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第二話 王子王女の庭園

「そんなの、お兄様に打ち明けちゃえばいいじゃん」

「ヤだよ。そしたら兄貴に手ぇ抜くなって説教されるだろ」

「まあねえ。でも別にコーエンって頭がいいわけじゃないしね」

「言い過ぎ!」


 コーエンがむくれる。


 王族のみに解放された庭のうちの一つ。王子王女の遊び場として設けられた小さな庭園。

 そこに設置されている人工的に造られた岩場は、双子の王子王女のお気に入りの場所だった。

 コーエンはエーベルより頭一つ分高い位置に腰をかけて足をぶらぶらと揺らしている。


 エーベルは呆れ顔で双子の片割れを見上げた。弟コーエンは拗ねたようにエーベルから顔を逸らしている。


「言い過ぎも何もないじゃん。コーエンは『見える』だけ。お兄様みたいに自分の頭で考えて答えを出してるわけじゃない。『見える』のはコーエンの才能だし、ズルしてるなんて思わないよ。『見る』のは疲れるみたいだしね。だけど頭がいいわけじゃないのは事実でしょ。本当に頭が回るんだったら、考えなしに『見て』回って、自分の首絞めるなんてことしないよ」

「……うるせー」


 コーエンは不安定な岩場で膝を抱える。エーベルから背けた背中を夕日の朱色が照らしている。


「お兄様ならきっとコーエンの話、ちゃんと聞いてくれると思うよ? 無暗にコーエンに『見ろ』なんて言わないと思う。それに『見る』べき時とそうでない時を教えてくれると思うけど。お兄様なら適所適材の差配をしてくれるもの」

「……そんなの、兄貴の負担になるだけだ」


 ぼそりと呟くコーエンにエーベルは(まなじり)を下げた。

 まったく。素直なようで素直じゃない。

 こんなにもリヒャードが大好きで、リヒャードの役に立ちたいと願いながら、リヒャードの劣等感を煽ってリヒャードを傷つけてしまう自分(コーエン)を嘆き、傷ついている。


「お兄様は負担に思わないと思うけどなあ……」


 エーベル自身、頼りない声だと自覚しつつ声に出す。するとコーエンががばりと顔を上げ、岩場に手をついて勢いよくエーベルの前に飛び降りた。


「おい、エーベル。それ本気で言ってんのか? あの優しい兄貴が、俺が『見える』なんて知ったら……!」


 コーエンの脳裏に、兄リヒャードの苦悶の表情が蘇る。


 父国王が議会を無視し、佞臣らと国政を仕切ることで、国内には不穏な芽が生まれていた。

 憂慮した王太子リヒャードは、王弟グリューンドルフ公爵とともに、王室からの立憲君主制を推し進めようとしていた。

 そのために起こったクーデター。犠牲となった人々。


「兄貴はただでさえ私情を捨てて、国のために非情に振る舞うことを自分に課してるんだぞ! それなのにこれ以上兄貴に冷酷な判断をさせろって言うのかよ!」


 エーベルに掴みかからんばかりに詰め寄り、荒々しく狼のように吠えたかと思うと、コーエンはぐっと息を飲み込んで下唇を噛む。エーベルはしょんぼりと肩を(すぼ)めた。


「ごめん。軽率だった」

「……いや。八つ当たりだ。俺こそごめん、エーベル」


 上目遣いで許しを請うようにエーベルに縋るコーエン。くるんと上向きの金の睫毛は微かに震え、ふっくらとした頬っぺたが赤く照らされている。

 エーベルは白くふくふくとした手をすっと前に出し、コーエンの背に回した。


「じゃあお互い様ってことで」


 ぽんぽん、とコーエンの背中を軽く叩くと、コーエンもおずおずとエーベルの背に腕を回した。


「……うん。エーベル、いつもありがと」

「どういたしまして。片割れ君」


 互いの肩に埋めていた顔を上げ、目を合わせる。くすくすと笑い合う双子。回していた手を離すと、エーベルはコーエンから離れ、先程までコーエンが座していた岩場によじ登ろうと手をかける。


「おい、お前今日は裾の長いドレスなのに……」


 水色のドレスの裾からは、フリルいっぱいの白いシフォンパニエと、それから膝下までのドロワーズがバッチリ見えている。

 コーエンは肩を竦めてエーベルの傍に近寄る。


「ドレス汚すとまた怒られるぞ」


 そう言いながらもコーエンはエーベルが登りやすいように、エーベルのドレスの裾を掴んで持ってやる。


「いいの! だって見てよ、すっごく空が綺麗!」


 上り終えて岩場に立つエーベルは沈みゆく太陽を指さす。

 顔の片方だけが西日に照らされ、もともと赤みがかった金髪は真っ赤に染まり、燃え上がるかのよう。王女らしからず大きく開けた口は、にいっと不敵に吊り上がり、片手をコーエンに差し出してくる。


「コーエンもこっちに来てよ!」


 コーエンは目を細めてエーベルを見上げる。

 夕焼けに照らされた双子の姉は、まるで宗教画のようにとても美しく、コーエンの胸にいつまでも刻まれることとなった。




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