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29 襲来

「逃げろー!魔物の群れだー!」


 市場の方からパニック状態に陥った人々が我先と形振り構わず逃げてきた。

 その叫び声から察するに、タンナーブに魔物が攻めてきたのだと理解した。

 目と鼻の先にある冒険者ギルドからは多数の冒険者が外に出、その光景に息を呑んだ。


「魔物か!?よし、俺らでタンナーブを守るぞ」

「どこからでもかかってこい!」


 そう意気込み剣を握る者、槍を構える者、杖を持つ者、多種多様な冒険者が魔物の群れを迎え撃つ姿勢でいた。

 その血気盛んな冒険者達は先を急いだ。


「魔物が群れを成すのはあまり自然ではないですね。おそらく魔王軍が攻めてきたのでしょう。私達も人々を守るために戦いましょう」


 仲間である俺と剣児に声をかけ、この状況を物ともせず勇み立つゆうな。

 一切の迷いはなく、勇者としての模範がそこにはいた。


「やってやるどー!」

「そうだな」


 俺と剣児も気迫を示し、俺は木の枝を、剣児は剣を各々手に持った。

 横にいた真弓も巾着から弓を取り出し、感触を確かめるように弓を(しな)らせる。 


「私も戦います」

「真弓さん、一人は危険ですので私達と一緒に向かいましょう」

「ありがとう」


 ゆうな、剣児、真弓の三人は、タンナーブ入り口側、人々を恐怖に陥れる存在の元へと駆け出す。

 俺も続こうとしたが、視界の隅に、地に手と膝を付き(こうべ)を垂れた状態の銀次が目に入る。


「銀次、戦えるかー?」

「あ、あっしもいいんすか!?」


 膝を付いた姿勢を保ったまま銀次は顔を上げた。


「んー、まぁ人数は多いほうがいいでしょ」

「では師匠に続かせていただきやんす」


 俺と銀次は先を行くゆうな達に走って追い付き、更にタンナーブ入り口側に向かった。


「出野さん、遅いですよー。ってちょっと!変な人が一人混ざってますよ!」


 俺の後ろを走る銀次に気付くと、ゆうなは走りながらも意識を向けた。


「とりあえず連れてきてみた。変なことしそうだったら俺が何とかするからさ」

「そ、そうですか」


 銀次は俺とゆうな両方に気まずそうな顔を浮かべながら後に続いた。


「どれほどの強さの魔物が攻めてきているか想像もつきません。ですが一刻を争う事態です。魔物の侵攻を止めるためにも死ぬ気で戦いましょう!」


 ゆうなは自分を鼓舞するかのように俺達に告げた。

 まぁ俺がいる限り死ぬことはないだろうが。

 前方を見ながら走るゆうなは横並びで走る真弓に問う。


「真弓さん、後方からの支援は可能ですか?」

「ええ、もちろん。皆さんが戦いやすいようやってみるわ」


 微かに震えるその声は、俺達よりもレベルが高いとはいえ、冒険の経験不足からくるものなのか俺は知らない。


「銀次さんは何かの職に就いてますか?」

「あっしは盗賊でやんす。ついでに言うとレベルは19でやんす」

「武器は?」

「こいつでやんす」


 銀次はスピードを緩めず腰から二本の短剣を取り出した。


「口頭で!」

「た、短剣でやんす!」


 ゆうなは先を真っ直ぐ見据え、やや後方にいる銀次に顔も向けず語気を強めていた。


「では私、剣児君、銀次さんで前線、出野さんはやや離れたところから攻撃を、そして真弓さんは後方から支援をお願いします」


 各々返事をし、陣形を頭に入れた。


「皆さんこれを受け取ってください。無理だと思ったら離脱も頭に入れておいてください」


 ゆうなは巾着から薬草を出し、皆に一つずつ投げ渡した。

 人間はこんな感じの戦い方をするのかー。

 基本魔物は目に入った対象をとりあえず潰すという戦い方なので、俺は素直に感心した。

 というか、勇者であるゆうなの判断に感心したといったところか。

  

 入り口に近付くにつれ逃げ惑う人々の姿は少なくなり、この先に魔物がいることを彷彿させる。

 更に進むと数多くの冒険者、そして兵士だろうか、大量の魔物と戦っている光景が目に入った。


「くっ、魔物を見る限り私たちでは手に負えない相手かもしれません!他の冒険者の方々もいます。私達も出来るだけの動きをしましょう」


 目の前には俺から見たら雑魚がタンナーブの冒険者達と戦っていた。

 そこに剣児が勢いをつけて切り込む。


「おりゃあ!半月斬(はんげつぎ)り!」


 剣児が爺さんから貰った剣で1メートルほどの足の長い蜘蛛に一撃を食らわす。

 後に知ったが、その魔物は【デスストリング】という虫系の魔物であった。

 斬られた部分から少量の緑色の血が出たが、効いているかどうかは正直微妙だ。

 デスストリングは剣児に向け糸を吐き出し、まんまと剣児は拘束された。

 いかにも剣児らしい動きだ。


「チャッカ!えいっ!」


 ゆうなは二本の足で立つ大きめの熊に向け火属性魔法を放ち、そのまま剣で斬り込んだ。

 この魔物は【キラーベア】という名だった。

 キラーベアはゆうなの攻撃を諸ともせず大きな爪で攻撃するが、爪が届くすんでのところでゆうなは躱した。

 前に転がるように躱す様からは必死さが伝わった。

 おそらくそのまま食らっていたらHPをだいぶ削られていたであろう。

 レベルは分からないが他の冒険者が、それとは違うキラーベアから爪攻撃を食らい早々に戦線離脱していた。

 ゆうなが対峙していたキラーベアは立て続けに爪での攻撃をしようとしていたが、後方からキラーベアの目に矢が飛んできて、それは阻止された。

 後方にいるため姿は確認できないが、おそらく真弓の攻撃だ。


 拘束され身動きがとれない剣児に対し襲いかかろうとしているデスストリング。

 そこに銀次が両手の短剣で斬り込み助ける。

 デスストリングの長い足を一本、二本と立て続けに斬り、デスストリングはへたり込んだ。

 俺からしたらあくびが出るような速さだが、銀次は盗賊なだけあって他に比べなかなか素早い動きをしている。

 流れるような動きで剣児の元へと繋がる糸も斬り、ついでに剣児を拘束している糸も斬っていた。


 ほう、やるな。


 俺はというと、キラーベア二匹と、斧を持ち人間に牛の頭がついたような魔物三匹と対峙していた。

 牛の頭の魔物は【ミノタウロス】だという事は俺でも知っている。

 元魔王なめんな。


 何故か俺の周りだけ冒険者がいなく、意味も分からず多数の魔物を相手することになっていた。

 よく分からないが、しょうかんしという職業上、微妙な位置取りを強いられるのであろう。

 まぁキラーベアもミノタウロスも雑魚だし問題はない。

 問題があるとすれば、俺本来の力を抑えた上で、雑魚のこいつらをどう処理すればいいかということだ。


 とりあえず俺は、木の枝をそいつらに向け声高らかにしょうかんを繰り出す。


「この一撃に怒れ!ゴブリィィィンパンチィ!」


 前回の戦闘でゴブリンパンチは挑発と攻撃の両方を兼ね揃えるものだと分かり、俺はひっそりと台詞を変えていた。

 目の前の合計五匹の魔物に二発ずつ食らわそうと考え、続け様にしょうかんを繰り出す。

 二発も食らわせば多少ダメージを与えられるだろう。


「この一撃に怒れ!ゴブリィィィンパンチィ!」


「この一撃に怒れ!ゴブリィィィンパンチィ!」


「一撃に怒れ!ゴブリィィィンパンチィ!」


「一撃に!ゴブリィィィンパンチィ!」


「一撃!ゴブリィィィンパンチィ!」


「ゴブリィィィンパンチィ!」


「ゴブリンパンチィ!」

「ゴ、ゴブパン!」

「ゴブパン!」


 途中から言うこと自体面倒になった俺は、最終的に「ゴブパン」まで省略した。

 別に言わなくともしょうかんできるが、そこはしょうかんしとして最低限カッコつけたいので漏れなく言うのが俺のモットーだ。


 合計十体の可愛いゴブリン達がそれぞれ魔物に向かっていく。

 二匹のキラーベアと三匹のミノタウロスはそのゴブリン達めがけ攻撃体勢をとった。

 バカめ、この子達は無敵だ。


「んあっ!?」


 今まで一度に一体のゴブリンしか出したことがなかった俺は、微かな違和感に気付き少し驚いた。

 何故なら、十体のゴブリンはそれぞれ顔や背丈が微妙に違ったのだ。

 おそらく人間には判断がつかないであろう。

 魔物を統べていた元魔王の俺だからこその発見である。


「「◎▼○#◆#*!」」


ペチッ、ペチッ、ペチッ、ペチッペチペチ……


「グオォォォオ!」


 見事挑発だけ(・・・・)終えた可愛いゴブリン達はボンボンと煙となって消えていった。

 本当にありがとう、ゴブリンのみんな。


 それとは別にゆうなと剣児、そして銀次が苦戦している姿が目に入った。

 俺は周囲を見渡し誰も見ていないのを確認すると、とりあえずゆうなや剣児が戦っている魔物に向け、無言で即死魔法を放った。

次回予告

 タンナーブを襲った魔物の群れに劣勢状態のハーデス達。そして現れる群れの統率者。勝つのは誰だ!?


次回 ~ホップスライムジャンプ炸裂~

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