屋根裏に武田信玄が居る
夜、部屋で焼肉をしていたら、屋根裏からガサガサと音がして、鼠とかだと嫌だなぁ、怖いなぁ、と思って新聞紙を丸めてヘルメットをかぶり、観ていた映画を止めてゆっくりと天井を開けてみた。真っ暗な屋根裏へスマホのライトを向ける。
「風林火山」
なんか居る。
変な小っちゃい椅子みたいなのに座ったオッサンが、腕を組んで風林火山とか言っていた。だとすると、あれは間違いなく不審者だ。
そっと天井を閉めて『風林火山 屋根裏』で検索した。しかしアレが何なのかは分からなかった。
「もしもし大家さんですか? 屋根裏に出るんですよ。ええ……風林火山のオッサンが」
借家なので、仕方なく大家さんに連絡を取った。
大家さんなら何とかしてくれるかもしれないと思ったからだ。
「──大丈夫。座敷童的なものだから」
「ほんとにぃ?」
「ホントホント。それより家賃──プッ」
「アレェ? デンワキレチャッタナー」
大家が使えないと知り、再度風林火山オジサンへアタックを試みることにした。
屋根裏へ続く天井を開け、スマホのライトを向けた。
「眩しき事、光の如し」
私はそっと天井を閉めた。
「もしもし大家さん? 今度は何とかの事光の如しとか言ってるんだけど……」
「──大丈夫だってば。前にお祓いもしてもらったし」
「ん? お祓いってなに?」
「……」
「もしもし? お祓い──って、電話切りやがった!」
家賃がやけに安い理由が今ようやく分かった。この家、なんか出る……!
チクショー、女一人でのびのび借家生活をしようと思って飛びついたのに……。
「さて、どうしたものか……」
まだやりかけの焼肉達が目に留まった。うむ、煙攻めにしよう。
天井を少しだけ開けて、焼肉の煙をモクモクと充満させてゆく。幽霊とか妖怪に煙攻めが効くかは不明だが、効いたとしたら不審者説が濃厚だ。
──ガコン
風林火山オジサンが、屋根裏から梯子を下ろして降りてきた。
「風林火山」
「ちょちょちょ!! 警察に電話するわよ!?」
「肉を焼くこと焼肉の如し」
「そのまんま!」
──スッ
「誘われること飯の如し」
「座るなし!」
──モグモグ
「タレ、甘口の如し」
「食うなし!」
──プシュッ
「かぁぁぁぁ! この1杯の為に生きてるんだよなぁの如し」
「人の勝手に飲むなし!!」
──ピッ
「コレ最後主人公死ぬんだよねの如し」
「映画のネタバレすんなしぃぃ!! ──もしもし警察ですか!? 風林火山を名乗る男が焼肉とビールで映画のネタバレを……って彼氏じゃなーい!!!!」