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もう、許せないところまで来ています

 はぁ、おいしかった……量は少なめでしたが、もともと小食なのと、質が良すぎるのとで十分満足できました。

 ……でも、みやちゃん帰ってきてませんね。結構長い時間食べてた気がするのですが……顔を洗うには、長すぎませんか?


「うーちゃん、みやちゃんどうかしたんでしょうか?」

「たしかに……彼女もお弁当でしたし、食べる途中でした。学食などに行っているとは思えませんが……」

「…………二人とも。様子なら私が見てくるから、そのままイチャイチャしていて。そんな二人の関係に萌えるから」


 …………? リーリエ、何か少し考えていたようですが、なんでしょう?


「……あれ、帰ってきた」


 ちょうどタイミングがあったのでしょうか。リーリエが廊下をのぞくと、そう言いました。


「みやちゃん、大丈夫ですか? 顔洗うにしては長かったですけど」

「…………ア…………うん、大丈夫。心配かけてごめん、リエ」

「顔色が先ほどより悪くなっていませんか? お弁当に何か悪いものでも……?」

「大丈夫! 大丈夫だから……ごめん、心配かけて」


 顔色は確かに悪いのですが、みやちゃんは椅子に座り、お弁当を食べ始めました。

 だけど、近くに来たからこそ、感じるものがありました。

 それは……先ほどまで感じなかった、人以外の気配。


「咲子さん……」

「……うん。分かってるけど……今は、なんとも」


 リーリエも気づいているようですが、何が起きているのかまでは分かっていないようですね……みやちゃんにいったい何が……?


「あー……なんだろ。なんか食欲ないや。作ってくれたのに悪いけど、のこそ……」

「……体調が悪いなら、保健室行く? 保健委員としてその勤めがあるけど」

「いや! そのー……そこまで大ごとではないからさ。気にしないで」


 いそいそと机といすを元の場所に戻すみやちゃん。戻し終えると、机に突っ伏してしまいました。


「……気をつけてみておく」

「そうですね、そうしてあげてください」


 リーリエも食事を終え、自分の席に戻りました。その間際に言ったのは、みやちゃんのことでしょう。

 うーん……昔なら動物霊に憑かれてしまった、とかあるのでしょうけれど、このあたりに自然がない以上、祟られるほど近くにいたということはないでしょうし、みやちゃんの性格から考えても動物霊に祟られるような行いをするとは思えません……。

 ……まさか、はるなさんが? 陰陽師は式神とかいう使い魔のようなものをもつと聞きましたし……。

 でも、そうだとしても、そうでなかったとしても。今はみやちゃんに私からできることはありません。リーリエが上手いことしてくれるよう祈りましょう……。

 心の中で手を組んで祈った時、ちょうど昼休み終了のチャイムが鳴りました。次は五限目ですね。何をやるのかは分からないですが……きっと何とかなるでしょう。

 学食に行っていたと思わしきクラスメイト達も戻ってきて、五限目の予鈴が鳴ります。


「お昼あとは眠くなりますが、眠らないようにしてくださいね。では、世界史始めましょう」


 世界史……そういえば、日本での歴史教育は日本について詳細にやるものと、世界全体のことをやる二教科に分かれているのでした。神聖ローマ帝国、どうして滅びちゃったのかやってくれるでしょうか。


「それじゃあ、今日は……十四日。このクラスで出席番号十四番は……」


 先生が授業を始める前の挨拶を主導する人を考えている時、さらなる異常が。

 殺気のこもった視線を感じます。

 まさか……みやちゃん?

 みやちゃんの方を見て、心臓が止まりそうになりました。

 まるで、深い、深い洞窟のように……真っ暗で、うつろな目でこちらをにらんできていたのです。


「ああ、金野さんでしたね。じゃあ、金野さん、よろしくお願いします」


 先生がみやちゃんを指名する。けれど、みやちゃんは変わらず、こちらを殺気のこもった、うつろな目でにらんでいます。


「…………? 金野さん? 金野みやびさん?」

「──うあああああああああああああああ!!!!」


 クラス中どころか、あたり一帯に響き渡るような大声で叫ぶみやちゃん。みんなが驚く中、みやちゃんはクラスの外へと駆け出して行ってしまいました。


「先生、心の病の可能性があります。保健委員として追いかけさせてください」


 焦りを隠しきれていない表情でリーリエが叫び、先生の返事を聞く前に駆け出していきます。


「ちょっと、加賀野さん! そうだとしたら一人で追っては危険よ! 皆さん、自習していてください!」


 少し遅れて先生も走りだしていってしまいました。


「みやびさん……どうしたんでしょう」


 心配そうにつぶやくうーちゃん。


「うーちゃん、耳をそばに」


 万が一にも聞かれないよう、ざわついているうちに話しておきましょう。


「さっき、顔を洗いに行ったとき、悪い動物霊に憑かれたのだと思います。吸血鬼がいるのですから、霊の存在も信じてくれますよね?」

「そんな……まさか、陰陽師……」


 え……? うーちゃんには陰陽師関連の話はしていないのに、何で知って……?


「うーちゃん、なぜそのことを知っているのですか?」

「……幼いころ、家族が陰陽師にリエさんを利用するための呪いをかけるよう依頼しているところを盗み聞いてしまったのです。最近、後継ぎにその役目が引き継がれたらしいのです……だから、最近様子のおかしいはるなさんがそうなのでは、と思って……だから、リエさんには教えたくなかったし、近づけさせたくもなかった……!」

「それじゃあ……うーちゃんがはるなさんに関して歯切れが悪かったのは……私が、今日知れた彼女に関してのことだったのですか……!?」

「どこまでお気づきになったかわかりませんが、おそらくは」


 そんな、もっと早くに相談していてさえくれれば……!


「うーちゃん、私たち恋人なんですから。不安に思うことがあれば話してください。これからは、隠さずに」

「……はい。私の判断ミスでした。まさか、リエさんが親しくなった相手まで狙ってくるなんて……!」


 悔しさから歯を強く食いしばるうーちゃん。気持ちは分かります……。


「……うーちゃん。放課後は、私、少し一人で行動します。大丈夫、全部終わらせてみせますから」

「……リエさんには、頼りっぱなしですね」

「いいんですよ。恋人を守るついでに、自分を守るだけですから」


 リーリエが聞いたらまた騒ぎそうなセリフだな、と思いながら、私の覚悟をゆるぎないものにするのでした。

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