・・・3話
謎のモンスターに追われてここに逃げ込んだ俺は、咄嗟に地形を操って通路を塞ぐことに成功したんだが。
「………感覚を覚えていたから再現はできる。けど………」
しょぼい。
この能力、あまりにもしょぼすぎる。
試しに1個円柱を造ってみたは良いものの、俺の背丈ほどの高さまでしか出来ない。
魔法が使えたのは嬉しいんだけどな。
「うんん………取り敢えず、なんか家具でも造ってみるか」
ここに椅子、そしてここに机。
と言っても簡易的なものだが。
出来た出来た。
まあ椅子と机に……見えなくもない。
はあ、最初は魔法が使えて喜んだけど、今はガッカリ感が強めだな。
「…………ほいっと」
何となぁく円柱をもう1回造ってみよ。
期待しすぎない程度にね。
「……お、あれ? これ、もしかして………」
心なしか、大きくなった?
なんかさっきの倍くらい……。
…………もしかして!
「この能力、使えば使うほど強くなるのか!」
なんて単純な。
これに気づかないとは不覚だった。
ゲームではよくあることじゃないか!
全く俺は………。
「あ、そうだ! それならずっと同じ作業を繰り返そう!」
ゲームでもよくやった。
序盤で雑魚モンスターを狩りまくってレベルを上げる。
ようはそんな感じでこの能力を伸ばしていくんだ。
そうすればいずれ………。
「ぐへへ………いやあ、楽しみだな!」
「ゼェ、ハァ、ゼェ、ハァ………ふう、こんなもんか」
なんか異様に疲れた。
運動はしてないのに。
MPでも消費してんのか?
そこらへん誰も教えてくれないからな。
でもその成果もあって魔法は結構上達した。
自分の体格の数倍は地形を操れるようになった。
それにこうやってこうすれば。
「よし!」
少し大変だけど、形をより精密に変えることができる。
例えば………。
「剣の形! 槍の形! 使えないけどパソコン! それに花瓶も……花はないけど」
この調子で続ければ本当にすごいことが出来るかも。
ふっふっふ。
もしかすると俺の力は結構強いのかも?
さて、そんなわけで続きといきたいところだけど。
「ハァラが減ったぁぁ……」
ここはゲームじゃない、現実の世界。
だから腹は減るし疲れる。
ずうっと同じ作業は続けられない。
「つっても食べ物か………」
だめだ。
思い当たる食料があいつらしかいない。
あの俺を襲ってきた………。
でも嫌だなぁ。
あいつらの肉は不味そう。
「……………イヤイヤ! 何を言ってるんだ。これは命懸けのサバイバルなんだ! 狩るか、狩られるか。味がどうだのと言っていては三流よ!」
もしも無人島に漂着したら、なんてことを考えていた。
助けは来ずに、食料は獲らねばならない。
拠点を造り、徐々に快適にしていく。
そうしていずれその島の覇者に!
そんなことを……。
そして今がその時だ!
「よおし! やるぞぉ!」
ここが俺の出発地点。
この洞窟から俺の異世界ライフが始まる!
「さてと、それじゃあいつらを倒す武器でも作るか」
そうだな。
ここはやはり王道の剣で。
対面は普通に怖いから盾も用意しておこう。
「おお! 結構いい感じじゃないか………! ま、両方とも石だけどね」
にしてもこれ、意外と軽いな。
石って重いよな?
こんなに軽々と持てなかっただろ。
やっぱ筋力とかも上がってるのか!
「いやあほんと、見た目以外は文句ないんだけどな。見た目以外は………」
そ、そんじゃ出発しよう!
まずは塞いでおいた入口を開けて。
「…………」
よし、誰もいないな。
あいつら素早いし、縦横無尽に動き回るからな。
全方位警戒しないと。
それで結局何もありませんでした。
「あれおかしいな?」
何事もなく青色の水晶の所まで来たんだけど。
てっきり執念深く俺を待ち構えているかと。
俺、警戒しすぎてもう気疲れしてんだけど。
「出てくれないと俺が飢え死にしちまうぞぉ………おおい! 誰かいない?」
返事は無しっと。
ハァァ。
もう誰でもいいから出てきてくれ。
いい加減腹が限界なんだけど。
さっきから腹が音鳴らしてて死にそうなんだけど。
…………水晶のもっと奥まで行ってみるか。
あの先輩ノームがいるなら、何食ってるのか聞けたんだけどな。
というかこの世界、どんな食べ物があるんだ?
前世とあまり変わらないのなら嬉しいんだけど。
「米食いてえよ米ぇ…………ん?」
なんか音が聞こえるな。
パタパタと、軽い感じの。
何の音だ?
「…………んん?? この音、こっちに近づいて……ああ!」
奥に何かいる。
あれはもしかして。
「ゴブリン!?」
前にあった奴らと違って何も着てない。
股は何かの皮で隠してるんだけど……。
いや隠してないのもいる!
フル○ンじゃねえか!
ん、ちょっと待てよ……。
「隠してないのアイツだけだ! アイツだけ変態だ! フ○チン・ゴブリンだ!」
なんと破廉恥な。
これは粛清せねばな!
「変態は、極刑だ!! うおおおお!」
闇雲に突っ込んで行ってるが、まあゴブリンだし大丈夫か。
これもチュートリアルだろ。
ゴブリンなんて絶対雑魚だし。
「くらえ! スター○ースト、ス○リーム! ああ!?」
剣が!
洞窟が狭すぎて剣が天井に当たって!
「壊れた!」
まずいまずいまずい!
ゴブリンがすぐそこまで!
何か新しい武器を。
剣はだめだ。
短剣は?
いやリーチが短い武器はちょっと。
あ、やべ。
「や、やられっ……! おお?」
こ、これは!
あっぶねえぇぇ!
盾が防いでくれた!
俺を覆うくらいデカくしといて良かったぁ。
おっと、安心している場合じゃない。
早く何か武器を。
「武器、武器………ああ! もうめんどくさい! みんな潰れろ!」
疲れるからやりたくなかったけど、しょうがない!
地形を操作してゴブリンどもを圧死させる。
これなら余計なこと考えなくても必中だ!
「おりゃあ!」
……………おお、凄いな。
まるでトマト。
いや、肌が緑だったからスイカか。
何にせよ俺の勝ちだ!
「地形を元に戻して…………ってうわ!!」
まだ1匹ゴブリンがいた!
しかもすぐそこまで!
地形操作は間に合わない。
だったら盾で防いでその隙に武器を。
し、しかし何の……。
圧死……そうだ!
力が強いならこれで!
「ハンマーで……! あ!」
こ、こいつ、フルチ○だ!
○ルチン・ゴブリンだ!
「っぐ……フルチン・ゴブリンよ、眠らせてやろう、永遠にな………」
俺のハンマーはそいつの脳天を見事にかち割った。
そいつは呆気なく地に伏し死んで、俺は何となく手を合わせてやった。
俺はそいつが飛び上がった時に見えたアレを思い出す。
やっぱり、小さかったなぁ……。
「フルチン・ゴ○リンよ、安らかなれ………」
まあ、こんなもんか。
「よっし。弔いも済んだことだし、早速ご飯タァイム! 燃えるものがないから焼けないけど、まあ生でもいいよね。いっただっきまぁす!」
こ、これは!
この味。
噛んだ瞬間に溢れ出すこの!
「おrrrrrr……まずい! 不味すぎる!」
というよりこれは味がどうこうというレベルを超えてる!
何というか、こう、タイヤ食ってるみたいな。
食べ物というにはおこがましいレベル!
「こ、これは食えん! 評価するにも値しない汚物だ!」
くう、クソ。
口の中が変な感じだ。
食欲も失せた。
あ、そうだ。
これならもう食べ物はいらないだろ。
「ははは。良かった、良かっ………ぐは。力が入らない……」
うう、どうすれば。
この洞窟のどこに、食べ物が………。