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31 あっけない終わり

 俺がジョヴァンに特大の体当たりをかましたことによりジョヴァンは怒り狂っていた。


 それを他所目に俺は頭の中を整理した。

 ホップスライムジャンプ、それは汚い模様のスライムが俺を乗せ、上空に飛び上がり勢いをつけて俺だけを体当たりさせた。

 汚いスライムは俺を乗せた状態で魔物にアタックを食らわす寸前に突然消える。

 ふと疑問に思う。

 何故そこで消える?


「無視すんなてめぇー!」

「ガチギ」


 俺の中では俺ではなくスライムが体当たりをする予定だった。

 あのまま弾力性のあるスライムが硬化し、ジョヴァンに一撃を食らわすのを想像していたんだ。

 しかし蓋を開けてみると、スライムは当たる間際で煙となって消えた。

 んー、考えても分からない。


「うぉぉぉらぁぁぁあ!」

「ガチギ」


 そうか!

 もしかしたらあれは体当たり攻撃ではなく、上空から勢いをつけた状態でスライムに乗ずる者が攻撃を放つものではないか!?

 そうすることにより通常の攻撃よりも勢いがついて、より強力な攻撃になるかもしれない。

 絶対そうだ、それ以外考えられない。

 この仮説を検証しなければならない。


「やめ、やめぇ!」

「ガチギ」

「……出野さん!」


 しかし俺では攻撃力が高すぎて、検証に値しない。

 勢いがついていようがついていまいが一発で片がついてしまう。

 ここはゆうなか剣児を乗せて攻撃出来るか、あるいはゴブリンを乗せてゴブリンパンチを繰り出してもらうかだな。

 どちらにせよ、しょうかんしたスライムが俺以外を乗せることは出来るのか、まずは検証しなければならない。

 俺の足元以外の空間から出てくる事は可能かどうか。

 よし、もう一度ホップスライムジャンプを繰り出してみよう。


 ドクンッ


「「出野さん!」」

「えっ?」


 俺はゆうなと剣児に肩を叩かれ現実に戻った。

 あろうことか、俺は戦いの最中色々な事を後回しにし、長いこと考え事をしていたのだった。

 申し訳ない。

 しかしその考えが合っていてさえくれれば勝てるかもしれない。


「俺はもう一度ホップスライムジャンプを繰り出す!剣児、とりあえず俺の横にいてくれ」

「いやもう終わりましたよ」

「えっ?」


 俺は周囲を見渡すと、あれほどいた魔物の群れは全て地に伏し、目の前にはジョヴァンの死骸と思われるものも横たわっていた。


「ど、どういうことだ!?」


 俺は状況が飲めずにいた。

 さっきまで苦戦を強いられていたあの巨大なジョヴァンに、皆が勝っていたのだから。


「しょうかんが終わって出野さんが棒立ちの間に、魔法使いのどなたかがジョヴァンに麻痺魔法をかけてくれたみたいで、動かなくなったジョヴァンに皆で一斉攻撃をしたんですよ」

「あー、そうだったのかー」


 確かにジョヴァンがうるさいから俺が麻痺魔法をかけたような気がするが、他の魔法使いがやったことになってるのか。

 危ないところだった。

 多数の冒険者が一堂に会したことにより、誰がどのように戦闘に参加しているのかが曖昧になっていたのが救いだった。


「師匠!大丈夫でやんすか?」


 その声で銀次もすぐ近くにいたことに気付いた。

 銀次も負傷していたが、そこまでの傷ではないようで、結構ピンピンしていた。


「あぁ、俺は大丈夫だ」

「よかったでやんす。スライムに乗って空から落ちてきた時は心配したでやんすよー。皆さんも無事で何よりでやんす」


 そんな会話をしていると真弓も少し離れたところからやってきた。


「皆さん生きていて良かった。最初のうちは皆さんの姿が確認できていたのですが、途中から見失ってしまって。だって出野君が魔物に混乱させられて私達に向かってきましたからね」


 俺の目を見て何故か楽しそうに話す真弓。

 あー、あの時か。

 真弓は俺が混乱したと思っていたのか。


「えー、何ですかその話ー。詳しく聞きたいですー!」

「もう魔物の気配もないし、一旦休憩ということで皆さんで冒険者ギルドで一息つきませんか?そこで今日の戦いを振り返りながら話さない?」

「そうしましょう!」


 ゆうなと真弓が二人で盛り上がる傍ら、銀次は俺に話しかける。


「師匠、今回あっしがお二人から盗んだものは剣と弓です。もしあっしが師匠に捕まらなければお二人は戦えなかったことでしょう。やはり師匠と行動を共にすることはできません。盗人から足を洗って真っ当に生きたいと思います」


 銀次の素振りから本心なのであろうと感じた。

 それと同時に何て聞きやすい口調なんだと感じる俺もいた。


「あぁ、弟子には迎えられないが元気に過ごしてくれ。じゃあな」

「へい。剣児さん、真弓さん、今回は本当に申し訳ありませんでした!」


 俺に返事をすると剣児と真弓に向き直り、頭を下げた。


「おらの剣を盗ったのは嫌だったけど、銀次に助けてもらったからありがとうだー」

「本当よ。私の大事な弓ですからね!でも私のミスもカバーしてくれてありがとう!」


 二人は盗られたことに対してはいい顔をしなかったが、銀次に助けられたことに対しては素直に礼をしていた。

 剣児がデスストリングに襲われそうになっていたときに助けたのは見ていたが、真弓のミスをカバーしていたとは驚きだ。

 あの位置からミスをカバーするなんてどうすればそんなことが出来るのか想像もつかなかった。

 銀次は意外と優秀なのかもしれない。


「そうだ、冒険者ギルドに盗人(ぬすっと)君も一緒にどう?いいかなゆうなちゃん?」

「まぁ二人がいいならいいですよ。私もいっぱい助けられましたし」

「あっしもいいでやんすか?」


 銀次は少し顔を明るくしていた。

 別れを告げた手前、結局一緒に冒険者ギルドへ向かうのは少し都合が悪いがまぁ流れでそうなったのなら仕方がない。


 俺達は一息つくために冒険者ギルドへ向かった。


 この戦いで何名かの負傷者を出したみたいだが、幸い人間側は誰も死ぬことがなかったという。

 タンナーブ入口の大門は一部破壊されていたが、おそらく数日のうちに修復されるであろう。

 タンナーブ襲撃は、数ヶ月前に英雄さんが倒したヴァーナイン以来だという。

 鳴りを潜めていた魔王軍が、この先また襲来するであろうことを示唆していた。

 現最強の英雄さんパーティはまだ旅に出ているとの事で、今回の襲撃はその他の冒険者達で防いだというわけだ。

 英雄さんパーティが常駐していないのであれば、魔王軍の戦力を考えるといつタンナーブが落とされてもおかしくはない。

 俺達魔王側は、最強戦力の自分がいなければ城や居住区を落とされる可能性があるからこそ、そこを動かない。

 動くとしても、拠点を変えつつ移動をする。

 人間側は、その最強戦力を魔王討伐の為に駆り出す。

 広い意味で守る為の行動とはいえ、その人間の行動に俺達魔王側は理解し難い。



◇◇◇◇◇◇



 俺は今、冒険者ギルドでテーブルを囲み、さっきまでの戦いを振り返っていた。

 俺、ゆうな、剣児、真弓、そして銀次が座っている。

 周りのテーブルにも多数の冒険者達が座り、ギルド内は先程の戦いに勝利し浮かれている冒険者でごった返していた。


「出野君が混乱魔法をかけられたみたいで、『今だー!』って言って魔物を引き連れてきた時は本当に驚いたわ」

「ははははは!混乱してなくても出野さんだったらやりかねないですけど本当に笑っちゃう」

「周りの方々が『混乱しているあの人を治さなきゃ』って焦ってたのよ。私もさすがに焦ったわ」

「真弓さんはどうしたんですか?」

「私は向こうから応援の冒険者の方々が来ているのが見えたから、とりあえずその場を離れて前線のサポートに回ったわ。私の周りにいた方々も『うわぁ』ってなって散っていったわ」

「出野さん混乱する感覚ってどんな感じですかー?」


 ちょうど俺の話をしていた。

 俺はゆうなが言うとおり断じて混乱はしていなかったのだ。

 しかし話を聞く限り、俺の後方部隊の為を思っての行動は混乱していたからだと思われていた。


「ん?まぁ、記憶にないから分からないなー」


 とりあえず知らないふりをした。


「おら銀次さ何回も助けられた。その度におらってまだまだだなぁって思ったなー」

「私もね、何だかんだでいっぱい助けられたんだよね。この人どこに目が付いてるの?ってくらい、周りを見てた。私も見習わなくちゃなって」

「あっしも必死でしたからねぇ。一応仮とはいえ、お仲間でしたから精一杯やらせていただきやした」


 銀次は、剣児とゆうなに誉められ少し照れくさそうにしていた。


「私も弓を放った時に手元が狂って他の冒険者の方に当たりそうになったけど、盗人君はそれを見て、矢が当たりそうな方向に魔物を蹴り飛ばして防いでたわ。ちょっとびっくりしちゃったわ」

「たまたまでやんすよ。あっしは全部が全部見えているわけではないですからねぇ」

「またまたー。だって私が弓矢を放った瞬間、目の前に魔物がいるっていうのにこっちを見ていたじゃない?本当に観察力がすごいわ」


 真弓の言葉もまた、銀次を照れくさそうにさせる材料となった。

 今日の朝まで銀次に対し嫌悪感を抱いていた皆が口を揃えて誉めているこの光景は、一緒に戦ったというのが非常に大きい。

 今回の出来事は、銀次にはプラスになっていることは確かだ。


「それで話は変わりますが……、私をゆうなちゃん達の仲間に入れてくれませんか?」


 唐突に真弓が切り出した。

 あれ?パーティを組んでなかったっけ?

 俺の疑問をそのままゆうなが投げかける。


「真弓さんは別の方とパーティを組んでいるんじゃなかったでしたっけ?」

「そうなんだけど、今回皆と戦って何となくだけど、こっちのパーティが私に合ってるのかなって思って。あ、ゆうなちゃんが女勇者だということは知ってるよ。もちろん私のわがままなので、無理は言わないです」


 ゆうなは即答する。


「是非!よろしくお願い致します!」


 ゆうなと真弓が固い握手をしている中、剣児がそわそわしだした。

 次の剣児の発言で場は何とも言えない空気感に包まれる。


「銀次も仲間にしたらどうだべ?」

次回予告

 ジョヴァンを無事に倒し、真弓を仲間に入れたハーデス達。剣児が銀次を仲間に入れる提案をし、皆は猛反対する。しかし銀次の話を聞くと……。


次回 ~真意~

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