想いやぶれて、なお残るもの
そのあとも、次から次へと打ち込むほかの部員をものともせず、うーちゃんは冷静にさばいては一撃で一本を取っていきました。
少なくとも、なぎなたは相当な腕前のようですね。私を抱きあげることもできるので、力持ちです
し。
「全員、礼!」
「ありがとうございました!」
どうやら、今日の稽古は終わったようですね。リーリエの言う通り、うーちゃんのかっこいいところをたくさん見ることができました。
「リエさーん! 一通りのことが終わるまでもう少しありますが、待っていてくださいね!」
ああ、けれど、こうして手を振るうーちゃんはやっぱりかわいい。面の奥は見えませんが、きっとうれしそうに笑っているのでしょう。
「……きっと、守り抜きますから」
陰陽師が何をしてくるか、それに対して私に何ができるか……なにも分からないけれど、彼女の一瞬のために、私の永遠をささげたっていいくらい、大切な人。
吸血鬼と人間とか、女同士とか、関係ないのでしょう。種族も、寿命も、極端に言ってしまえば、生態系の立ち位置すらも関係ない。
大好きです。みんなに優しくて、けれど私の事を特別大切にしてくれて。そこまでしなくても、と思うほど妬いてくれるあなたが大好きです。
「……良い御身分ですわね、アマツジ」
ふいに後ろから聞こえた声に、振り返る。
声で分かっていましたが、やはりさくらさんでした。
「さくらさんも、うーちゃんを見に?」
「ええ……ですが、もう、割り切らないといけないようですわね。わたくしでは、うずめお姉さまとアマツジの間には入り込めない。恋敵と思っていたけれど、鎧袖一触どころか、視線に入ることすら許されないような、ちっぽけな存在だと」
「……でも、うーちゃんにとって、さくらさんも大切な後輩だと思いますよ?」
「だからつらいんでしてよ。あくまでわたくしは、大切な後輩。大切にはしてくれても、アマツジのような間柄にはなれないのですから」
そう語るさくらさんの瞳には、涙が浮かんでいます。
「さようなら、私の恋。さようなら、私の愛……忘れるなんてできないけれど、あなたのことだけを思って生きます」
何か、歌の一節でしょうか。そう口ずさみながら、さくらさんは涙をぽろぽろとこぼす。
「──っ、アマツジ! うずめお姉さまを泣かせるようなことをしたら、そのきれいな顔、原形とどめなくなるまで張り倒して差し上げますわ!」
「そんな心配はいりません。うーちゃんを一番幸せにできるのは、私だと信じていますから」
「キーッ! その余裕が腹立ちますわ! 絶対ほえづら、かかせて差し上げますわ!」
ですが、そう話す間にさくらさんは涙を閉じ込めて、そんな言葉を残して去っていきました。
……そうですよね。人気のある誰かに選ばれるということは、選ばれなかった大勢の無念も背負っていくということ……けれど、それは私とうーちゃんが一緒に幸せになることでしか、あの人が選ばれてよかったと思ってもらえるくらい幸せになることでしか、納得できない無念でしょうから。
「……忘れるわけには、いきませんね」
意識を研ぎ澄ませれば、こちらに視線をちらちらと送ってくる人は大勢います。その目線の数が、私が納得させなければならない思いの数。
……とても多いですね。けれど、きっと皆さんにも祝福してもらえるように、私も頑張りますから。
「お待たせしました、リエさん。リエさんとの関係を問いただされて……遅くなりました」
思いふけっている間に、うーちゃんの片付けが済んだようで、そう言って私のもとにかけてきてくれました。
「うーちゃん、もうちょっとこっちに来てくれますか?」
「え? はい、それはもちろんかまいませんよ?」
無防備に歩み寄ってきてくれるうーちゃん。しっかりと立てるようになった足で床を踏みしめて、うーちゃんにもたれかかるように抱き着きます。
「リ、リエさん!? うれしいですけど、今はだめです! 稽古着って暑いので、汗がひどくて……臭いですから!」
「たしかに、少しだけ……けれど、こういう時でもないと、無防備なうーちゃんの香りなんてかげませんから。それに、好きな人の香りなんですから、匂いと言っても、嫌なものではないですよ」
「~~っ!?」
私の言葉に、なぜか顔を真っ赤にしてわたわたするうーちゃん。理由は……ああ、遺伝子の相性が良いと、相手の体臭を良い香りと認識する、というあの研究を知っているからでしょうか。
「よい、しょ……っ。ふふ、うーちゃんにも私の匂いは良いものだと思われていればよいのですが」
「当り前じゃないですか! すっっっっごくいい香りしますからね、リエさんは!」
お、おお、すごく強調しますね、うーちゃん。
「ふふ……うれしいです」
「……意味知ったうえで言ってます?」
「ええ。私たち、遺伝子レベルで相性いいんですね♪」
私の言葉に、ますます動揺するうーちゃん。ふふ……可愛い。
「うーちゃん、魔法使いに頼めば、私たちの赤ちゃんできるかもしれませんし、いつか相談してみます?」
「百合が途中で男体化、ふたなり化などするのは地雷」
「さ、咲子さん!? いつの間に……!?」
「リーリエ。やっぱり、一緒に帰ります? 本館の方で私たちを守るって話でしたし」
「り、リーリエ? それが、咲子さんの本名?」
「……加賀野咲子は、一般百合好き女子としての名前。リーリエは魔法使いとしての名前。結論を言うと、どちらも本名ではない。本名を教えるというのは、私たちの世界ではあなたになら殺されてもいいとか、それくらいのレベルだから」
「名前を知らないとかけられないまじないとかあるんですよね。呪いの類ですけど」
突然のリーリエにも動揺しない私。まあ、魔法使いなんですから神出鬼没でもおかしくないですし。大魔法使いですからね、リーリエ。
「で、どうします? うーちゃんの立場、改善したので車で迎えに来てくれますけれど」
「……じゃあ、お邪魔する。邪魔はしないけど。存分にイチャラブできるようなるべく気配消す」
「……咲子さん、そういうの得意そうですよね」
もうどこからツッコめばいいんだろう、という表情のうーちゃん。困り顔も可愛いなぁ、と思いながら、送迎駐車場まで押してもらうのでした。




