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永遠の7days  作者: 真里貴飛
【1時限目】
12/93

《11》

「ふわぁ……」


ナギが眠た気な欠伸をひとつ落とした。その目がトロンとして今にも眠ってしまいそうで、気だるそうに目を擦っている。


「そろそろ上がろうか?」


いっちゃんが提案する。時計を見れば12時を少し回っている。日付が変わってしまっていた。


「そうやな。じゃあ、片付けるか」


イワが重い腰を上げる。


「あ、いいよ、そのままで。片付けは俺がするから。みんな帰っちゃって」


「いいっていいって。1人じゃ大変だろ。周哉、俺たちにんな気なんか遣うなって」


ニッと笑ういっちゃん。食器類をまとめてその手に持つ。


「ありがとう。じゃあ、いっちゃんはみんなの荷物をまとめててよ。運んだりするのは俺がするから」


「大丈夫。キッチンの流しに運ぶだけだから。洗い物は任すし」


「え、でも悪い―」


俺の言葉に無言で笑顔を見せたまま、いっちゃんは眠たそうな気配を一切見せず、確かな足取りで部屋を出て行った。


……あれ?


いっちゃんの後ろ姿を見ながら、俺はまたしても違和感を覚えた。理由は分からないが、何かおかしいのだ。言葉に出来ないのがもどかしい。でも……何かが変だ。何かが。


「ごめんね、周哉」


眠気に支配され散漫な動作でゴミを片付けながらナギが言った。


「こんな散らかしちゃって。お母さんとかいないから、後片付け大変なのに」


「そんなこと……。今日、みんなに来てもらったことが嬉しかったし楽しかったから、全然いいって」


「うん。今度はみんなでどこか遊びに行こうね」


「俺はいいけど……いっちゃんと2人の時間も作らないと」


「それはもちろんだよ。いっちゃん、色々と連れてってくれたりしてるから。2人ではコンスタントに会ってるけど、4人でってのはそうないから。4人も楽しいもんね」


幸せそうにナギが微笑んだ。


いっちゃん、ナギのこと凄い大事にしてるんだな。


ナギの顔を見て俺は確信した。


「よっし、と。こんなモンやろ」


ふぅ、とイワが右腕で額の汗を拭う。気がつくと、部屋の中が綺麗さっぱり片付いていた。


「悪い、イワ」


「エエってことよ。オレとしては、いい画が撮れたし」


「は?」


イワは意味深な笑みを浮かべながら、左手にあるデジカメを振って見せた。


「周哉とナギのイチャイチャ画像。バッチリ撮っといた。現像料はお安くしとくよ?」


「おいおい、イチャイチャなんかしてないだろ……。いっちゃんとナギの仲を壊すようなことだけはするなよな……」


「大丈夫だよー、周哉。私たちは」


舌っ足らずな口ぶりでナギが言う。言葉の調子がマッタリしているが、調子に反してそれは確固たるものだと思えた。とそこに、いっちゃんが戻ってくる。


「食器類はオッケー。部屋の中も粗方片付いたみたいだね。あとはその鍋だけか」


「あ、これは下に降りながら持ってくから」


大丈夫、と俺が制した。それじゃあ、とみんなは帰り支度を始める。支度が終わり3人が階段を降りていくのを、鍋を持ちながら俺も後から追う。


「外、寒いからいいよ。ここで」


「うん、でも」


玄関先でいっちゃんが遠慮するのを遮って、俺もみんなと一緒に外に出る。深夜ともあって、外はしんと静まり返っていた。俺たち以外、この世界に誰もいないんじゃないかと錯覚するほど静かだ。


灰色の空は相変わらずだが、先程まで降っていた雪は止んでいた。空気が凍てつくように張り詰めていて、身体の芯から攻め立ててくる。寒い。地面は白銀世界を思わせるように、まっさらなキャンバス如く一面に雪が積もっていた。


「止んでる。帰るなら今の内やな」


「そうだね。雪、積もったねー。こんなに積もったの久しぶり」


「これ、地面凍りそうだな。滑らないように気をつけないと」


庭を歩いていく3人の後に続く。15センチくらい積もっただろうか。この天気が続くと、しばらく雪は残ってしまうかもしれない。


「じゃあ、俺ここまでだけど」


門を開けた所で俺は立ち止まる。3人が振り返った。


「うん、今日はありがとね」


「周哉、風邪引いちゃうから、早く家の中に入りなね」


「また来る」


三者三様の笑顔を向けて、3人はそれぞれの帰路へ就いた。


「さてと……」


後片付けは明日にして、そろそろ寝るかな……。


3人を見送って門を閉めようとしたが、ふと郵便受けに何かが入っていることに気がついた。風が吹きつけたためか、透明のビニール袋に包まれた何かが雪に埋もれている。


何だ、これ……。


俺は雪を払いのけ、その何かを引っ張り出した。水滴が纏わりついたビニール袋を引き千切って中身を取り出す。


「新聞……?」


中は何てことがない地元新聞だった。


そうか、今日から親が旅行で出掛けてるから、受け取るのを忘れていたのか。


「ふわぁ……んじゃ、寝る―」


欠伸をし、門を閉めたところで、俺は身体を硬直させた。一目見た新聞の断片が、頭の中で反芻される。


ちょ、ちょっと待て……おかしくないか。


ごくり、と生唾を飲み込んで、俺は恐る恐る新聞を開いた。


まさか、そんな……。


新聞を持つ手が震える。この寒さからくる震えではない。俺の目に映る新聞、テレビの番組欄。その表題となる1番上の所。


2004年(・・・・・)12月25日(・・・・・・)


……。


言葉が出なかった。


……。


……マジか。


愕然とする反面、俺は妙に納得していた。

頭の中で、散けていたパズルのピースが1つになっていくのを感じる。

イワの満塁ホームラン、ナギが来るタイミング……違和感を覚えた数々の出来事。

違和感の正体がやっと、やっとはっきりした。


だから、いっちゃんは右足を庇うことなく(・・・・・・・・・)普通に歩いていた(・・・・・・・・)んだ。


……嘘だろ。


「何てこった」


暗い空に向けて呟く。


ここは2年前の世界なんだ……。


吐き出す息がより一層白さを際立たせる闇夜の下、突きつけられた刃物より鋭い現実に、しばらくの間、俺はその場から動くことが出来なかった。



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