《7》
〝3〟。
〝3〟ってちょうどいい数字だと思う。多すぎず、少なすぎず。3よりも大きな4や5は多いと思うし、逆に、3よりも小さな2や1は少ないと思う。俺の好きな数字で、俺にとっての黄金数。
「おっしゃ!レミラスの2ラン!」
「えぇ~!今の読んでたの~」
某野球ゲームをする2人、5回が終わり5―3でいっちゃんがリードしている。
いっちゃんとイワ、そして、俺。この空間。男3人でいるこの空間が大好きだ。心が落ち着いて、安心出来る。この2人になら、何でも言えるし、話すことが出来る。親友。俺にとって、この2人と居られることは幸せな時間。例え、言葉がなくとも、ここに居られるだけでいい、そう思える。人付き合いがあまり得意じゃない自分にとって、自分が自分になれる、自分が自分でいていい場所なんだと思う。
別に、人のことが嫌いな訳じゃない。むしろ、好きな方だと思う。俺はすぐ人を好きになる。誰とでも仲良くなりたいと思っている。
でも、それが不可能だということはすぐに分かってしまう。相容れない人は、この世界に必ずいるのだ。性格、思考、価値観、感覚、生理的なモノ……十人十色と言うけれど、正にその通りで。
それを踏まえての人の社会。上辺だけの付き合いというものはどうしても存在する。
正直に言えば、そんなの嫌だ。お互いが本音でぶつかり合えれば、全てを曝け出せれば、打算的な考え方は必要なくなる、と俺は思う。
分かってはいる。現実問題として、それは机上の空論にしか過ぎないことに。思い描くのは、所詮、理想の世界。俺の我がまま。
〝友達100人出来るかな?〟。
小学校1年生の時に聞いたこの言葉。本当にそうなったらいいのに、と思った。クラス中、学年中、学校中の人たちと友達になれたら……。
子供心にそう思ったけれど、高い壁に阻まれることになる。最初はみんな同じだったはずなのに、爪ぎわの皮が剥けるささくれのような、ふとした些細な事をきっかけにして全てが崩れていく。波打ち際に作った砂のお城みたいに、崩れる時は一瞬だ。
子供は素直なのだ。良くも悪くも。〝好き〟と〝嫌い〟の二者択一が綺麗なほどはっきりしている。彼らに上辺だけの関係は必要がない。2つの感情のどちらかによって全てが決定する。友達になりたいかそうでないか。確かにその通りだと思う。それが1番楽だから。
でも……このやり方は、時に無性に寂しく感じられる。温まっていた空気が、急に冷めてしまうような、エアポケットの瞬間を生み出してしまうから。そんな瞬間を目の当たりにするのは本当に寂しいことだ。その光景を見たくないから願うのだ。誰もが仲の良い、夢のような世界を……。
俺は信じたい。その相手のことを。信じなければ、何も始まらないから。
「……」
俺はひとつ、ため息を落とした。自嘲するような乾いた笑みを浮かべて。自分のことが悲しいくらいに可笑しくて。この想いが諸刃の刃だということは分かっていたはずなのに……。
ある時、気づかされた。俺の考えが甘かったことに。俺の願いは人の夢宜しく、儚く消えたのだ。中学生のあの日に……。だから、痛いほど分かっている。人はそう相容れない。
……。
ただ、簡単には割り切れなかった。痛みを伴って尚、俺は願っていた。叶うことのないその夢を。
永遠に叶うはずがないのに……。そのギャップが、俺をずっと歪ませている。
こんな自分なのに……。
俺はちらりと2人を見た。楽しそうに2人は笑っている。こうやって、傍に居てくれる人がいる。2人になら、本音を言えば本音で返してくれる。気持ちを向ければ気持ちを返してくれる。全部を返してくれる。友達の存在が、俺には何より嬉しかった。ここに居られることが、この上ない喜びだと思っている。本当に、そう。
……それもこれも、ナギのおかげなんだよな。
改めて感謝する。この2人と俺を結び付けてくれた、唯一の同学年の女友達。彼女も俺にとって大事な存在。〝女の子〟という時点でも特別な意味があるのだが。
……ナギ、まだかな?
ナギの到着を待ちつつ、2人のゲームをしながら笑い合う光景に、俺は静かに目を細めていた。