37 武術家 小島ナックル
まだチェリーのレベル上げはまだ終わってはいない。
俺達は模擬戦会場を後にし、一度受付のある拓けた場所に集まっていた。
目的は、武術家である小島ナックルのスカウトだ。
「ナックルさんいないですねー」
ゆうなが背伸びをしながら周りをキョロキョロしナックルを探していた。
すると向こうの方から銀次がやってきた。
「ゆうなはん、あっちにいやしたぜ!」
用を足すために一度この場を離れていた銀次が、ナックルを見つけたとの事だった。
「早く案内してください!」
「へい」
銀次がその場所目指し走りだしたので、俺達もそれについていくとそこには壁に寄りかかり冒険者の書を見ていたナックルを発見した。
ゆうなは直ぐ様声をかける。
「突然すみません。先程あなたの戦いを見たのですが、是非とも仲間になってほしくお願いしにきました」
「ん?あー多分無理無理。俺は自分より強い人じゃないと仲間にならない。周りの人達仲間でしょ?もう4人越えてるじゃん。さぁ、帰った帰った」
ゆうなのことなど眼中にないといった様子で門前払いをするナックル。
それでもゆうなは引き下がらない。
「私達は4人パーティにとらわれない大人数のパーティです!模擬戦だけでもお願いします!勝てなければ諦めますので!」
「へぇ。でもお嬢ちゃんが俺と戦うのか?勇者っぽいけど無駄無駄。俺の速さについてこれないって」
「こちらも動きが速い仲間がいます!その人とやってもらいたいです!」
ゆうなは銀次をチラッと見たが、当の銀次は慌てた様子で「あっし?」という表情を浮かべていた。
銀次が用を足している間、銀次には内緒で俺達はもしナックルと模擬戦という流れになったら、この中で一番レベルが高く素早い銀次にやってもらおうと話し合っていた。
ナックルは銀次をチラりと見て溜め息をつく。
「おいおい、誰かと思ったら。そいつはずいぶん前に戦ったことあるぞ。仲間にするってことじゃなく、単なる手合わせだったけど俺が勝ってるからな。無駄無駄」
本当のことなのであろう、銀次は言い返すこともせず黙っていた。
人間にもこんな傲慢なやつがいるんだなー。
ゆうなには悪いがどうやっても仲間にならないような気がする。
「ゆうな、こいつは話すだけ無駄無駄。あんなにとろい動きでも自信があるようだが、俺からしたらあくびが出る動きだ。だから俺達のパーティには入れなくてもいいじゃん。こんな動きの遅い武術家は逆に無理無理」
俺はゆうなが諦めるように仕向けたつもりが、逆にナックルの気に触れる。
「へぇ、無知なこと言ってくれるなぁそこの兄ちゃんよぉ。よし決めた、やってやろうじゃねぇか。しかし模擬戦をする相手はお前だ」
「「えっ?」」
ナックルの指差す方向には俺がいた。
どうやらナックルは俺との模擬戦を熱望しているらしい。
俺はこんなことになるとは思っていなかったが、周りの仲間も同じくこの流れは予想できなかったに違いない。
「ちょっと待ってください。この方は微妙です。自分では強いと思い込んでいますが、冒険者の書に書かれた能力値を見て恥ずかしがっているような中途半端な冒険者です。なので銀次さんにしていただけないでしょうか?」
「そうだそうだー!出野さんは、あんまし強くないど!覚えてるしょうかんもあんまし強くないし、おらがあげた木の枝で戦ってるんだぞー」
「そうよ、出野君は魔物の混乱魔法を食らっちゃうようなおっちょこちょいさんだし、強がってるだけだから別の方がいいですよ」
「師匠、あっしは信じてるでやんす」
皆は必死に守ろうとしているのか分からないが、何だか俺はダメージを食らっているような気がしないでもない。
冗談で言っているような顔つきではない、皆は真剣そのものだ。
剣児からはしょうかんを否定するような発言も垣間見えた。
普段言わないがそんな風に考えているのかと思うとと愛くるしいゴブリンの顔を思い浮かべ少し切なくなった。
「と、言うことらしいがどうするんだ?」
俺はナックルに問いかけた。
「はっはっは、こりゃあ俺も舐められたもんだなぁ。けどお前とやるのは代わりない。周りの奴らが何と言おうと無視無視」
そして俺とナックルとの模擬戦が決まった。
◇◇◇◇◇◇
必要な手続きを済ませ、俺は今模擬戦の舞台へと立っていた。
目の前にはニンマリと不敵に微笑むナックルが立っている。
模擬戦開始の合図は両端で結界を張る役割の者の一人が行うとのことだ。
模擬戦ならではだが、俺にとっては有利な条件もあった。
会場への入場前に水を一杯飲まされたのだが、その水には人体には影響が出ない極小さな魔物が混ざっているらしい。
何時間かすると、その魔物は体内で溶け死ぬとのことだ。
それは魔物に対してのみ使用できる召喚が使用可能なことを意味する。
厳密に言うと俺のは召喚ではなくしょうかんだが、同じ類いであるので問題なく使用可能とのことだった。
まぁ普通にしょうかんを使わずとも戦えるが、この状況下の中、手段は多いに越したことはない。
「逃げ出さなかったことは誉めてやろう。だが俺に勝つのは到底無理無理」
確かにどう勝つかは俺の頭の中ではまとまってはいない。
能力値を隠しながら戦うということは、負けるのは簡単だが勝つのは難しい。
そんなジレンマに頭の回転が追いつけるか不安ではある。
「そうかもなー。勝てるは勝てるけど、どうすりゃいいか分からないからなー。まぁやってみようじゃないか」
「減らず口を」
「ではこれより出野ハーと小島ナックルの模擬戦を開始する!始め!」
始まりの合図が出るとナックルは俊敏な動きで早速俺の顔面目掛けて攻撃を仕掛けてくる。
「ゴブパン!ゴブパン!」
俺は後ろに跳びはね躱しながらしょうかんを繰り出した。
二体のゴブリンは俺と目が合う形で目の前に現れた。
しょうかんで出てきたゴブリンは対象者に向けて攻撃を行う、そしてナックルは俺の視界には写ってはいない、つまりあいつは俺の後ろにいる。
そんな風に筋道を立てて戦うのが並の冒険者であろう、しかしナックルのその遅い動きは俺には全て見えている。
「「◎▼○#◆#*!」」
「空拳!」
俺がゴブリンを頭を鷲掴み力任せにゴブリンの背後に移動した刹那、ゴブリンパンチでナックルの攻撃が相殺される。
前に検証済みだが、しょうかんで出てきた魔物は存在そのものに干渉することはできないので、俺がどれだけ力を入れようともピクリともせず自分の任務を全うする。
横目に入る観客席は結界で音は聞こえなくとも、今の攻防で歓声があがっているのが分かった。
役目を終えたゴブリン二体は煙となって消え、その煙を掻き分け坊主頭が現れる。
「ゴブパン!」
目の前のゴブリンの頭を踏みつける。
「ゴブパン!ゴブパン!ゴブパン」
空中で続けてしょうかんを繰り出し、そのゴブリンの頭も踏みつけ、階段のように上へ駆け上がる。
「◎▼○#◆#*!」
一発目のゴブリンパンチがナックルの足にアッパー気味に入るがおそらくダメージは極僅かしか受けていないのであろう、それをものともせずナックルも可愛いゴブリンちゃんの頭を踏みつけ駆け上がる。
主である俺が踏みつけるのは良いが他人に踏みつけられるのはちょっと話が違う。
「◎▼○#◆#*!」
二発目のゴブリンパンチの瞬間に俺は会場と両端に立つ結界を張る係の魔法使い二人に強めの結界を張る。
そして木の枝で三体目のゴブリンの背中を思い切り叩いた。
衝撃波でナックルが宙に浮いた状態で後方へ吹き飛ぶ。
これは決して攻撃ではない、ただの警告だ。
それと同時に結界を解除、衝撃波の余韻が風となり魔法使いの女の髪がふわりとなびく。
後ろに飛ばされたナックルは、壁にぶつかると思いきやくるりと体勢を変え壁に横向きとなり着地する。
ほう、戦闘感覚に長けているな。
尚も残り二体のゴブリンの行進は続く。
「「◎▼○#◆#*!」」
「空拳!」
ナックル目掛けてゴブリンパンチを出すも、壁を起点に飛び出したナックルの拳に相殺される。
「特殊なゴブリンを使いやがって、あームカムカするなぁ」
ナックルは俺の警告による衝撃波をゴブリンパンチの衝撃波だと勘違いしているようだが、俺は構わず次の一手を出す。
ホップスライムジャンプだ。
「汚物カモン!」
股下から汚く不気味なスライムが姿を現し、それに俺は股がる。
二回目の登場だが、へらへらして本当に気持ち悪い。
「$*▲」
俺を乗せたまま跳び跳ねるスライム、しかしナックルは全速力なのか非常に遅い動きで駆けよってくる。
しかしこちらのスライムは更に遅い。
「♯□★■」
「強拳!」
俺の顔を狙ったのが幸いし、スライムが体半分くらい潰れるタイミングでナックルの攻撃は空を切る。
「◇▼§◎!」
「あだっ!」
そのまま上に飛び上がると同時に俺の頭がナックルの顎に当たる。
情けない声を漏らしたナックルは顎を手で押さえている。
いや、俺だって痛かったし。
視界に写るナックルは、上昇によりぐんぐん小さくなっ
ダァァァンッ
「だはっ!」
俺の頭に衝撃が走る。
スライムの跳躍力が過ぎ、天井に俺の頭がめり込んだ。
少量の瓦礫と共にスライムに乗った俺はナックルに向けて直下する。
どうしよう、手には木の枝を持っているがこのまま攻撃するのは何か違う。
そしてこのまま激突するのも何か違う。
しかもナックルも構えているし。
木の枝を見ると俺の脳裏に全身から色んな液体を出し瀕死状態だったハリケーンウルフの姿が過る。
このまま全力で攻撃したら人間であるナックルはどうなるのだろう、そんな興味もあったがゆうな達の笑った顔が浮かびその興味を否定する。
「うおぉぉぉらぁぁぁあ!」
俺は渾身の力でスライムを尻から引き剥がそうとする。
できるかどうか分からない。
でも、その行為にこそ突破口があると思うんだ。
次回予告
ナックルとの模擬戦を繰り広げるハーデスであったが、力を出しきれず違う意味で悪戦苦闘していた。そんな中思い付いた挽回の策。それは新たなる活路を見出だすこととなる。そして意外な形で終わる模擬戦。
次回 ~言葉~




