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ちょっとだけ……ドキッとしました

 うーちゃんは、毎日私のところにやってきては、お昼ご飯を食べさせてくれて、リハビリも進めてくれました。

 腕を動かせるようになって、食事を自分で取れるようになりました。

 自分で起き上がれるようになって、うーちゃんに支えられなくても起きていられるようになりました。


 そして、とうとうこの日がやってきました。


「んっ……まだ、ふらついてしまいますね」

「それでも、この短期間でもたれながらとはいえ立てるようになったのです。人間では考えられないほどの速さ……やはり、リエさんは人間とは違う時を生きているのですね」


 ずっとそうでしたが、うーちゃんは私の回復を素直に喜べないようでした。

 それは、おそらく私たちが決定的に異なる生き物である、という証明がされてしまうこと。

 そして、私が動くためにうーちゃんの手を借りなくてよくなる。つまり、”私の世話係”という、うーちゃんにとっての価値が危うくなるというところからきているのでしょう。

 私は、そんなことはないとはっきり言うことができます。それでも、うーちゃんと会話を交わすうちにわかったのは、うーちゃんは自分を全く評価していないということ。

 何度も、うーちゃんはすごい人なのだと伝えました。それでも、うーちゃんはそれを受け止めてくれません。

 敬愛する、とまで言ってくれた私の言葉を信じてくれないほど、うーちゃんの不遇の日々は長かったのでしょう。


「……うーちゃん、これだけ動ければ、車いすには乗れますよね?」


 ベッドに腰かけながら、そう口にする。


「そう、ですね。これでもう、リエさんは私がいなくても……」

「それは違います。うーちゃんは、私の友達……いいえ、親友です。親友なしで成り立つほど、永遠は短くないのですよ? それに、まだ車いすを自分で動かせるほどの腕力はありません。うーちゃんに押してもらえないと、とても困ります」


 ご飯も食べて、おいしいお茶を飲んで。眠るのは少し怖いけれど、異常な感覚はあの後一度もありませんでした。だから、少しずつ睡眠もとれて……元気を取り戻した私は、はっきりとした声で、うーちゃんにそう言いました。


「言っておきますけれど、比重が重いのは親友、というところなんですからね。車いすを押してくれるかなんて、二の次です」


 とにかく、車いすに座れるくらい回復すればこちらのものです。これで、うーちゃんを悪く言う人に文句が言えます!


「もったいないお言葉です。私なんかが親友だなんて……」

「うーちゃんはなんかじゃないですよ? そんな風に自分を卑下しないでください。あなたは、私の宝。私の救いですから」


 うーちゃんは恥ずかしそうに、どこか居場所なさげに見えます。褒められなれていないのでしょうけれど、これではあんまりです。


「でも、肝心の車いすはないんですよね。どうしましょう……」

「私にも、多少は自由にできるお金があります。それで買いましょう。大丈夫です、私が買ったものが何かなんて、誰もいちいち気にしませんから」

「そうしてください。うーちゃんの家族には、早く文句を言いたいんです。立って歩けるまでなんて、待っていられません!」


 もっと普通の家なら、私は歩けるまで待てた。

 けれど、うーちゃんを見る限り、普通という言葉からは遠い家のようですからね。何より、私の親友に、見ているだけで胸が痛くなるほどの表情を浮かべさせるのです。文句も、お説教も山ほどしたいです。


「ただ、家に取りよせると言う都合上、今すぐ手に入れることはできません。それと、私のためにそこまで怒っていただけるのは嬉しいのですが、あまり気にしないでくださいね」

「気にします怒ります心を乱します! 私はうーちゃんが思うよりうーちゃんのことを大切に思っていますからね!」


 しっかり動くようになった腕をあげ、うーちゃんを指さします。

 ……あれ、うーちゃん、固まっちゃいましたね。でも、さっきの居場所なさげな感じとも違います。なんでしょう……?


「その言葉に──全幅の信頼を」


 そう言うと、うーちゃんは私の手を取り、手の甲にキスをしました。


「え、へ?」

「そして、その心に変わらぬ想いをささげます」


 そのまま、当然のように体を寄せ、私の髪にもキスを。


「ツェツィーリエ様が思うより、私はツェツィーリエ様のことを思っています……従者としては、封ずべき域に至るほど」


 そのまま耳元に口を寄せ、囁くうーちゃんは……従者というより、騎士のようでした。

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