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44 魔王を討つ者

 元魔王の血が騒ぎ出した。


 その背中から感じられる強者としてのオーラ、それはまさしく魔王とは敵対する者のそれであった。

 白銀の鎧を纏ったその男は足元に横たわる女デュラハンを気にも止めず振り返る。


「大丈夫だったか?入り口付近で会った小さな勇者があなたを心配していた」


 そう男は口にするも俺の脳には内容が入ってこない。

 それほど何かが沸き上がるような感覚に身体も脳さえも犯されていた。


 俺が思うことはただ一つ。

 ……この者と戦いたい。


 俺は魔物の宿命というべきか、命を賭けた戦闘がこの上なく好きだ。

 遊びではない、本当の死闘だ。

 極稀に、頂で胡座をかいていると思っていた己に疑問をもつほどの強者が現れる。

 現魔王のグレンヴァや、俺の一部の配下達もそうであった。

 だからといって別に相手を殺そうとして戦うわけではない。

 ただ、自分の強さは本物なのか試したいだけである。

 まぁグレンヴァの場合は復讐か。


 そんな極稀に現れる強者が、今目の前にいる。

 それだけで元魔王としての、いや、ハーデスとしての血が騒ぎ出すというもんだ。

 しかしながら、今は人間界の冒険者、出野ハーとして日々を過ごしているので下手な真似はできない。


 俺は暴れるように身体を廻る血を鎮め、それを悟られないよう目の前の男に返す。


「あ、あぁ。それは俺の仲間だな。助けに来てくれたのか?」

「ほっほっほ、助けんでもこの男はやれたじゃろうに」


 背後から聞こえるその老いた声の主は、鎮めた俺の血を再燃させる。

 後ろを振り返ると、小振りながらも図太い杖を持ち、緑色のローブを纏った爺さんがゆっくりと歩いていた。


「あー、あたしの出番無かったじゃーん」


 更に後ろには自分の身長ほどある金属製の杖を持ち紺色のローブを纏う女がつまらなそうに呟く。


「俺もこの新しく作った槍使いたかったなぁ」


 その隣に並んで歩いている腕に金色の大きな盾を装着した大柄の男は、小さな槍をくるくると回しながらこちらに向かい歩いてきた。


 抑えろ、抑えろ。

 今は(・・)すべきではない。


 俺は心の中のハーデスを押し殺し会話を続ける。


「それであんた達は誰なんだ?」


 俺がそう問うと、後ろの大柄の男はチャキッと音を立てて小さな槍を一瞬で身長ほどの長さに変え、ぶんぶんと振り回した。

 その横にいる爺さんは迷惑そうな顔をしてそれを見ていた。

 ピタッと止まり矛先を俺に向け、大柄の男は答えた。


「俺達は現最強のパーティ、……そう言えば伝わるかな?」

「調子に乗りよってこの馬鹿者が」

「あ痛っ!」


 爺さんが杖で大柄の男の額を小突くと情けない声を漏らした。

 ほう、これが俺が人間界で最初に耳にした英雄(ひでお)さんパーティか。

 どおりで各々から得体の知れない力が感じられるわけだ。

 と、いうことは、この白銀の鎧を纏った男は津島(つしま)英雄(ひでお)だな?

 他の三人は誰だったっけ?

 ゆうなは前に話したときに他の三人の職業は賢者と大魔法使いと盾守(たてもり)だって言ってたような気がするけど名前は正直記憶にない。


「変なところを見せてしまいすまなかった。で、このデュラハンシスターズは二体のはずだが、もう一体の死体がないな。どこにあるんだ?」


 英雄は周りを見渡しながら俺にそう問いかけてきた。


「もう一体は奥へ逃げたぞ」


 俺がそう答えるとそれまで穏やかであった空気が一変した。


「英雄や、こりゃあ面倒なことになったわいのう。まぁいつか倒さにゃあならん魔物じゃし、奥へ行って倒してくるかい」

「おーおー、そりゃあ俺様の出番だなー!」

「でもあたし達の依頼ってデュラハンシスターズの討伐じゃなかったー?」

「あぁ、そうだ。ただこうなってしまった以上、これを見逃すとタンナーブに被害が出ることが考えられる。私達の正義は依頼をこなすことではない、優先すべきは民を守ることだ」


 会話についていけない俺は無の表情でそのやり取りを聞いていた。


「じゃあもう一暴れしてくるかー!」

「あんた何もしてないでしょ。分かったわ、奥に進んで女王(・・)を倒しましょう」


 女王(・・)?何の話だ?

 気になった俺は尋ねる。


「女王ってのは何だ?」

「ほっほっほ。女王の存在を知らぬか。まぁそうじゃろ、知っていたら逃がしはせんもんな。女王、いや【デュラハンクイーン】はこの奥でデュラハンを産み続ける魔物の親玉じゃ。そいつは執念深くてな。我が子が泣いて助けを求めようもんなら相手を地の果てまで追い回すような魔物じゃ。わしらは今からそいつを退治しに行くのじゃ。どうじゃ、お主も来んか?」


 賢者の爺さんから同行を促された。

 俺はこのパーティの戦闘を見てみたい気持ちが大きいが、ゆうな達が待っていることを考えると躊躇いの感情が拭いきれなかった。


 さて、どうしたもんか。


賢太郎(けんたろう)さん、この方の仲間が外で待っ……」


 英雄は俺の顔を見ながら賢太郎という名の爺さんと会話をしていたが、途中でその言葉は止まった。


「あなたは……?」

「どうしたんだー?」


 大柄の男が英雄の言動に反応した。

 賢太郎は英雄に近付き肩をポンポンと叩いた。


「面白いもんじゃろう。英雄、わしはお主より先に気付いとったぞい。しかしそれを口にしてはならぬ」

「しかし

「どういう境遇でこうなっているのかわしには分からんが、歴史は嘘をつかん。わしらの敵ではないじゃろうに」

「なに二人で意味分かんないこと言ってるのさー。あたしにも教えてよー」


 女は腰に手を当て英雄の顔を覗き込むように見たが英雄がそれに反応することはなかった。

 英雄は固まったまま俺の顔を直視しているからである。

 会話の内容からして、おそらく俺が元魔王ハーデスだということに気付いたのであろう。


 しかしなぜ?

 俺は何十年、いや何百年か?記憶は定かではないが、その間人間界には顔を出してはいない。

 そう、その当時の国王と条約を結ぶ運びとなったたった一度しか人間界には出向いていない。

 そして人間は寿命が短い種族なため、その時に俺を見たであろう者達は皆死んでいるはずだ。

 俺は今、当時の鎧も身につけていなければ、歯を削ぎ落とし容姿も変えている。

 分かる道理はないはずだ。


 しかしバレてしまった以上、このまま二人に隠し続けるのも無意味であると悟ったのと同時に、人間界で生活を始めてからというもの、色々といらぬ神経を使って過ごしていたので少しだけ肩の荷が降りた気分になった。

 されど、女と大柄の男は気付いていないようなので気は抜けないのは確かだ。


「どうじゃ?わしらと女王を倒しに行くかの?」


 賢太郎は尚も俺に問う。

 俺はそれに正直に答える。


「んー、人間界(・・・)で現最強と称えられるパーティと共に行動してみたい気持ちはあるけど、今外で仲間が待ってるから俺は行けないなー」

「はっはっは!君面白いこと言うなぁ!人間界なんて言葉が出てくるとは世界を知っている口だな?いや、訂正しよう。んん、んふっ、俺達はこの世で最強だ!はっはっは!」


 ふっ、この世で最強(・・・・・・)……か。


 大柄の男は手に持つ槍を縮めたり伸ばしたり騒がしい動きをしながらそう返すと、またもや賢太郎に小突かれそうになっていたが今度はその大きな盾で防いでいた。


「早く女王を倒しに行こうよー。彼もそう言っていることだし、彼には戻ってもらってあたし達だけでやるでいいじゃーん。それか(まもる)だけで向かわせてもいいけどね、きゃはは!」

「まほ、じゃあお前が一人で行けよ!おりゃあ!」

「何すんのよ!【バチン】!」


 冗談のつもりで大柄の男、守が槍を突きだすと、大魔法使いのまほは躊躇なく雷属性の特大魔法を守に向けて放った。


 バチバチッ!

 ッキン!


「あっぶねー!」

「あんたが舐めたマネするからでしょ!」

「おいおい俺は年上だぞ!」

「関係ありませーん」


 まほの放つ強力な魔法を難なく盾で防いだ守。

 どちらも俺が見た中で間違いなく強者の部類であることは確かであった。

 この他愛もないやり取りを目の前に、より一層この四人と戦いたくなった。


 そして賢太郎はこれから先の事について口を開く。

次回予告

 まさかこんなところで現最強パーティの英雄達に会うとは思ってもいなかったハーデス。しかも英雄と賢太郎は魔王ハーデスだと気付いている様子であった。デュラハンクイーン討伐に誘われたが、ゆうな達が待っている。賢太郎が下した判断とは。


次回 ~象徴~

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