天野うずめの後悔
──終わりの近い体で、十分な血液の送られてこない頭で、考える。
私が、リエさんのために何ができたか。何をしてきたか。
──何も、無い。何も、何も!
私は、いつだってあなたの目覚めを渇望して、そうしたらきっとすべてが変わるとすがって……その果ての奇跡に、さらなる夢を見てしまっただけ。
そんなことをしていたから、今、この状況があるのでしょう。
今、かすみゆく視界では、さくらさんがリエさんの眉間に巨大な銃を突き付けているのが見える。
リエさんも、人間ならとっくに死んでいるでしょう。右腕は曲がらない箇所で曲がり、腹はほとんど肉が残っていない。
「それでは、良い死後を。ツェツィーリエ・ベヒトルスハイム」
さくらさんは、例刻にそう告げると、ためらうことなく引き金を引きました。
轟音が耳をつんざき、私をかばうように姿勢を保っていたリエさんの血が、脳しょうがあたり一帯にぶちまけられる。
「リエさんっ!」
──ああ、私はなんて馬鹿なのだろう。
もう、私の愛した、私を愛し返してくれた神に等しい存在は、その頭の上半分が消し飛び、もはや耳すら残っていないのに、そんな叫びをあげてしまうなんて。
「……あら、まだ生きてたんですのね、うずめ……お・ね・え・さ・ま?」
「………っ、さない、許さない、許さない……許さない!」
「……いつまで吸血鬼の幻想に囚われているおつもりで? たった一言だけで、その命助けて差し上げますのに」
意地悪く笑いながら、さくらさんは口にした。
「この死体を捨てて、わたくしを愛すると。今までの行いが、吸血鬼に魅入られたが故の狂気だったのだと認めれば! それだけでよいのです! さあ、早く言わないと、口すら動かせなくなりますわよ? さあ……さあ、さあ!」
たしかに、体に力は回らなくなっていく。体温すらなくなってきているのでしょうか。体の末端の感覚はすでにありません。
それでも、私が口にすべき言葉が何なのかだけは、良く分かりました。
「…………」
「え? よく聞こえませんわ?」
「……地獄に、堕ちろ……! 辻野さくらっ!」
私の叫びに、つまらなそうな顔で唾を吐きかけるさくらさん。
「……まあ、最初から助けるすべなんてありませんでしたけれど。そこまで罵られると傷つきますわ……せいぜい、そのまま苦しんで死んでくださいませ」
銃を下ろし、私たちに背を向けた時。
カリ、と。かすかな音が聞こえました。




