43 デュラハンシスターズ
目の前には洞窟に入る前にゆうなが警戒していたデュラハンブラザーズやハードスケルトンといった魔物ではなく、南の洞窟の最奥にいるというデュラハンシスターズが立っている。
俺達はその二体の魔物から攻撃を受け、俺以外の仲間は立ち上がることも儘ならない状況になっていた。
この状況の中、俺は出来る範囲の最善策をとる。
「己の全てを衝撃に変えろ!オーガアタック!もう一丁、オーガアタック!」
俺はそれぞれの女デュラハンに向けしょうかんを繰り出した。
「ウボォォォオ!」
二体のオーガは対象に向け走り出した。
正直どこまで通用するか分からないがこの状況を打破できる可能性があるとしたらこれしかないと、冒険者としての直感が働く。
「「*▼▲#$○●!」」
二体のオーガはほぼ同時に女デュラハンに向けて体当たりをするが、それを盾で防ぐと続けてオーガに向けて剣で攻撃をした。
デュラハンブラザーズは盾で防いでも衝撃により吹き飛ばされていたが、デュラハンシスターズはその衝撃に耐えていた。
この事実だけでも目の前の魔物の強さが計り知れる。
斬りつけられたオーガはノーダメージだが、女デュラハンはあまりダメージを負ってはいないことは確かだ。
この光景を目の当たりにした皆は絶望視している様子だった。
俺すらもオーガアタックを物ともしない魔物だとは思わなかったので僅かながらも戸惑った。
「キェェェッ!」
怒りともとれるその叫び声を上げた女デュラハン二体は、剣を構え俺に向かってきた。
頭が無いのにどこから声が出ているのか、一人だけ冷静な俺は疑問に思った。
今の反応を見る限り、俺のしょうかんに明らかに警戒をしている。
ならばもう一度だ。
俺は木の枝を構えたが、そんなのお構い無しと女デュラハンはスピードを緩めることなく向かってくる。
「師匠!」
「出野さん!」
「出野!」
後ろから駆けて俺の横を通りすぎる銀次と剣児、そしてナックルは、女デュラハンに向けて攻撃を仕掛けようとしていた。
「ヌリリ!」
後ろからは横たわる真弓に回復魔法をかけるゆうなの声が聞こえた。
「オーガアタック!そらもう一丁オーガアタック!」
俺がしょうかんを繰り出したタイミングで銀次と剣児、ナックルはそれぞれ女デュラハンとぶつかり合う。
しかし大人と子供ほどに能力差があるためか剣児は剣を弾かれた上に蹴られ壁に激突、銀次は必死に両手の短剣で捌こうとするが、その技術に全然追い付かない様子で、いくらか攻撃を食らい血を滴しながら致命傷を避けることで精一杯といったところだ。
ナックルは躱すよりも攻めることに重点を置いているのか、剣で斬りつけられ至る所から血を流しながらも負けじと拳を振るっている。
俺は悟る。
今のこいつらでは絶対勝てないと。
「オーガアタック!オーガアターック!」
新たにもう二体のオーガをしょうかんしたので、計四体のオーガがこの場にいる。
先にしょうかんされた二体のオーガは、それぞれ女デュラハンに向けて体当たりをする。
「*▼▲#$○●!」
寸前に女デュラハン二体は銀次とナックルへの攻撃を止め蹴りで吹き飛ばし、小振りの盾を正面に構え防御に神経を尖らせていたので、その体当たりの衝撃は緩和された。
「ウボォォォオ!」
煙を出しながら暴走を始めたオーガの後ろから二体のオーガが女デュラハンに迫る。
もうめちゃくちゃだ。
オーガの棲家と言っても過言ではないほどに俺のしょうかんしたオーガがこの場を支配していた。
しかしその事実だけではこの状況を覆す材料にはならない。
「ここは俺が食い止める!皆は先に撤退してろ!」
俺は皆に向けそう言い放った。
「出野さん、私達も戦います!」
「ダメだ、このままじゃ全員死ぬ。こいつらを足止めさせる方法は俺のしょうかんしかない」
「出野さん、でもっ……!」
「いいから早く行けぇぇぇえ!」
俺の声にビクッと反応したゆうなは、直ぐ様行動に移す。
「みなさん撤退です!」
始まって一分にも満たないこの戦いの中、辿り着いた答えは皆同じであったが故、即座に行動を開始する。
銀次は倒れている剣児に肩を貸し、剣児の速度に合わせゆっくりと走り始めた。
血だらけのナックルも俺に申し訳なさそうな顔を見せ走り出す。
ゆうなは予備の松明に火をつけ、意識が朦朧としている真弓を担ごうとするが上手くいかない様子だった。
「俺に任せろ!」
後ろから来たナックルが真弓を担ぎ上げるとそのままこの場から離れていった。
「師匠!外で待ってるでやんす!絶対帰ってきてくだせぇ!」
「あぁ」
俺は手短に返事をした。
「*▼▲#$○●!」
残る二体のオーガアタックを盾で防いだ女デュラハン二体は、オーガが完全な煙となり消えるまで自らの剣で多彩な攻撃を繰り出していた。
後からしょうかんした二体のオーガが消える頃、皆はこの場からいなくなっていた。
「ふぅ」
安堵の息を漏らし、木の枝を腰につけた。
地面に突き刺さった松明の灯りが、ゆらゆらと不規則な動きをしながら三体の魔物を照らす。
「キェェェ!キィィィイ!」
だからどこから声を出しているんだよ。
怒り狂ったデュラハンシスターズであったが、攻撃対象が俺しかいなくなったからか二体は俺を挟むように少し距離をとった。
女デュラハンからは『目の前の獲物は逃がさない』、そんな気迫が感じられる。
「よくも俺の仲間に手を出してくれたなぁ?さぁ、始めようか」
俺がそう言うと二体の女デュラハンはその場で剣を横に振り、真空波を俺に向けて放ち、一気に詰め寄ってきた。
真空波とは言え、所詮鋭利な風のようなものだ。
ヒュッ
俺は軽く指を振り、その真空波を風属性魔法で打ち消す。
そして女デュラハンは間合いに入ると凄まじい速さで四方八方から斬りかかるが、俺はそれをその場から動かず全て躱していく。
銀次やナックルはこの馬鹿みたいに遅い連撃に対処できなかったようだ。
二人だけに限らず、みんなもうちょっと強くなってもらわないとな。
「んー、実に退屈だ。こんなものを持っているから動きが鈍いんだぞ?」
攻撃の手を緩めない二体の女デュラハンから強引に盾をもぎ取り、それを投げ捨てた。
勢い余ってか片方の女デュラハンの手首から下は無くなり、紫色の血が滴り落ちていた。
尚も攻撃の手は緩まないが、盾を取ったのにも関わらず次第に動きが鈍くなっていった。
「はいとりあえず体勢整えてー」
俺は二体の女デュラハンの胸当てを鷲掴み、そのまま体ごと投げ飛ばした。
一瞬間を置いてガチャンッと鎧が擦れる音と共に女デュラハンは背中を打った。
手を失った女デュラハンは辛そうに立ち上がると、持っていた剣をもう一方の女デュラハンに投げ渡し、洞窟の奥へと逃げ去っていった。
「俺としては楽しいおもちゃが一個減ったのは残念だが、まぁ懸命な判断だな。後はお前だけか。どうだ、剣を託され勝ちが見えたか?」
「キェェェ!」
女デュラハンは気合いを入れて飛びかかってくる。
「これで遊んでやるか」
俺は氷属性の魔法で即席の氷剣を作った。
両手に持った剣を無我夢中で振り回す女デュラハン。
その全ての攻撃を氷剣で捌く。
「久々の剣だ、楽しいねー」
女デュラハンは後ろに跳びはね二本の真空波を放ってきた。
「そうそう、そういうの」
俺は真空波を氷剣で叩き斬りながら、尚も空中に滞在する女デュラハンに向けてニヤリと笑い氷剣を振るう。
「首がない!?……なんつって」
首無しの首に向け氷剣を振るったので、実際女デュラハンはノーダメージだ。
シュッ、パリパリパリ……
俺の一振りにより洞窟の壁は横に二メートルほど抉れ、その表面は氷がびっしりと張り巡らされていた。
着地したにも関わらず剣を構えるだけで襲ってこない。
その様子を見る限り、女デュラハンは先程までとは打って変わり、戦意を喪失しているようだった。
「ゆうな達も外に出た頃合いだろうから、もうそろそろ戻るかなー」
そんなことを口にし氷剣を火属性魔法で溶かすと、俺の手からポタリポタリと滴り落ちる水の音が洞窟内に静かに木霊した。
「ん?気配?」
俺がそう呟いた刹那、目の前の女デュラハンは俺の横を通り過ぎた何者かによって胴体を斬られ息絶えた。
ドクンッ
「えっ?あんた誰?」
剣に付着した紫色の血を振り払うその背中を見ると、何故か元魔王の血が騒ぎ出した。
次回予告
目の前の女デュラハンが何者かによって倒され困惑するハーデス。敵か味方か、それすらも分からないがその背中から感じられるオーラに元魔王としての純心が反応を示す。そして更に近づく三つの気配。
次回 ~魔王を討つ者~