33 紹介
次の日俺と銀次は冒険者ギルドに向かった。
待ち合わせているゆうな達と共に新たな仲間を獲得するためだ。
「銀次、そういえばレベルアップしたって言ってたけど、いくつになったんだー?」
「あっしはレベル22になりやした。職業レベルは7になって新しい特技も修得したでやんす」
「そうか」
俺も昨日の戦いでレベルアップをしたが確かめてなかったので冒険者の書を開き手を当てた。
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名前:出野 ハー(年齢?歳 性別 男)
レベル:19
職業:しょうかんし
職業レベル:6
HP:3,260,000/3,260,000
MP:165,000/165,000
物理攻撃力:6,150
物理防御力:6,340
魔法攻撃力:5,620
魔法防御力:6,400
素早さ :5,760
運 :90
使用可能魔法一覧
火属性:チャッカ(小) ~ ドゴウゴウ(極大)
水属性:チョロ(小) ~ ドバーン(極大)
氷属性:バリ(小) ~ バリジャッキン(極大)
雷属性:ピリ(小) ~ ドンバチン(極大)
土属性:ゴゴ(小) ~ ズゴーン(極大)
風属性:フワ(小) ~ ビューン(極大)
闇属性:ヌン(中) ~ ヌラリアン(極大)
即死:スット(小) ~ アトカスット(中)
毒:ジュク(小) ~ ジュクジュ(中)
麻痺:ギチ(小) ~ ガチギ(中)
飛行:プカン
使用可能特技一覧
一刀両断/我軸円斬/発風剣/無絶無斬/真無絶無斬/完全防御/結界術(消費MP量に準ずる)
使用可能しょうかん一覧
ゴブリンパンチ/ホップスライムジャンプ
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レベル19、職業レベルは6まで上がっていたが新しいしょうかんは覚えていない。
俺にとっては今は能力値の上昇よりも新しいしょうかんを覚えているかどうかが楽しみであったので、特に何にも思わなかった。
「師匠はどんな感じでやんすか?」
「んー?俺は強い感じ」
それとなくレベルは言わずやり過ごした。
冒険者ギルドに着くとゆうな銀次真弓の三人はすでに到着していた。
挨拶を交わし、俺達は冒険者ギルドに入った。
「うわぁ、今日は人多いねー」
「おらこんなに人がいるの初めて見たど」
ゆうなと剣児は渋い顔をしながら呟いた。
確かに俺もこんなに賑わっているのは初めて見た。
「私もだけど、おそらく昨日の件でパーティの編成を変えたり、強い人をスカウトしたりで混み合ってる様子ね」
真弓が言うとおり、数々の冒険者によるスカウトが横行していた。
テーブルに伏せ項垂れる冒険者の姿も少なくなかった。
おそらく人間界の常識であるパーティは四人編成というのが原因だろう。
そんな理解不能な常識があるが故に、一人仲間を入れるためには一人削らなければならないという地獄の構図が出来上がっている。
そんな常識を打ち破って、仲間をできるだけ増やそうという我が道を行く俺達は、そんな心配などいらなかった。
「師匠、あっちを見てくだせぇ」
「ん?」
銀次が指差す方向の冒険者募集窓口は行列ができ、これから並んだら自分達の番がいつになるのか検討もつかない状態だった。
「今日は集まってもらって申し訳ないけど、やめておこうかな」
ゆうなが混雑ぶりを見て今日の仲間探しを諦めるような発言をすると、それに真弓が反応する。
「そういえば、ゆうなちゃん今日はどんな職業の方を探してるの?」
「魔法使いか僧侶を探そうと思っていました。でもこの状況では無理そうですよね。はぁ」
その言葉を聞き、真弓は思い出したかのように提案をする。
「そうそう、誰でもいいんだったら、私の知り合いに最近魔法使いになったって人がいるわよ。私も噂で聞いただけだからもしかしたら違うかもしれないけど。ちょっと会ってみる?」
「是非お願いします!」
真弓の提案にゆうなは目を輝かせ返事をした。
「じゃあ早速行きましょう。その方は私の家の近くに住んでいますので」
俺達はその魔法使いに会いに行くことになった。
◇◇◇◇◇◇
タンナーブ城の裏手側は人間の居住区が広がる。
タンナーブの町はざっくり言うと入口から城までの表側は市場や冒険者ギルド、職業神殿などの人が集まるような建物が並んでいる。
裏側には居住区が広がっているが、城から遠ざかっていくにつれ銀次が育った施設があるような、所謂貧困に苦しむ人間の居住区となっているそうだ。
真弓の住まいは城と銀次が育った施設のちょうど真ん中くらいの位置にあった。
その真弓の言っていた魔法使いとは、真弓の幼馴染みだそうで、【佐倉坊】という男であった。
真弓の歳は30歳なので、その魔法使いもゆうなや剣児よりも断然年上だ。
流れで銀次の歳の話になったが、銀次が18歳だと分かると俺以外の皆は一様に驚いていた。
ゆうなは「出野さんより年下だと思わなかった」と誰よりも驚いていた。
そしてようやく魔法使いの男がいる住まいに到着した。
「約束もなく来ちゃいましたけど、います……かね?」
俺もゆうなと同じことを思った。
確かにいるかどうかも分からない状態で何となくついてきたが、最初に聞くべきだったなと少し反省した。
そんな不安を真弓は取り除く。
「彼は家から一歩も出ないことで有名よ。ここ何年も出てきてないから。寝て起きて母親が作った飯を食べてまた寝てを繰り返しているわ。だから大丈夫!」
「それなら大丈夫だべ!」
真剣な目で語る真弓であったが、返事をした剣児以外の俺を含めた三人は顔を見合わせそわそわしだした。
多分思っていることは同じであろう。
……家から出ないでどうやって魔法使いになるのだと。
そんな俺達に気付かず真弓は大きな声で呼ぶ
「【チェリー】!話があるから顔を出してー!」
チェリー?
「チェリー!いるんでしょー!?」
様子を見ているとひょいっと二階の窓から男が顔を出した。
どんぐりのようなサラサラ髪で顔の肉付きから分かるその巨漢、それが佐倉坊だった。
「な、何でしょうか?」
おどおどした雰囲気を醸し出す通称チェリーは、俺達に気が付くと慌てるようにまた中に入っていった。
「チェリー!話があるのー!ちょっと外まで出てきてー!」
「い、いくら真弓ちゃんのお願いでもそれはちょっと」
またもやひょいっと顔を出したチェリーはそれだけ言うとまた中に入った。
「ふぅ、しょうがないですね」
真弓はそういうと家の中に入っていった。
俺達は問答無用で人様の家に上がり込む真弓を見て呆気に取られていた。
しばらくするとチェリーを連れて真弓が出てきた。
窓からは顔しか見えなく姿は確認できなかったが、職業は剣士か盾使いじゃないのかというくらい縦にも横にも大きな体つきをしていた。
「彼が佐倉坊、名前がさくらんぼみたいだから通称チェリーよ」
「ど、ども。にちわっす。ぼ、ぼく佐倉坊す」
「こ、こんにちは。あはは……」
ゆうなは挨拶を交わすが少し引いていた。
俺達男連中も挨拶を交わし、真弓が早速本題に入る。
「で、なんだけど、チェリーこの前魔法使いになったって聞いたけど私達とパーティを組まないかな?」
「えっ!?ま、まほ使い!?ぼぼぼぼく、まほ使いじゃないけどね。無職す無職」
「えっ?」
俺達もそうだが真弓も驚きを隠せない様子だ。
「いや、なんかみんな言ってたよ?チェリーが魔法使いになったって」
「や、それは……。ぼ、ぼくが30歳で、なんていうか、おおお女の人とそういう関係になったことがないからであって……、みんながそのことを……」
意味の分からない俺はゆうなの顔を伺うと顔を赤くして俯いている様子だった。
どういうこと?
銀次がその様子を見て口を挟む。
「あー、そういうことでやんすか。ゆうなはん、あっしは詳しくは知らないんでみんなに説明頼むでやんす」
「な、何で私が説明しなきゃないんですか!?」
「ゆうなちゃん、どういうことなの?」
「無理です無理です!私からは言えません!」
「知ってることあれば言ってほしいな」
真弓も加わりゆうなは今置かれているチェリーの恥ずかしい状況を言わざるを得なくなった。
次回予告
ハーデス達は真弓に魔法使いであるとされていた佐倉坊を紹介されたが、どうやら彼は魔法使いではないらしい。ではなぜ魔法使いと言われていたのか。謎はゆうなが握っている。果たしてどう転ぶのか。
次回 ~魔法使い 佐倉坊~




