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聖女様の秘密のお仕事4

「あれから約十年。あの時はまさかこんな仕事に需要があるとは思ってもみなかったけど……」


「そうですか。私は実に妙案を思いついたと、雨の中で野垂れ死にそうになっていたあなたを見付けた時に小躍りしたものですが」


「小躍り……」


 出会ったときと同じ無表情で今度は札束の枚数を数え始めたクレイストに、レイリアは怪訝な目を向けた。


 付き合いの長いレイリアも、この男が素直に笑うところを見たことがない。ましてや歌ったり踊ったりする姿など想像もつかなかった。


「でも依頼人はご令嬢ばっかりだよ。クレイストみたいに男の依頼人は殆どいないよ。目論見は外れたんじゃないの」


「最初から、女性客が中心になることは分かっていましたよ。当然でしょう?」


 指で眼鏡のブリッジを押し上げると、クレイストはレイリアを見下した。


「女性と違って男性は結婚にそれほど縛られることもありませんからね。わざわざ婚約破棄などしなくても、第一夫人が気に入らなければ、第二夫人や愛妾を作ればいいだけの話です。他に目的がなければ、自分の将来に瑕をつけかねないこんな荒行には手を出しませんよ。身の破滅と引き換えのこんなこと」


「まあ、実際にクレイストは廃嫡されたもんねぇ……」




 十七歳の王太子が婚約者を捨て、十歳の、しかも貧民窟の少女を妻に迎えると言い出したことで、王宮は上へ下への大騒ぎになった。


 それでもそれが「狂言」や「妄言」として無視されなかったのは、一重にレイリアの背中にまごう事なき「聖女の証」である「羽根」があったからである。重鎮の中には「聖女であるなら王子が惹かれるのも当然」というわけのわからない理由をつけ、なんとかこの国に聖女を取り込もうとしていた者もいた。


 さらにそれを後押ししたのは、以前この王国で聖女が王太子の婚約者だった悪徳公爵令嬢・グレイシア・エンバーストから国を救った過去があったからだ。王妃となった聖女はクレイストの弟を産んだ後に急逝したが、その顛末は今でも劇の題材として扱われるなどして馴染みのある話だった。


 最終的には先王の「どうしても聖女と一緒になりたいのなら、王族の立場を捨てて平民になる覚悟でいろ」という最後通牒が出た。さらには「聖女が二十歳を超えるまでは手出しはまかりならん」というオマケ付きだ。


 先王は未だに平民出の聖女と結婚した息子を許しておらず、さらに期待をかけてきた出来の良い孫の第一王子を同じ境遇にすることにかなりの反発を抱いていたという。


 聖女が聖女でいられるのはなぜか決まって二十歳まで。聖女が欲しいだけならば、二十歳までに手に入れられなければ意味はない。


 前王は聖女を欲した息子で失敗した分を孫で取り返そうとして脅しに出ただけで、本当に廃嫡する気などなかったようだ。しかし、クレイストはその言葉をそのまま受け止め、めでたく廃嫡。平民となり、ついでに「聖女ではなくレイリア自身が欲しかった」=「幼女趣味の変態王子」の悪評までひっさげて城から追放されてしまったのである。


 父である現王は最後までクレイストを残すことにこだわったようだが、その言葉をクレイストが聞くことは全くなかった。


 弟王子がいたからこそ叶った廃嫡ではあったが、それもクレイストの計算のうちだったようだ。


「たいした理由ではないですよ」


 レイリアがその訳を聞くと、クレイストはつまらなそうに答えた。


「そうですねえ。『真実の愛』を探す旅に出たかったから、とでも言っておきましょうか」


「殿下のお父様とお母様が『真実の愛』で結ばれたから、ですか?」


 クレイストはふっと暗く笑い、その後は一切口を開かなかった。


 当時、まだクレイストは王子であり、レイリアは平民。今ほどくだけた関係では無く、レイリアはクレイストを「殿下」と呼んでいた。つまり、それ以上レイリアは突っ込むことはできなかった



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