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40 南の洞窟

 俺達はレベル上げの為に早速南の洞窟に足を踏み入れた。

 洞窟の中は外の光を遮断しているので入り口付近は薄暗く、奥に進むにつれ暗闇と化す。


 事前にゆうなが用意していた松明に火をつけ、微かな光の中奥へと進んでいく。

 元魔王である俺は、人間とは違い暗闇でもはっきりと認識できるよう目が発達しているので松明無しでもどうということはない。


「もう少し歩くとおそらく魔物が出てきます。皆さん注意して歩いてください」


 ゆうなは皆に向けてそう注意を促すが、俺だけはもう気付いている。

 背後から何処からともなく現れた魔物が、虎視眈々と俺達を狙っていることを。

 ゆうなを含め、俺以外の仲間は全員それに気付いていないのか、各々返事をし歩き続けた。


「おっ、魔物のお出ましだ」


 ナックルが皆に告げるとゆうなは松明を地面にぶっ刺した。

 その瞬間、松明の火力が上がり一面を明るく照らした。

 どうやら、地面に刺すとこの特殊な松明は自動的に効力が上がるらしい。


 俺達の目の前には鎧を着た魔物が二体、明かりに照らされ姿を現した。

 俺はだいぶ前から気付いていたが、知らぬ素振りを見せていた。

 皆は気付いてはいないようだが、後ろには空中を彷徨う一体の魔物もずっとついてきている。


「これはアーマーミイラですね!物理攻撃は効きにくいのですが、手数で倒せると思います!私と剣児君で左の一体を、銀次さんとナックルさんで右の一体を攻撃、出野さんと真弓さんは後ろからサポートをお願いします!」

「おう!いくぞ、半月斬り!」


 剣児が勢いよく飛び出し攻撃を仕掛けた。

 後を追うようにゆうなが火属性魔法を唱える。


「チャッカ!」


 もう一体のアーマーミイラの方へは銀次とナックルが俊敏に攻撃を仕掛ける。


「おりゃー!」

「はぁ!」


 銀次は鎧に覆われていない部分を両手に持つ短剣で斬っていく。

 ナックルはお構い無しに鎧で覆われている胴体に拳を叩き込んでいった。

 一旦後方へと場所を移動した真弓は二体に向け弓矢を放つ。


「前衛部隊は、隙を見てできるだけもう片方の敵へも攻撃を食らわせてくださいね!」


 ゆうなは一応確認のつもりで言ったとは思うが、経験値の法則を知っている皆は、それを言われずともすでにそういった立ち回りをしていた。

 俺は後ろの魔物も気になるが、とりあえず二体のアーマーミイラに向けしょうかんを繰り出す。


「ゴブパン!ゴブパン!」


 弱すぎておそらくダメージを与えることも出来ないであろう二体のゴブリンが、凛々しい顔つきで出てきた。

 トコトコと走ってゴブリンパンチを放つがもちろんアーマーミイラには効いていない。


「うおぁっ!」

「剣児君!」


 剣児がアーマーミイラの攻撃を受け、後ろに吹き飛んできた。

 レベル20の剣児が吹き飛ぶあたり、なかなかの攻撃力であることは確かだ。


 一人になり隙が出来たゆうなにアーマーミイラの突進が迫る。

 真弓が後方から頭目掛けて弓を放つが、アーマーミイラは自身の腕を大きく振りその矢を防いだ。

 ゆうなは剣を横にし、突進の威力を軽減しようと身構えた。


「へいへーい!」


 しかしその突進がゆうなに当たる寸前、ナックルの跳び蹴りがアーマーミイラに炸裂し、アーマーミイラは勢いよく横に吹き飛んでいった。

 その間銀次は、一人でアーマーミイラと戦っていた。

 素早い動きで攻撃を躱しつつ、確実にダメージを与えている。


「きゃあ!」


 後方にいる真弓が突然声をあげた。


「う、後ろにも魔物がいる!」


 前衛部隊もその声を耳にし後ろを振り返った。

 俺はその存在に気付いてはいたが、強者の気配ではなかったので特に気にはしていなかった。


「真弓さん、それはキマイラベビーです!炎や氷のブレスを吐くので要注意です!出野さんと剣児君は真弓さんの援護をお願いします!」


 浮遊しているキマイラベビーと呼ばれたその魔物は、いくつかの獣が合体しそれに翼のついたような魔物であったが、体は赤子のように小さく迫力はない。

 そのキマイラベビーは真弓に向けて一生懸命キーキー鳴きながら攻撃を仕掛けていた。


 真弓が弓で振り払おうとする中、俺は一瞬でキマイラベビーの背後に移動し木の枝で背中を撫でた。

 俺に注意が向いたところで剣児は剣で攻撃をするが、宙に浮かんでいるためか空を斬った。


「当たんねぇ!」


 キマイラベビーの攻撃対象から自分が外れたと判断した真弓は少し距離を取り、弓矢を放つ。


「【強射(きょうしゃ)】!」


 通常の攻撃よりいくらか威力の強そうな矢がキマイラベビーの翼に刺さり、飛行が不安定になった。

 キマイラベビーは体勢を崩しながら苦し紛れに俺に向けて炎のブレスを吐く。

 俺は咄嗟に木の枝で振り払い無効化したと同時に、この木の枝炎食らったら燃えるんじゃないかと思って直ぐ様確認したが特に問題は無かった。


「汚物カモン!」


 しょうかんを繰り出し、股下から出てきたスライムを引き剥がしブンブンと振り回してキマイラベビーに攻撃をした。

 キマイラベビーは俺のスライムハンマーにより地面に叩きつけられた。


「【みじん斬り】!」


 地を這うキマイラベビーに向け剣児が新しく覚えたであろうみじん斬りという技で攻撃をすると、対象はバラバラになって息絶えた。

 前線にいるゆうな、銀次、ナックルを見るとそちらも片付いたようで二体のアーマーミイラが転がっていた。


「真弓さん大丈夫でしたか!?」

「ちょっと驚いたけど平気!ありがとう!」


 ゆうなが駆け寄り真弓を心配していたが、当の本人は平気そうな顔をしていた。


「ここの魔物はやはり強いですね」

「まぁでも俺は余裕余裕。この先もガンガンいこうぜ」

「ナックルの兄貴やっぱ強ぇでやんすね」


 今の一回の戦闘で俺とナックルを除き、皆疲れたように息をついていた。


「キマイラベビーは厄介ですね。飛ばれると攻撃が届かないですから」

「おら攻撃外したぞ。飛んでる魔物苦手かもしんねぇ」

「今回は出野さんや真弓さんがいたから倒せましたがやはり魔法使いがいたほうが良さそうですね。今地下訓練所にいるチェリーさんがどこまで成長しているか楽しみです」


 そんな会話をしつつ俺達はもう少し奥まで進んでいった。



◇◇◇◇◇◇



 ゆうなの言うとおり、多少奥まで進んでもアーマーミイラとキマイラベビーしか現れなかったので俺達はレベル上げに勤しんだ。

 他の皆は分からないが、俺は二回ほどレベルが上がった感覚があったのでおそらくレベルは22だ。


 戦闘をこなすにつれ分かったのが、スライムハンマーはめちゃくちゃ使えるということだ。

 俺がそのまま物理攻撃をすると桁違いの攻撃力により相手が瀕死状態になってしまう、ゴブリンパンチは今のレベルに合うような魔物には問答無用で通用しない。

 それに比べスライムハンマーは振り回して攻撃を当てるのは俺だが、しょうかんそのものの攻撃力が反映されるのか攻撃をしても今のところ魔物が即死することはなく使い勝手が非常に良い。

 これから先、強い魔物と戦うことになればスライムハンマーも物足りなくなりそうではあるが。


 後は地下訓練所でレベルが上がった際に習得した【オーガアタック】の威力がどうかということだ。

 ゴブリンパンチやホップスライムジャンプは、俺の桁外れの能力値に比例することなく一定の攻撃力を発揮しているようだし、新しくしょうかんを習得しても使用に躊躇する必要がないような気がする。

 うん、次の戦闘で使ってみよう。

 そう考えていると、前を歩く銀次が突然立ち止まった。


「ゆうなはん、ここら辺から空気が違うでやんす。もう戻ったほうがよろしいかと思うんすがねぇ」


 隣を歩くゆうなにそう告げるとゆうなもこくりと頷いた。


「皆さん、これより先は違う魔物が出てくるかもしれません。いい頃合いですので戻りましょうか」

「えー、おらもっと戦いたかったなー」

「俺もまだまだイケるぜ」

「いえ、今日は昼過ぎからの行動でしたので、また今度時間に余裕があるときに来ましょう」


 剣児とナックルは物足りないのか少し不満を漏らしながらもゆうなに従ったようだ。

 今まで進んでいた方向に背中を向け、来た道をそのまま帰り道とし歩を進め始めた。


 前を歩くはゆうな、剣児、ナックル、真ん中には銀次、後ろを歩くは俺と真弓だった。

 奥に進む時と同じく、前から魔物が現れると想定した隊列である。

 同じ道を辿るので魔物と出くわす可能性はゼロではないにしろ、極端に低い可能性ではある。

 だからこそ、出口までは距離はあるものの、皆はもう安心した心持ちでいる。


 しかし、俺だけは気付いている。

 今か今かと俺達を襲おうとしている気配があることを。

次回予告

 南の洞窟にてレベル上げに勤しむハーデス達であったが、不穏な空気を察知し戻ることに。しかしハーデスは気付いている。前方から迫りくる二体の魔物の気配に。そして強者との戦いの幕が上がる。


次回 ~デュラハンブラザーズ~

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