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34 魔法使い 佐倉坊

 顔を真っ赤にしたゆうなは恥ずかしさのあまり躊躇するが説明を始める。


「あの……ですね、タンナーブにはある伝説がありまして。その伝説というのが歴代勇者パーティの一人に、それまで無職だったんですけど30歳で初めて魔法使いになったという男性の仲間がいまして。その人は所謂、それまで女性との、なんというか、性交渉がなくてですね……、はい」

「それとこれとどういう関係があるんだ?」

「そういった境遇の人が無職のまま30歳を迎えると魔法使いになるということが巷で囁かれるようになりまして」

「ははーん、そういうことだったのね。だからチェリーが魔法使いになったと噂されていたんだ。てっきり私は本当に魔法使いになったかと思っていたわ」


 恥ずかしさの原因が今の説明で消えたのか、大きく息を吸い少し落ち着きを取り戻した。

 チェリーは依然として恥ずかしそうにしていた。


「てことはチェリーは魔法使いの職に就いていないということだな」

「じゃあ真弓の勘違いってやつか」

「そうなりますね。皆さんすみません」


 チェリーが魔法使いではないと分かると、用がない俺達はチェリーに軽く謝り帰ろうとした。


「ちょ、ちょっと待ってください!もしぼぼぼぼくが、そ、その魔法使いだったら仲間に入れてくれますか?」


 チェリーは暑いのか汗を吹き出しながら声を上げた。

 俺達は一同に振り返り、ゆうながそれに答える。


「それはそうですけど、実際は違いましたからチェリーさんを仲間に入れることはできません」

「……じゃ、じゃあ今から神殿に行ってなってくる!それじゃあダメですかね?」

「チェリー、魔法使いになるっていっても適性がないと無理だよ」


 皆が苦い顔をする中、代表して真弓がチェリーを諭した。


「でもその、今まで必要とされたことがなかったから、今回勘違いだったにしろ皆さんが来てくれたのが嬉しくって。い、今までずっと何もしないで家に籠っていたけど、なんかその……」


 一生懸命自分の思いを伝えたチェリーを見て、真弓がゆうなに意見を求める。


「と、本人は言ってるけどどうする?」

「ま、まぁ一度職業神殿に連れていって、もし魔法使いの適性があったら仲間に入れてもいいですよ」


 チェリーの熱意に少し引きながらも、条件付きでの仲間入りを提案した。


「ああああありがとうございます!では早速準備してきます」


 チェリーはそう言い残し走って家の中に入り、すぐに準備を整え出てきた。

 そして俺達は無職のチェリーと共に職業神殿へと向かった。



◇◇◇◇◇◇



「いらっしゃいませ。当神殿のご利用は初めてでしょうか?」

「いえ、今日はこの方の適性を占いに来ました」

「ではこちらへ」


 職業神殿へ到着するなり、すぐにチェリーを占い師の元に送った。

 道中もそうだったが、チェリーは何年も外に出ていないので町の様子が様変わりしたのに対し色々と反応していた。

 この職業神殿にも初めて来るようで、ぶつぶつ一人言を言っていたが真弓にうるさいと叱られしょんぼりしながら占い師の部屋に入っていった。


 あの部屋かなり狭かった記憶があるがチェリーは大丈夫だろうか。


 俺はそんなことを考えつつ、チェリーが部屋から出てくるのを待っていると、しばらくしてチェリーが部屋から出てきた。


「皆さんやりました!ぼく盾使いと魔法使いの適性がありました!これで魔法使いになれます」

「本当ですか!?よかったですね!それでは早速職に就きましょうか!」


 体格的にどうだろうと思っていたが、結果は魔法使い適性有りだった。

 余程嬉しかったのだろう、鼻息を荒くしてフガフガ言っていた。


 ゆうなはそのまま就職場所を案内し、チェリーは無事に魔法使いになった。

 その足で冒険者ギルドに向かい冒険者登録を済ませ、チェリーは晴れて俺達の仲間となった。


「これでチェリーさんも私達の仲間ですね。これからよろしくお願いします」

「よかったねチェリー」


 真弓はチェリーの肩を叩き、無事に仲間入りを果たしたことを祝福していた。

 チェリーも照れくさそうに笑っていた。


「皆さん今日は本当にありがとうございました」


 大きな腹がつっかえながらも深々と頭を下げるチェリーは、最初に会った時と比べ、発言も些か流暢になっているように感じた。

 これで俺達のパーティは、俺、ゆうな、剣児、真弓、銀次、チェリーの六人パーティとなった。

 四人パーティが普通らしいが、幸い皆は俺がゆうなに話した大人数のパーティ編成を受け入れてくれている。


「チェリーさんも無事に魔法使いになって冒険者登録も済ませたことですし、次は武器の調達をしましょう」

「そうだね」


 ゆうなと真弓が当たり前のように言っていたが、俺の時はそんなの言われなかったぞーと心の中で呟いた。

 過ぎたことだし、武器を買えるようなお金も持ち合わせていなかったから仕方ないか。

 でも市場には武器を売っている露店が無かったようにみえたが、どこか違うところにあるのだろうか。

 疑問に思った俺はゆうなに聞いてみる。


「そういえば武器ってどこに売ってるんだー?」

「武器は今売ってませんよ。鎧やローブも基本売ってないですし」

「えっ?」


 俺はてっきり武器は売っているものだと思い込んでいた。

 俺みたいに外で木の枝を拾って使ったり、かつての冒険者の使い回しを使っているのか?

 そんな俺の戸惑いを解消するかのようにゆうなは続ける。


「タンナーブの国王は魔王討伐のために、冒険者の方々を国をあげて支援しています。なので無償で支給してるんですよ」

「ほう、そういうことだったのか」


 詳しく聞くと、今まで貧困層は冒険者になっても武器や防具が手に入らなく、例え冒険者になったとしても命を落とす危険性が高いので躊躇していたとの事だった。

 その他の冒険者もレベルが上がるにつれ、資金繰りに悩まされレベルに見合った耐久性の高い武器を手に入れられなかったそうだ。

 そこで国王がその仕組みでは魔王討伐に支障が出ると判断し、国中の武器や防具を買い取り、個人のレベル、職業のレベルに合わせて国から支給する流れになったということだった。

 全てを買い取るとなったので、元々あった武器屋や防具屋は今では莫大な財を成し、優雅に暮らしているらしい。

 冒険者用の武器や防具は【装備品工房】というところで一括して支給をしているようだ。

 これを期に俺の武器も木の枝じゃなく、ちゃんとした武器に変えてもらおう。


「じゃあ早速装備品工房へ行きましょう」


 装備品工房はタンナーブ城の裏手側にあるとの事だったので、俺達は歩いて向かった。



◇◇◇◇◇◇



 装備品工房へ到着すると、早速中に入った。

 建物自体はかなり大きく、武器フロア、防具フロアに分かれていた。

 地下では職人達が新しい装備品を作成しているらしく、そこまで気にならないが金属がぶつかり合う音が絶え間なく鳴り響いていた。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件で?」


 身なりの綺麗な女が俺達に話しかけてきた。


「今日は新しく魔法使いになった仲間がいるので装備品を頂きに来ました。あ、あと他二名も日は経ちましたがまだ装備品を頂いていなかったのでお願いしたいです」


 他二名とは俺と剣児であった。

 剣児も知らなかったらしく、剣は持っているので防具を調達しにきた。


「では、該当者の冒険者の書を確認しますのでご提出をお願い致します」


 ヤバい、ここでも冒険者の書を求められた。

 能力値が異常なため他者には見せたことがなかったので、ここでも俺は出したくなかった。


「俺忘れたわ」

「師匠?」


 銀次は俺が冒険者の書を朝歩きながら見ていたことを知っているので、当然の如く俺の顔を見た。

 俺は目で合図を送り、察しのいい銀次はそれから何も言わなかった。


「出野さん、冒険者の書は持ち歩かないとダメですよー。出野さんはまた今度ですね」


 ゆうながそう声をかけてくるが、俺は「すまん」とだけ言ってやり過ごした。

 剣児とチェリーは冒険者の書を女に渡すと、職業と個人レベル、職業レベルを確認されすぐに返却された。


「では案内人を呼んで参りますので少々お待ちください」


 そう言い残して一度立ち去ると、女は奥から二人の男を連れてきた。

 二人の男はメモ書きを確認しつつ剣児とチェリーにそれぞれ一人ずつ付いた。

 案内人に連れられ剣児は防具を選ぶ為に階段を登り上へ、チェリーは武器から選ぶとのことで今いるフロアに留まった。


 二人が装備品を選んでいる中、装備品の事についてゆうなから色々と聞いた。

 武器や防具は個人のレベルも考慮されるが、主に職によって決まるようだ。

 その中でも特別職を含む下級職、上級職、最上級職によって支給される装備品が違う。

 武器や防具は耐久性の低い物が下級職へ、高い物が上級職へ、最上級職に関してはオーダーメイドとなっており、形や色などの好みを注文し、それを元に職人達が作るといった流れだ。

 見た目のカッコよさは戦闘時に何の関係があるか聞いたらどうやら心持ちの問題らしい。

 俺もしょうかんを使用する際、カッコつけて木の枝を振りかざすのですぐに納得した。

 確かにノリノリでやると気合いが入るような気がする。


 そんな話をしていると剣児が俺達の元へと帰ってきた。

 剣児は新米冒険者に相応しい動きやすそうな茶色い鎧を身に纏い、自慢げに見せてきた。

 ゆうなと同じような大きな物でも中に収納できる巾着も貰ってきていた。

 いいなー。

 そう思っていると剣児が俺にその巾着を渡してきた。

 各冒険者に一枚しか支給されない巾着が、どうやら工房側の間違いで二枚重なっていたようだ。

 俺は礼を言って受け取った。


 続けてチェリーがやってきた。

 何故か魔法使いにそぐわない黒い鎧に兜、そして杖というよく分からない格好で登場した。

 本人曰く、ローブじゃ怖くて戦えないからとわがままを言って鎧にしたそうだ。

 俺はまぁ別に良いんじゃないかと思ったが、ゆうなと真弓は何か言いたげな顔をしていた。


「装備品も揃ったことですし、今日はこれで解散しましょうか。明日はレベル上げを兼ねて冒険に出ようかと思うのですがどうでしょう?」

「チェリーだけレベル1だから、地下訓練所でまずはレベルを少し上げるのはどうかな?」


 真弓の口から地下訓練所という言葉が出た。

 俺は以前真弓との会話で出てきた地下訓練所が気になっていたところだ。

 行ってみたい気持ちが強かったので俺は賛成する。


「いいかもな」


 それに続けて他の皆も頷いた。

 決まりだ。


「では明日は地下訓練所へ行きましょう。場所が分からない人もいると思いますので明日は10時に冒険者ギルドに集合です!」


 ゆうなが皆にそう告げると解散の流れになった。

次回予告

 魔法使いのチェリーを仲間にしたハーデスたち。しかしレベルが1のため、このまま冒険に連れていくより地下訓練所でレベル上げをする流れになった。果たして地下訓練所とはどんなところなのか。ハーデスはある種の運命的な出会いを果たす!


次回 ~地下訓練所~

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