竜の里
一つ、常に民を守る盾となれ。
二つ、竜の力を悪用してはならない。
三つ、騎士と竜は共に生きること。
竜騎士たるもの、この三つの掟を決して忘れてはならない。
トルト王国は三千年以上前から人と竜が共に生きる国だ。国を守る騎士は、竜に乗り、空を駆け、民を守ってきた。竜と共に戦い、敵を圧倒し、トルト王国は広大な領土を手に入れ、世界最強のの軍事国家となった。しかし、トルト王国の西の海に位置する魔法王国アンローナでは、竜騎士軍に対抗すべく、魔法の研究が始まり、トルト王国との対立は激しくなっていった。
トルト王国の北に、五千メートル級の山々に囲まれた、小さな秘境がある。そこは、たくさんの竜が見られることから、竜の里と呼ばれている。その里の人々は、山を越えるときに竜に乗るのだ。里に生まれた者は、小さい頃から竜に乗る訓練をさせられ、成人するころには竜騎士に並ぶほどの腕前となる。里を出て竜騎士になるものも多い。
そんな里に、ジェイク・アグリオという少年がいた。
今日は俺の十六歳の誕生日。成人の儀式を終えれば、俺は里を出られる。
成人の儀式は古くから里にあるもので、一匹の竜を相棒にするのだ。そうすると、竜乗者として認められ、『竜乗者の証』をもらえるのだ。その証を持っていて初めて、竜に乗って里を出ることを許されるのだ。
ジェイクはベッドから勢いよく起き上がり、着替えた。
軽い足取りで階段を下りて、居間のテーブルに腰を掛けた。
「母さん、今日は俺の誕生日だよ。俺もようやく、大人の仲間入りだ」
母はパンを切りながら目を細めた。
「そうね。ジェイクがもう里を出てしまうのね」
「俺、里を出たらレイトッカ城下町に行って竜騎士になるよ」
「頑張ってね。兵士になるのは、とっても大変らしいわよ」
「大丈夫。俺には相棒のロロンがいるからね。ロロンは里で一番強い竜なんだから!」
母は笑った。
「ジェイクったら、自信たっぷりなのね。でも、一つ忘れないで。どんなに自信があっても、どんなにすごい力を持っていても、努力だけは忘れないでね」
「分かってる。母さん、俺が小さい頃からよく言ってたもん」
ジェイクは朝食のパンとスープをあっという間に食べ終えた。そして、鞄を持って外に出た。
ジェイクは玄関の外に出て、思いっきり息を吸い込み、竜の笛を吹いた。
透き通るような高音が空に鳴り響いた。
「グアーーー!!」
一匹の炎のような赤色のドラゴンが現れた。そしてジェイクのもとに舞い降りた。
「おはようロロン。元気?今日は俺の成人の儀式があるんだ。儀式を終えたら、お前は正真正銘の相棒だ!」
「グワンッ!」
「ハハハ、じゃあ、広場まで飛んでくれ」
ジェイクはロロンに飛び乗った。