61 援護
「いやー、おせーよ」
視界の片隅に映っていたはずの剣児と銀次の姿が消え、俺はぼそりとそう呟いた。
ヴァーセブンが放った無数の影は、並みの冒険者であれば石化せずとも食らっただけで即死は免れないだろうと容易に予想がつくほどの強力さであった。
ゆうなでさえも気を失ったくらいの攻撃が、更に力を増して町全体へと無作為に襲いかかろうとしている。
破滅……、彼等の姿を見なければ誰しもそう思うだろう。
ッダンダン、ダンダンダンダン!
石化した大蛇や石の塊が砕け散る中、一瞬で銀次の体を持ち去った英雄は、俊敏な動きで迫りくる黒い影を剣で薙ぎ払う。
これまた素早い動きで剣児を抱き抱えたまほは、地属性魔法を唱えた後に跳びながら火属性の魔法を連発し影を相殺する。
ゆうな達のところには、守が巨大化させた黄金の盾を構え、全てを守り抜く。
盾に隠れてやや後方にいる賢太郎は、町への侵攻を防ぐために大型の結界を張り、町へ放たれた全ての影はその結界を前に為す術を無くしていた。
俺はというと、他とは違い、まほの土属性魔法により足元に穴を開けられそこに落とされるという手荒な方法で守られた。
別に守ってもらわなくても良いんだが、俺がハーデスだと知っているのは英雄と賢太郎だけなので、その事を知らないまほは一般冒険者として俺を認識している。
故に危険と判断し守られたのであった。
この俺が誰かに守られるとはな。
何とも言い難い感覚に、くり貫かれた穴の中で俺はボーッと物思いに耽っていた。
一頻りにヴァーセブンの攻撃が終わったあと、破壊された石化した魔物達が崩れ落ち、灰色の砂煙が辺り一帯を覆った。
ドッッッゴンッ!
俺はまほの土属性魔法により足元が盛り上がり、大きな音と共に地上へ舞い戻る。
無表情で迫り上がった俺は、まるで神の使いかの如く姿を現す。
石化した剣児を抱えたまま、まほが近寄ってきた。
「ねぇあんたー、大丈夫ー?あたしが守ってやったんだからお礼くらいしたらー?」
「ん?あぁ、ありがとな」
俺はまほに軽く手を上げ、英雄と賢太郎を探す。
「えー、何その態度ー!もうぜーったい守ってやんないからねー。てかここ危険だから離れたら?じゃ」
プイッとそっぽを向いたまほは、そのまま守がいる方へ向かっていった。
続けて英雄がやってきた。
周囲を見渡し、人が誰もいないことを確認すると話し始める。
「ここで会うとはな、ハーデス。私達が来たからもう大丈夫だ。石化されたこの方も、賢太郎が治してくれるだろう」
「いやおせーよ、来るのがよー。このままだったら俺の力を使わないといけなかっただろうが。まぁでも、ありがとなー」
目線を下に向けると鞘に納まった剣が目に止まった。
おっ、新しくしてるな。
デュラハンキングとの戦いの際、俺は英雄の剣を借り、それをぐにゃぐにゃにして返していた。
申し訳ないなと思いながらも、こんな剣貸すからだろとも思ったわけで。
俺はその新調された剣を指差すと、英雄は誘導されるようにチラッと自分の剣に目を向ける。
「えぇ、新しくしましたよ」
鞘をぐっと自分の体の方へ守るように引き、笑顔を向けてそう言い放つ英雄の目は決して笑っていなかった。
中々執念深い男である。
ゴゴゴゴゴッ!
地鳴りと共に地盤が揺れ動き、またも新しい大蛇や石の塊が姿を現した。
「人間共めぇぇぇえ!」
ヴァーセブンの雄叫びがこの地に響き渡る。
それと同時に守がやってきた。
「こいつはもらってくぜー!おっ、この間の兄ちゃん。お前らの仲間は俺が守ってやるから安心しな!お前も早くこっちに来るこった」
守は石化した銀次を拐っていき、皆がいる場所へ戻っていった。
「また出てきたか。ハーデス、一緒に戦うか?」
「んー。この魔物達、お前らだったら一瞬で倒せんのかー?」
「ん?この程度であればな」
「じゃ、5分だけ時間をくれ」
俺はそう言い残し、皆のところへと向かおうとしたが一つ言い忘れたことがあったので、振り向き英雄に言う。
「あと、戻ってくるまであんま倒さないでな」
そして皆の元へと俺は駆け出した。
「おー、やっぱ来たか!とりあえず俺の盾の後ろに隠れて……っておーい!」
守が笑顔で出迎えてくれるが俺はそれを無視し、着くなり侶春と侶子を両脇に抱き抱え、タンナーブ中心部へと走り出した。
「出野さんまた空へ飛ぶんですかー?」
「うち嫌やー」
チビッ子応援団達は、何かぶつぶつ言っているが、そんな呑気な事を言っている場合ではない。
俺はこいつらを職業神殿に連れていくことにしたのだ。
「侶春、侶子、今からお前達には職に就いてもらう」
「「えっ?」」
こういう反応をするのも分からなくもない。
彼等はまだ冒険者ではない、そして今まさにタンナーブが危機に晒されている局面でこれから職に就くという訳の分からない事をしようとしているのだ。
心の準備も整ってなければ、何の職に就けばいいかも考えていないだろう。
しかし何れにせよ、何かしらの職業に就く未来があるのであれば、今が絶好の機会である。
なんせ、多くの魔物が犇めき蠢く中こちらには仲間に経験値を分け与える山分けの石と人間界最強の英雄パーティがいるんだ。
混乱に乗じて俺が魔法で一掃しても、英雄パーティの誰かがやったと思うに違いない。
いや、それではまほと守に俺の存在が気付かれるかもしれない。
一応保険をかけておくか。
「おい、飛ばすぞー」
俺は柿ピーを口に頬張り、高速で飛行を始める。
「出野さん、これって……!?」
「あぁ、これを食べると一時的に飛べるんだ。伝説の食べ物だ。誰にも言うなよ」
適当なことを言って俺は職業神殿を目指した。
職業神殿に着くと受付をしている女が「お客様、今日は……」などと抜かしていたが、ズカズカと二人を引き連れ中に入った。
俺は適正職を占う占い師の部屋には目もくれず、一直線に髭爺さんがいる奥の扉を開いた。
中へ入ると騒然とした外とは違い、静寂に包まれた神秘的な真っ白い空間が広がっていた。
くちゃくちゃ……
「おーい」
奥で背中を向け胡座をかいている髭爺さんを呼ぶと、爺さんが驚いた顔で立ち上がった。
「馬鹿もん!こんな時に来る馬鹿がいるかいの!」
振り向き俺の姿を確認するなり、怒声を飛ばしてきた。
そんなことを言う爺さんの口の周りには食べカスがついている。
「いや、呑気に飯を食ってるのもどうかと思うがな」
ギクッとした表情を見せた爺さんは、足元の飯を布で隠しコホンッと咳払いをし、身に纏った灰色のローブを整えた。
「で、今日は何の用じゃ?」
凛々しい顔で何事も無かったかのように話を進めだした。
「とりあえず、この二人に職を与えてくれ。時間がない。二人まとめて一分だ。一分後に来る。後は任せた」
しっかりとした説明もないまま全てを任され、ポカーンとする三人を残して俺はこの空間を後にした。
そして一分後、俺は扉を開けた。
俺はこの一分間の間でまほと守に気付かれない為の保険をかけておいた。
「終わったぞ。しかし聞けばこの者達は適正職の占
「侶春、侶子、急いで戻るぞ!」
爺さんが何か言っていたが、聞いている暇はない。
どこか嬉しそうな二人を連れ、戦場に戻るのであった。
次回予告
英雄パーティが現れたことにより一気に形勢逆転した。ハーデスは侶春侶子を職業神殿に連れていき職を与えた。戻ったハーデスはレベル上げの為、攻撃を開始する。しかし、ハーデス達に予想外の出来事が起こる。
次回 ~僧侶 新谷侶春 新谷侶子~




