35 地下訓練所
チェリーを仲間にした翌日、俺達は冒険者ギルドに集合し、チェリーのレベル上げの為に早速地下訓練所へ向かった。
道中ゆうなは俺に色々と地下訓練所について教えてくれた。
地下訓練所は魔物使いという特別職に就いた冒険者が、現役を引退し同じ特別職を持つ冒険者を集い数年前より営んでいたそうだが、最近になって利用者が増えたそうだ。
魔王グレンヴァが出現する前は、そもそも地下訓練所という存在自体が周囲に認知されていなかったが、冒険者が増えた今では、安全にレベル上げが出来るとのことで新米冒険者の利用が後を絶たない。
しかしながらこれを危険視している冒険者も一部いるという。
理由としては、レベルアップの仕組みを上手く利用して、レベルの低い者達が順番に魔物に攻撃を当て離脱をし、最後に腕利きの運営者が倒すというやり方が実戦向きではないということだ。
真弓も最初ここでレベルを上げたと言っていた。
先日魔物の群れがタンナーブを襲撃した時に、真弓は俺達よりもレベルが高かったのにも関わらず一番緊張していたのは実戦経験が少なかったことに他ならない。
そう考えると俺も実戦でレベルを上げるのが好ましいが、今回の目的はチェリーのレベル上げだ。
戦闘経験が皆無のチェリーは魔物を怖れて魔法使いなのに鎧と兜を纏っている。
となると実戦にもなると動けないでいる可能性もあるし、魔法使いになりたてで魔法も使えないから最初は地下訓練所を利用したほうがいいだろう。
地下訓練所は、市場や冒険者ギルドのような人が集まる場所から少し離れたところにある。
万が一魔物が逃げ出した時に被害を最小限に抑える為らしいが、今まで逃げ出したことはないとの事だ。
主にレベル上げの為の施設だが、ここにはもう一つ、面白い事ができる空間があると聞いた。
どちらかというと俺はそっちのほうに興味をそそられた。
それは冒険者同士が模擬戦をするための空間だ。
己の力を試したい者達がぶつかり合うのだが、最近は名も無き冒険者が自分の魔法や特技を披露し、優秀なパーティに声をかけてもらう事を目的とした利用が増えているという。
職業によって覚える技は同じかと思いきや、人によって微妙に違うらしいので、それを見極める目的で模擬戦を観戦するスカウト組も少なくないとのことだ。
「ここですね」
「やっと着いだー」
俺達は目的地である地下訓練所に到着した。
地下に施設があるため、地上からは小さな看板と地下へと続く幅5メートルほどの階段しか見えない。
存在を知らない者からすると怪しさしか感じられないほど質素な作りである。
俺達の他にも多数の冒険者がいて、仲間と待ち合わせをしているのか直立不動の者、数人で階段を下っていく者、何だか分からないが小競り合いをしている者など様々な冒険者がいた。
「ひぃぃ!あー怖い怖い。ややややめようかな」
その様子を見てチェリーは少し萎縮をしていた。
そんな様子を見た真弓はパシーンとチェリーの頭を叩き、被っていた兜が半分ずり落ちた。
兜で半分隠れていたが、きょとんとした表情で真弓を見ていたのは確認できた。
「チェリーしっかりしなさい。あなたが戦うのは人間じゃなくて魔物よ。ここでもビビってたらこの先やっていけないわよ」
「ははははい」
俺達からすると真弓はどちらかというとおっとりとした印象だが、チェリーに対しては幼馴染みたる所以かお節介な一面を見せる。
「おら早く中入りてぇぞー」
「そうだね、じゃあ行きましょうか」
萎縮して動けない様子のチェリーを置き去りにして俺達は階段を下っていく。
心の準備が出来ていないチェリーは、真弓に引っ張られながら歩きだした。
中に入ると地上からは想像できないほどの巨大空間だった。
広場の片隅に受付があり、周りを見渡すと目標レベル毎に場所が分かれているのが分かった。
「うわぁ、初めて来たけどここ凄いねー。冒険者もいっぱいいるー」
「あっしは何回か来たことがありやすが、今日は少ないほうでやんす」
銀次もここでレベル上げをしていたとはな。
確かにパーティを組んでいないにも関わらずレベルが高かったしな。
「銀次さんも来たことがあるんですね」
「ええ、あっしはある程度レベルを上げた後に模擬戦ばかりしていたでやんす。盗みを働いていた時に、いかに気付かれないよう懐へ入るか練習してたでやんす」
「理由は最低ですね」
ゆうなが眉をひそめて銀次を見ていると、真弓とチェリーが降りてくる姿が見えた。
「ううううう」
「チェリー、大丈夫だから!あなたはその杖で攻撃を当てる、そしてその場から逃げる、屈強な人がいるから絶対に魔物から攻撃はされない、分かった!?」
「はいぃぃぃひぃぃぃい!」
完全に怖じ気づいていた。
仲間にした手前言うのも何だが、本当にこいつは大丈夫か?
あの何が起きても動じない剣児でさえも、ちょっと苦い顔をしていたのが印象的だ。
鎧兜に杖を持ち、怯える巨漢を連れた俺達はかなり目立っていたようで、周りの冒険者達が笑いながらこっちを見ていた。
気にせず俺達は受付に向かった。
チェリーと大差ないほどの大きさの男が座っていた。
「いらっしゃい。その大きいののレベル上げか?おい、そこの大きいの。安心しろ、ここはどんな者でも安全にレベル上げができる。レベル1なんだろ?」
「いぃぃぃひぃぃぃい!うえす!うぃ!」
チェリーは必死に返事をしているようだが、俺のしょうかんで出てくるゴブリンやスライムと同じくらい何を言っているのか分からない。
「今日はレベル20くらいまで上げたいんですけど、出来ますか?」
ゆうなは男に問いかけた。
「一日でレベル20か?うちはタンナーブからの支援は受けてないからそれだとかなりの額が必要だぞ?」
「えっ!?そうなんですね……。持ち合わせがあんまりないな、ははは……」
地下訓練所は、装備品工房と違ってタンナーブからの援助はしてもらっていないらしい。
ゆうなも初めてくるのでそれは知らなかったのだろう、驚きを隠せないでいた。
「ぼぼぼぼくお金は、持ってるよぁぁぁあひぃぃぃい!あー助けて助けてー!」
声だけ聞くと盗賊に襲われたような反応だ。
「ちょっと本当にうるさい!」
真弓が兜を取って生身の頭をパシーンと叩くとチェリーは黙った。
「チェリー、本当にお金持ってるの?」
「はい、ぼくが冒険者になったと母上に話したら、外に出るのが本当に嬉しかったみたいで貯めていた財産を渡してきたでござる。これはお前の成長の為に使えと言われたでござる」
叩かれてちょっと頭がおかしくなったのか、チェリーは変な口調で答えていた。
そして巾着から金貨をごっそり出すと受付の男は身を前に乗り出し反応した。
「これなら今日中にレベル20まで上げれるぜ!早速案内をしようか」
ついでに俺と剣児もレベルが19だったので20まで上げることになった。
今現在ゆうなと真弓は共にレベル20、銀次はレベル22という状況である。
受付の男は俺達の顔をじっくり見て、紙に何か数字を書き出し渡してきた。
「これは?」
「三人のレベル20までの必要経験値だ」
どういう方法か分からないが、必要経験値の算出をしていたようだ。
奥の扉から案内人が出てきてチェリーはレベルが低い冒険者が集う場所へ案内された。
俺と剣児はチェリーよりもレベルが高いので、別の場所へと案内された。
ゆうな達は俺達を待っている間、模擬戦を見てくるとの事だった。
『レベル20程度推奨』と書かれた部屋に入ると先に待っていたであろう十数名の冒険者達がいた。
俺達は最後の冒険者だったのか、案内人は入るなり皆に向けて説明を始めた。
要約すると、魔物使いに操られた魔物がいるから順番に攻撃する、そして最後に案内人が魔物を倒し、処理後に再度魔物が現れるといった流れだ。
目標レベル毎にそのループは決まっていて、俺と剣児は共に2ループでレベルが20になると聞いた。
魔法や特技は途中で魔物が息絶えてしまう可能性があるので使用不可、そして万全を期して武器も指定される。
その武器を渡された剣児は俺の顔を見てにやける。
「これ、出野さんの武器にそっくりだべ」
続いて俺も受け取ったが、その武器とは俺の持っている木の枝に酷似していた。
むしろ見分けがつかない。
俺の持っている木の枝と比べると見た目は同じだが、しなやかさがまるで違った。
耐久性がかなり高く、相手に当たっても折れることなくぐにゃりと曲がるそうだ。
ある特殊な植物系の魔物、【テンダーウッド】から採取した木の枝らしく、この木の枝でどう物理攻撃をしてもダメージは入るが相手は絶対に死なないという物らしい。
昔、その植物系の魔物と戦った冒険者がいて、数多の攻撃を受けて死を覚悟したが、何故かどれだけ攻撃を浴びてもHPが1残った状態から死ななかったという。
それを聞いた他の冒険者がその魔物から採取し仲間内で使用したところ、HPを減らすことは出来るがどうやってもHPが1だけ残ると発見したということだ。
本当なのか試してみよう。
そして俺達は魔物がいる部屋に足を踏み入れた。
俺は人間界にお邪魔してから一番生き生きしていたと思う。
次回予告
ハーデスと剣児はレベル20にすべく訓練所を利用することになった。そこで出会ったのがテンダーウッドなる魔物から採取したと言われる木の枝だった。ハーデスは検証がてら、訓練所の魔物に使用する。しかも全力でだ。果たしてどうなることやら。
次回 ~テンダーウッドの枝~




