る。 キッ


クルチアはミツキの視線の意味を今度は正しく理解した。


(あれ? バラしちゃいけなかった?)


さっき超絶レベルで目と目で通じ合った気がしたけど、通じ合っていなかった。


(さっきミツキが頷いたのは、どういう意味だったの??)


クルチアは視線でミツキに謝る。 ゴメンねミツキ。 今度の気持ちは、ちゃんと通じたはず♡


          ◇◆◇◆◇


つつながく退治を完了したクルチアとミツキは再び協会を訪れ、ラットリング8匹ぶんの写真を4万モンヌに換金した。 ラットリングを退治した場所が異例だったので窓口職員に色々と尋ねられたが、無事に換金を終えた。


今クルチアはミツキと、協会内のATMコーナーにいる。 ATMは魔力で動く据え置き型の魔道具。 現金の預け入れと払い出しを行える便利な魔道具だ。


クルチアは預金から6万モンヌを引き出し、さっき窓口で受け取った4万モンヌと束ねた。


「ミツキ、10万モンヌあるわ。 生活費の足しにしなさい」


受け取りながらミツキは尋ねる。


「くれるの?」


「あなたのおカネでもあるのよ。 これまでのモンスター退治で稼いだおカネだから」


武具を買い替えるためクルチアが積み立てていたおカネの一部だ。


10万モンヌを受け取り、ミツキは自分の全財産を計算する。 自宅にある現金が20万モンヌ、妖精コインが3枚、そして手元の10万モンヌ。 これだけで中学を卒業するまで保つのだろうか?


ミツキの不安そうな横顔にクルチアは胸を痛める。


「大丈夫よミツキ。 大丈夫だから」


どう大丈夫なのか、クルチアは具体的に言えなかった。


          ◇◆◇◆◇


クルチアはハンター協会のロッカーに武具を預け、非武装の市民と同じ身軽な装いになった。


「さ、早く帰りましょ」


家路につくクルチアとミツキ。 もはや完全に夜。 食事をしたにしても遅い時刻。


(今日はさすがに遅くなりすぎた)


クルチアは母親に叱られる覚悟を固める。 ことによれば父親が帰宅していて厳しく叱られかねない。


(できればママに叱られたい)


クルチアは歩調を早めた。


隣を歩くミツキは、無言でクルチアに合わせてペースを早める。 協会を出てから彼は口数が少ない。 戦闘後のウザかった彼とは、まるで別人。 クルチアを助けた後でクルチアに威張るのは楽しかった。 レストランでの食事も美味しかった。 でも今、誰もいない家に戻り寂しく不安な夜を過ごす時が訪れようとしている。


           ◇◆◇


家の前の道端でクルチアと別れ、ミツキは誰もいない自宅に戻った。 一人きりの家の中で、別れ際のクルチアの言葉が耳の中で響く。 じゃあねミツキ、また明日。 クルチアといる間は、ずっと賑やかだった気がする。


ミツキは玄関に立ち、ジャージのポケットから財布を取り出した。 財布は珍しく厚みを帯びている。 ハンター協会でクルチアがくれた10万モンヌの厚みだ。 ミツキは財布を胸に抱き、寂しさを耐え忍ぼうとした。

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