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轟音、静寂、そして。

 少しして、うーちゃんがなぎなたを持って戻ってきました。


「外はまだ大丈夫そうです」

「そうですね。リーリエの結界がかなり強固になってますから……これを破るには、結界のかなめや、直接乗り込むでもしないとできないと思います」

「かなめ?」

「はい。私にはさわりぐらいしか分かりませんが、地脈……星という命の、血管のようなものから魔力を吸い上げ、結界の補強に使うんだそうです。その為には適した場所に術式を敷かねばならないので……まあ、言ってしまえば、この屋敷に入らないと物理、魔法共に無敵みたいなものかと。外からの攻撃では、結界も、そのかなめも崩せませんから」


 つまり、敵は直接侵入せざるを得ない。それはこの離れまではいることを意味するので……よほど束になってくるか、リーリエクラスの大魔法使い、大陰陽師でも来ない限り大丈夫でしょう。

 ……でも。一度は陰陽師の侵入を許しています。おそらく、はるなさんを使役していた陰陽師でしょう。それはつまり、この屋敷の住人にとってよほど見知った顔か、隠密に優れた忍者のような身のこなしの人物ということ。

 前者であってほしいですね。忍者のような身のこなしに、陰陽術まで使われてはたまったものではありません。


「うーちゃん、空を飛んだり壁を走ったりするジャパニーズ・ニンジャは創作の中だけですよね?」

「えっ……その、多分フィクションですが、先ほどの神秘に関しての説明を受けた後ではいるのかもしれないとしか……」


 急に不安になって聞いてしまいましたが、たしかにその通りですね……え、では陰陽師や忍者は千年生きることができる……?


「陰陽師、忍者……なんて恐ろしい……!」

「落ち着いてください、リエさん。今リエさんが頭の中で考えてるの、多分間違った日本観を持った外人さんの想像した日本です。大丈夫、OLはオフィスレディーであってオイランレディーではありませんから」


 そううーちゃんがなだめてくれようとした時。


 コツリ、と靴音がしました。

 リーリエのものではない。そう認識した直後、私とうーちゃんは臨戦態勢を整えました。


「…………」


 お互い、何も口にしない。できない。極限の緊張の中で、扉の隙間から紙がすべりこむのを見ました。


「紙切れ……?」

「近寄らないで! 式神だと思われます。使役するための形代……!」


 不審がったうーちゃんが近寄りそうになるのをかろうじて止める。危なかった、私より一歩でも前に出られたら……守りきる自信がありませんから。

 私の声が聞こえたのか、そこからしばらく動きはなく……しかし、動きだしたのは、突然でした。

 胸元の護符がはじけ、動揺した瞬間、扉を押し破るように大量の形代が流れ込み、平安のもののふのような姿に形を変えました。


「ツェつィーリエ・べひとるすハイムに告グ。再度ノ封印を受ケヨ。さもなくバ、天野ウズメの命は保証しない」


 ……やはり、うーちゃんを人質に取る気でいましたか。

 けれど、うーちゃんは私の後ろに隠れてくれている。なら、この問答への答えは一つ。


「お断りします。私を封印し、うーちゃんの命が助かっても、その後の人生が、私が目覚める前に戻る……それどころか、逆恨みでさらにひどくなってもおかしくないのです。だから……引き裂かれたい紙切れから寄ってきなさい。私の恋人に! その繊維一筋たりとも触れさせはしない!!」


 自身の力に絶対の自信を持つかのように、強く言いきる。陰陽師本人ならともかく、紙切れ程度に後れを取るものですか!


「…………主命ヲ、受諾。ならバ、シネ」


 一斉に押し寄せてくる式神たち。それを見て、少しだけ安堵する。

 ……数に任せれば、この広い部屋を少し利用できると思う程度の相手で、本当によかったと。


「”現実拡張”」

 右手を前方につきだし、そう魔力を込めて呟く。

 そのまま左ほおのあたりに右手を動かし、もう一言。


「”身体強化”」


 さあ、もう少しだけ寄ってきなさい……!

 もう十センチ、三センチ……。


「リエさん!」


 ッ今!


 強化した右腕を、全力で、眼前の式神を引き裂くように、大きく、勢いよく振る。

 しかし、私はその前にこの部屋全体に手が届く、という形に現実を拡張しておきました。

 右腕に、骨が折れそうなほどの抵抗を感じる。けれど、それは私の右腕がこの部屋の中にいる式神全てを引き裂けているという証拠!

 振り抜きなさい、骨の百本や二百本、背後のたった一人の恋人の命の前では些細なこと! 振り抜け! ツェツィーリエ・ベヒトルスハイム!!


「──ッ、ああぁぁぁあああぁぁぁっ!」


 獣の咆哮とさして変わらないほどに、叫び、吠え、そして──振り抜いた!

 それと同時に、右腕に限界が訪れたのか、ボキ、という音と共に激痛が走りました。


「残敵は!?」


 目の前では元の紙にかえった形代が紙吹雪のように乱れ舞い、室内の視界はゼロに等しい。


 それでも、たしかに聞こえ、感じました。


 ダァン、という短く、大きな破裂音。そして──


「あグッ」


 ──私の腹部の痛みと、背後の恋人の、うめき声を。

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