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45 象徴

 そして賢太郎はこれから先の事について口を開く。


「そうじゃな、まほと守は二人で出口で待機じゃ」

「はぁ?どういうことだよ賢太郎さん!」


 守は賢太郎のその発言の意図を汲み取れず、不満を垂らした。


「えー、あたしもイヤだよこんなのと待機するのはー」

「おい、そっちかよ!俺はただ、戦う為に来たのに待機ってなんだよって思っただけなのによ!」

「あたしは待機も戦闘もどっちでもいいけど、あんたと二人で待つなんてしたくないから言っただけー」


 ちょっと引き気味になり守をジロ目で見るまほも、同じく別の意味での不満を露にしていた。


 英雄と賢太郎の二人でデュラハンクイーンとの戦闘を始める気なのか?

 あれだけ面倒だなんだと言いながらも、結局デュラハンクイーンはこの英雄パーティからしてみればそこまで強くはないのかもしれないな。


 賢太郎の言葉に対しての不満は、次第に互いの不満に置き換わり、ブーブー言い合う二人を宥めるように賢太郎は口を開く。


「まぁまぁ、出口に待機というのは重大な任務であるぞい。守、お主の役割はなんじゃ?」

「俺は仲間を守ることだね」


 少し誇ったような顔をし、チャキッと音を鳴らしながら槍を伸ばす守。

 もうこの槍折ってやろうかな。

 そしてまたチャキッと音を鳴らし槍を縮める守。


「まほ、容姿端麗なお主は、わしらのパーティの中でも人気が飛び抜けて高いと噂で聞いたことがある」

「容姿端麗?人気が高い?まぁ間違いないよねー」


 まほは顔を背けてそう返すが、無関心を装った表情の中には少しばかりの照れが見え隠れしていた。


 賢太郎は何が言いたいんだ?


 俺は話している三人を余所目に、会話に入らず黙っている英雄に目を向けると、それに気付いた英雄は賢太郎の発言の意図を汲み取っているのか目を閉じコクリと頷いてみせた。

 俺は英雄のその反応の意味も分からないので無視してまた賢太郎達に目を向けた。


「ということでじゃ、お主ら二人には入口付近にいるであろうこの者の仲間達と一緒に外で待機をしていてほしいのじゃ。もしわしらが取り逃がしたら洞窟から女王が出てくるやもしれん。そうなったら外にいるあの若い者達の命が危ない。さて守、皆を守ってくれるか?」

「任せろ!」


 もう聞き飽きたが、チャキッチャキッと音を鳴らし右手に持つ槍を伸ばしたかと思ったら縮め、地に片膝を立てしゃがんだ。

 いちいちうるさいなー。


 そして左腕に装着された金色の大きな盾を正面に構えると、またもやチャキッと音が鳴った。

 その音が鳴ると守の盾は四、五人を同時に守護できるほどの大きさに変形した。

 いや盾もかよ。


 そして誰もそれに反応を示さない。

 魔物も存在せぬこの空間で、一人大きすぎるほどの盾を構える守。

 そしてパシュッと盾を元の大きさに戻し、何事もなかったように立ち上がった。

 続けて賢太郎はまほに向かって話し始める。


「まほや、守一人じゃと女王から身を守れても、逃がしてしまう可能性がある。そんなときの為に強力な魔法が使えるお主がいてほしいのじゃ。人気者のお主じゃったら、外にいるこの者の仲間も大喜びじゃろうに」

「まぁそういうことだったらしょうがないわね。いいわ、あたしは待機するわ」


 まほは満更でもない顔をしながら一人歩きだした。


「あ、この人どうすんのさ?」


 まほは俺を指さし、賢太郎に意見を求めた。


「未来を背負って立つ男かもしれんから、わしと英雄の戦いを見せてやろうと思っとる。まぁ勉強じゃな。なに、わしがいるから女王に手出しはさせんよ。いいじゃろう、英雄?」

「あぁ。そういうことだ。外にいる方達には事情を話しておいてもらうと助かる。では、まほ、守、頼んだぞ」

「「オッケー」」


 二人は英雄の言葉をすんなり受け入れ、先を歩くまほについていく形で守は外へと向かい歩き出した。

 結局俺もデュラハンクイーンのところへ行くのか?

 そうだった場合、大魔法使いのまほと盾守の守の戦いも見たかったが、本当の俺を把握している様子の英雄と賢太郎と共に行動出来るのは幾らか気が楽であった。

というか、本当に俺をハーデスだと分かっているんだよな?

 

「おい爺さん、俺も行くのかー?」


 賢太郎はしばし無言になったが、二人がいなくなった頃合いを見計らい、俺の問いに返す。


「そうじゃ。お主にとってはまたとないチャンスであろう。最強の勇者の戦いを見れるやもしれんぞ?のう、ハーデス(・・・・)


 やはりか。

 賢太郎は全て分かった上でこの状況を作ったのか。

 しらを切ることもせず、俺はハーデスとして会話を続ける。


「ふっ、人間風情がよくもまぁ俺の正体に気付けたもんだなー。いつ気付いたんだ?」

「ほっほっほ、そりゃあ一目見たら気付くわい。この国の書物を読み漁ったからのう。身なりは違えど、魔王ハーデスじゃとすぐ気付いたわい。何よりも魔力の質が違った。英雄もそう思うじゃろ?」

「私の場合はやけに重たい空気だなぁと感じたが、直前まで魔物がいたのでその魔物から放たれるものかと思っていた。しかし彼のその特徴的な目の下の傷痕を見たときにあれ?と思ったのがきっかけだ」


 目の下の傷痕?

 あぁ、あの時の傷か。


 俺は顔を触り、確かめるようにその傷痕を撫でるが、相当昔の傷であったため感触は何もなかった。


「ほう、そうか。で、それが分かったところでお前らは目の前にいる元魔王の俺と行動をしてどうする気だ?俺が憎いのであろう?」


 過去の事を思うと、人間が魔王ハーデスと聞いたら逃げるか戦うかの二択しか道はないと考えていた。

 魔物と人間は、今もそうだが昔から敵対する者同士だった。

 お互いが手を取り合うなどお伽噺の世界でしか考えられない。


「憎いじゃと?ほっほっほ。お主が言う人間界じゃと、魔王ハーデスは平和の象徴じゃとも言われておるぞい」

「は?」


 俺は心底驚いた。

 俺の知らないところで、魔王ハーデスは平和の象徴になっていたとは。


 確かに俺は魔王時代、その当時のタンナーブ国王と停戦の条約を結んだ。

 それは人間の為ではなく、魔物の為に結んだのだ。

 魔王軍の仲間達が人間に殺されていくのを見過ごせなかったからである。

 それなのになぜ人間からそんな言葉が出てくるのか、俺は分からなかった。


「私もあなたを憎いと思ったことはない。むしろ感謝しているくらいだ。人間が何年もの間、ここまで平和に暮らせたことは歴史上ないはずだ。礼を言う、ありがとう」

「へ?」


 俺は英雄の言葉に拍子抜けした。


 感謝?俺に感謝?

 魔王に感謝する人間なんて頭おかしいだろ。

 そしてこいつは勇者だぞ、勇者。


 停戦してから、人間が俺に対してそんな事を思っていたとは知らず、俺は配下達と人間を馬鹿にした遊びとかやってたんだぞ?


 例えば、末端の弱い配下達を都の人間どもと見立てて、魔王役の俺が襲ってきたところに勇者役の配下が登場するも全員殺される魔王ごっこ。


 あとは、何本かの棒の中に一本だけ『人間王』と書いた棒を混ぜ、それを小瓶の中に入れて、一斉にその棒を引いて『人間王』と書かれた棒を引き当てた者は、背後に複数の弱い魔物を引き連れて威厳たっぷりと魔王城を徘徊する王様ゲーム。


 たまに開く魔王軍会議の場では余興をやることがあったが、勇者のパーティの全員が強そうな感じで登場するのに、実はめちゃくちゃ弱い魔法しか使えませんでしたーって寸劇は本当に腹を抱えて笑ったものだ。


 俺達はそんなんだったぞ?


「そういうことじゃ。だからわしら人間はお主に悪い感情は働かん。まぁ時間もないことじゃし、続きは歩きながらでも話そうかのう」

「そうだな。ハーデスと話したいことはたくさんあるが、まずは女王を倒さねばな」

「おう」


 二人が歩き出し、俺はそれに後ろからついていく。


「くっくっく」

「どうしたんじゃ?嬉しいのか?」

「いや」


 俺は笑わずにはいられなかった。

 なぜなら、あの日の寸劇の出来の良さを思い出してしまったからだった。

次回予告

 英雄と賢太郎についていく形でデュラハンクイーンの元へと歩き出したハーデス。新たに知る真実とは如何に!?そして戦いが始まる。


次回 ~デュラハンクイーン~

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