28 盗賊 刷野銀次
「師匠!お待ちになってくんなませ!」
何か面倒な予感がした。
「師匠?俺の事か?」
「そうでやんすねぇ。あっし、師匠のその動きに惚れ込んでしまいやしたからねぇ。あっしを弟子にしておくんなませ」
悪い予感ほど当たるもんだ、銀次はなかなか面倒な事を言い出した。
俺は弟子など取るつもりはない。
「俺は冒険者でパーティを組んでいる。だから無理。しかも俺は人の物を盗むようなことはしないぞ」
「ひょー、盗賊ではないのでやんすか。あっしは物を盗む側。そのあっしが物を盗まれるなんて今までなかったでやんすから、てっきりあっしは同業かと」
俺を盗賊かと思っていたとはな。
まぁ銀次がそう思うのも仕方がないことだ。
魔王時代は、配下の私物をバレないように失敬し、それを魔王城のどこかに隠して探し当ててもらう遊びをしていたからこういうのは慣れていただけだ。
「違うからもう帰れ」
「いや、でも盗賊じゃなくても師匠に惚れ込んだのは事実でやんす。そこをなんとかお願ぇいたしやす!」
「いやいや無理。人の物を平気で盗むようなお前に教えることはない」
俺も配下の私物を失敬していたのは事実だが、俺の場合はお遊びの一環だ。
「もう盗みなんてしないと誓いますから、そこをなんとかお願ぇいたしやす!」
それにしてもしつこいな。
仲間の剣を盗んだやつを俺の弟子にするのは無理だ、そもそも弟子などいらぬ。
そうだ、剣児に判断を仰ごう。
さすがに自分の大事な剣を盗んだやつが仲間に入りたいといっても頑なに拒否するだろう。
いや待て、剣児はそういうところ鈍感というか、何も気にしない性格だ。
普通に「別にいいぞー」なんて言いそうだ。
これはゆうなに聞いてみるのが得策だな。
「じゃあ分かった。俺の弟子になるということは、俺のパーティに入るということだ。仲間がお前を受け入れるのであれば俺の弟子にしてやろう」
「ありがとございやんす!」
「あとな、その喋り方やめろ」
「はい!分かりました!」
俺の事を本当に師と仰ぐのか、銀次は意向にすぐ従った。
「よろしい。ていうかお前、家はあるのか?」
「あっしは家がねぇでやんすねぇ……、いや、家はないですね、はい」
早速ボロが出た。
「じゃあ俺のところ来るか?」
「いいでやんすか?うれしいでやんす!いや、うれしいですね。しかもいいのでしょうか?」
銀次の癖はすぐには直らないみたいだ。
どちらにせよ俺は気になるが、どうしようもなさそうなので今までの喋り方に戻すことにした。
「もういい。普通に話せ。逆に癇に触る」
「申し訳ねぇでやんす」
その後、俺と銀次は軽く話ながら俺の寝床に向かった。
どうやら銀次はパーティは組まず、【盗賊】の職業についているらしい。
レベルは19で、歳は18だそうだ。
顔の白塗りの理由を聞くと、「週に一回塗るのが面倒ですけど、これで笑ってくれる子がいるからやめられねぇでやんす」という謎発言が飛び出した。
俺は全然笑えない。
そんな話をしていると俺の拠点である大きな木のところに到着した。
「俺の家はここだ」
「えっ?師匠、あっしには家など見えねぇでやんす」
銀次はキョロキョロと周りを見て、家を模様した建物がないか探していた。
「いや、この木の上で寝るんだ」
「ひょー、それは驚きでやんす。あっしは木の上で寝るのは無理なんで下で寝るでやんす」
誰も俺の寝床に上げると言ってはないのだが、下で勝手に寝てくれるならこちらとしては都合が良い。
「じゃあ明日」
「師匠、ごゆっくりおやすみくだせぇ」
俺は木に登り一応結界を張り目を閉じた。
やはり誰かが近くにいると寝ようにも寝られないので、俺は寝ずに一夜を過ごそうと思ったが、もしもの為の結界である。
銀次のいびきが聞こえたので下を見ると、大きく口を開けて寝ていたのでその口めがけて柿ピーを一粒投げ入れた。
ふがふが言いつつもボリボリ音を立てて食っていたので、もう2、3粒入れておいた。
◇◇◇◇◇◇
日が出てきて、ゆうな達との集合時間が近づいてきた。
銀次は気持ち良さそうにまだ寝ている。
「おーい、銀次ー、起きろー」
「へ、へい!」
俺が木の上から声をかけると慌てて銀次が起き上がった。
「師匠、おはようござんす!」
俺は木から飛び降り、銀次の横につく。
「なんだその口についた食べかすは!
「へっ!?」
銀次は口を拭い、戸惑った顔をしていた。
「なんだその口についた食べかすはと聞いているんだ!」
「し、知らねぇでやんす!」
俺は弟子にするのは無理だと言ったが、何だかんだで配下が出来たような少し嬉しいような懐かしいよつな気分になった。
いっぱい悪戯してたからなー。
俺と銀次は準備をし、ゆうな達と合流すべく、冒険者ギルドへ向かった。
途中、寝ている間に俺が柿ピーを投げ入れたことを言うと、「ひょー、喉に詰まるんで寝てるときは勘弁してほしいでやんす」と言っていた。
二粒三粒で何をほざいているのだと思ったが、人間はそういう種なんだなと新たな発見も出来た。
そんな会話をしつつ歩いていると冒険者ギルドが見え、入り口前にゆうなと剣児と真弓の姿が確認できた。
ゆうなは俺の姿に気付くと、驚いた表情になり慌てて剣児と真弓の肩を叩き俺達を指差していた。
「あの二人が俺の仲間で、もう一人の女が真弓だ。おい銀次、覚悟はできてるだろうな?」
俺は銀次に問う。
「へい!」
俺に少し頭を下げ、少しだけ早く歩いた。
そして三人の元へと着くなり、地に頭と手を付いた。
「本当にすいやせんでした!盗んだ物は全て返させていただきやんす!」
「出野さん、ちょっとこれどういうことですか?この人が刷野銀次ですか?」
ゆうなは困惑しているような顔で俺に詰めよってきた。
「そうだ。昨日帰る時にたまたま俺も盗られそうになったというか、結局盗られなかったんだが……。まー捕まえた」
俺の発言に三人は驚いていた。
俺は真弓の巾着の中から剣児の剣を取り出し、そのまま剣児に渡し、巾着袋は真弓に返した。
「出野さん、ありがとうございます」
「おらの剣を取り返してくれてありがとー」
俺は二人から礼を言われたが、地に伏す銀次に対しての視線は冷やかであった。
早速本題に入る。
「それで、この銀次が俺の弟子になりたいと言ってきた」
「「えっ?」」
ゆうなも剣児も同じ反応を示した。
真弓は何とも言えない表情になっていた。
「いや、出野さんどう思ってるんですか?」
「今回の件に関しては、俺の一存では決められないと思ってる。だからこそ、剣児とゆうなに意見を求めたい」
「無理ですよ。弟子ってことは私達のパーティに入るかもしれないってことですよね?こんな盗人の人とパーティを組むのは絶対反対です。だよね、剣児君?」
「おらの剣に手を出さないんだったら別にいいど」
二人は俺の予想通りの答えを出してきた。
まぁ俺も今さら弟子とか面倒だし、ゆうなと剣児のことを考えるとこれでよかった。
「と、いうことだ。やはりお前を弟子にはとれ
「逃げろー!魔物の群れだー!」
俺の発言は、その叫び声に遮られた。
次回予告
銀次が仲間に頭を下げている中、突如としてタンナーブに魔物が襲来した。他の冒険者達が応戦しようと意気込む中、ハーデス達もタンナーブを守らんと動く。銀次はどうする!?そして戦いは始まる。
次回 ~襲来~




